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そのさん!

「ぷぎゃあ!?」

 いきなり断末魔から始まってすいません。だって今、大変なんですもの。

 敵は二人一組で襲い掛かってくる。武器はハンドガンやマシンガンなど、とにかく銃。当たったら死ぬってのはどれも変わらなそう。

 こちらと体力も限界に近い。魔法を使用する度に僕の疲労は溜まっていく。つまり連続使用すると、マラソンをしているのと同じだ。

 僕はマラソンは得意じゃない。

「はぁ、はぁ……っはぁ」

 疲れた。力が入らない。水が欲しい。魔法で出す水は質量保存の法則の問題で、この世に存在できる時間は二十秒だけ。飲んでも体内で消滅する。

「とにかく、とめぽさんかモグラの大将を探さないと」

 しかし、入り組んで入り組んで……。マラソンも苦手だけども、迷路も苦手な僕。

「……ここ、さっき通った」

 しかも三回も。ダメだ、完全に迷った。

 ああ、なにかいい目印になるものはないかな……。

「……」

 もう、疲れた……。とめぽさんについていくと、いっつもこんな危ない橋を渡ることになる。昔からよく頑張ったな自分。

 だから、そろそろいいんじゃないかな? そろそろ、自分の命を考えて、一つしかないし。

「……次、あったら」

 そう、次にあったら、僕は……弟子をやめる。もう、たくさんだ、こんなこと。もう――



 僕はいつの間にか眠ってしまったらしい。そこで夢をみた。

 僕は空を飛んでいて、左手にはなぜかカタツムリが。なんで?

 するととめぽさんが目の前に立っていて、僕もいつの間にか地面に立っていて。ここはとめぽさんの部屋の家の中。

 その時僕は、なぜか、不思議と……安心していた。きっとそのうち、僕に危ない命令でもするんだろうと思っていたけど、安心していた。

 とめぽさんが、笑っていたから――



「リョータ、起きろ」

 誰かに呼ばれて、僕は目を覚ます。冷たい床がいやに心地よかったから、離れるのがすこしダルい。

 声の主は、とめぽさんだった。この場所はどうやら、牢屋らしい。眠ってる間に連れてこられたのか。

「とめぽさん、いったいどこに行ってたんですか」

「いや、おまえが勝手に行ったのだろう」

 意見が食い違った。

 長い話し合いの末、僕が悪いという結論に至って、話を進める。

「ふぅ、まあ、いいです。あの、とめぽさん……」

「ん?」

 ……あの話は、ここを無事に抜けてからにしよう。それより今は、もぐら達のことを聞いておこう。

「あのもぐら達はいったい何なんですか?」

「あいつらは、『ふらば』という男が作った実験生物だ。そいつは、動物たちに薬品や魔法などを服用して改造し、それを野や町に放って実験データを採集している非道なやつだ。たとえば――――…………」

 要するに、とめぽさんの同業者の方ですか。僕の頭に、ビーカー片手に高笑いする悪の科学者的なイメージが浮かんだ。

 話を聞いていくと、そいつの目的が世界征服だと言うことを知らされた。やっぱり狙えるのか、世界。

「――――…………そして私は、やつの暴走を止めるべくして、こうして密かにやつへの対抗手段を練っていたのだ」

 なるほど。だから見た目危険で、本当に危険な生物の生産をしていたわけか。

 で、そいつらが言うことを聞いてくれないから、仕方なく僕に処分を任せていたと。

 今まで弟子をやっていたのに、まったく聞いてなかった話。いや、聞かなかっただけなんだけども。しかも話を聞いてるうちに、僕は弟子じゃなく兵士なんじゃないかなとか思えてくる。

「そんなに壮大なことをしてたのか」

 外聞は壮大だが、やることは小さい。だって相手の兵士はもぐらだし、侵略地は僕ん家の庭だし。

「……誰か来た」

 僕は人の、いやもぐらの気配を感じ取り、牢屋の外を見る。

「皇帝陛下がお呼びだ。おとなしくしていろよ?」

 牢屋の入り口を開け、僕ととめぽさんの手を後ろで縛り上げ、連れ出すもぐら達。

 皇帝陛下か。だから帝国なのか。などと呑気な考えなんてしてる場合じゃなかった。いったい、どうなるんだ?



「皇帝陛下、捕虜を連れてまいりました」

 深々と頭を下げるもぐら。その先には、ゴージャスな飾り付けの大きな椅子に座っている一回り大きなもぐらがいる。あれが親玉か。

「ようこそ、とめぽ女史」

 寛大な動きで、表面上は敬っているように見せるもぐらの大将。だけど、その腐った目は歓迎している様子は伝えていない。

 ちなみに、僕のことは知らないらしく、無視しているようだ。

「ほう、私はもぐら界にまで名が広まっているのか、光栄だな」

 とめぽさんはにこやかに語るが、目は笑っていない。むしろ怒りを発している。

 怖い……。

「とめぽ女史、あなたに伝言があるのですが……」

 もぐらの大将が言うと、とめぽさんは至極不機嫌な顔をした。どうやら内容はわかっているご様子。

「何度問われても返答は一緒だ。そう言っておけ」

 私も舐められたものだ。最後に小さく毒づいた。

 もぐらの大将は軽くため息を吐き、僕らを牢へ戻すよう、部下に命じた。僕らは再び牢屋に放り込まれた。

「さて、どうしましょうか」

 僕としては、とっとと脱走してあのもぐらの大将をぶちのめしたいところ。

 こういうときは、とめぽさんの不思議グッズを使用するのが一番効率的。

「私に聞くな。あのリュックと杖がなければ、私はただのか弱い少女だ」

 ……。開いた口が閉じません。実際に。

「なんだその顔は? 不満か?」

「いやいや、滅相もない……」

 ただのか弱い少女って……。か弱くはないし、少女でもないよ!

 まあ、日本国では言論の自由が保証されてますがね。

「私はまだピチピチの十七歳だ」

 なんて大胆なサバ読み!

「年のことはいいですから、これからどうするかを考えましょうよ」

 そう、まずはここから出る方法を……。

「あ、やっとみつけました!」

 おお! 敵にとっての思わぬ伏兵が!

 その長い胴体でどうやって見つからずにここまできたのかはわからないが、牢屋の外にはシーさんがいた。

「シーさん! ここから出してもらえたら助かるんですが。てか、なんとかして出してください」

 とりあえず要求。

「待っててください!」

 頼りにされたのがうれしかったのか、シーさんはうねりうねりと喜びを露にした。とめぽさんは部屋の隅で壁と対談しているようだ。

 シーさんはひとしきり踊ると、三回ほど首をひねった。

「……どうしましょう?」

 ああ、開け方がわからないのか。てっきり僕のことを忘れたのかと思った。

 あれこれと考えをめぐらせたシーさんは、ある結論に至った。

「せーの……えいっ!」

《ガシャン!》

 体当たりは、牢には通じないと思うのは、僕だけだろうか? その程度の強度なら、僕らは今ごろもぐらの大将の前だな。

「いったぁい……」

 当然だ。馬鹿かあんたは。いや、馬鹿なんだろうな。

 痛みにもがくシーさん。そして僕は、シーさんの体に付着した楕円形の物体を見つけた。

 あれは!

「シーさんストップ!」

 僕に言われて、シーさんは変なオブジェと化した。辛そうな体勢だ。

「そのまま僕のほうに寄ってきてください」

 シーさんは僕に言われるがままに、バランスをとりつつ、体勢維持のために震えながら器用に近寄ってくる。

 人間で例えるのなら、片手で背面ブリッジをしながら横に移動するようなものかな? たぶん。

「あ、の……はや、く……」

 僕はシーさんの体に手を伸ばす。楕円形の物体はやはり、もぐら達が持っていた銃だった。

 この人、僕の暴れながら通過した道を来たのか。体のあちこちにもぐらの毛や血、肉片などが付着している。

「よし、取った!」

 銃をしっかりと手に持ち、使い方を考える。たぶん、引き金を引けば……。

 ……。

「……!?」

 引いちゃった!? どうやら無音機構のようで、軽く空気が抜ける音がしたあと、シーさんの体に付いた縦筋の傷から血が流れ出る。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ど、どどっど、どうか命だけはご勘弁をー!!」

 いやぁ、非常に申し訳ない。

 隅で丸くとぐろを巻いて謝るシーさんを尻目に、僕は牢屋の鍵を銃で破壊した。それにしても、見張りがこないな。うん、都合はいいが不思議だ。

 見張りの詰所に来てみて、謎は解けた。

「ぐごぉぉ……ぐがぁぁ……」

 職務怠慢甚だしい。机に足を投げ出して、椅子に目一杯寄りかかり、大口あけて寝ている。僕はこういう不真面目にも程があるやつは、死んでもいいと思っている。

 銃口を静かに頭に付ける。

「さよーなら」

 ぱすっと見張りもぐらは、夢から天国に向かって直行便に乗り込んだのでした。とめぽさんとシーさんがなにやら青ざめた顔で僕を見てくるが、気にしない。

 見事に杖とリュックを取り返し、とめぽさんはフルアーマー形態に。いや、ただリュックを背負って杖を持っただけだけども。

 あ、一つ関係ないこと言わせてもらいます。もぐらを殺すの、けっこう嫌な感じなんですよね。あいつら人間みたいな形していますし。まあ、慣れはしましたが。

 殺人鬼って、こうして生まれていくんですね。

 そんなことよりも、早いとこもぐらの大将のところへ。

「ちょっと待て、リョータ」

 出発しようとする僕を、とめぽさんは声で制止した。何事かと振り返ると、とめぽさんはシーさんから距離をとり、なにやら呪文を唱えている。

 とめぽさんの呪文の詠唱が終わり、杖を一振りすると、シーさんが、軽い炸裂音と共に煙に隠れた。

「けほっげっほ!」

 煙は予想以上に広がり、部屋全体を包み込んだ。僕もとめぽさんもシーさんも、むせるむせる。やがて煙が収まり、僕は咳き込みながらもシーさんの姿を確認した。

 さっき使っていたのは、擬人化の魔法というやつだ。この魔法は、とめぽさんが猫やモンスター等の擬人化イラストに大変興味を持ち、自分でも描いてみようと悪戦苦闘したが、画力が小学生レベルだったために断念し、代わりに作ったものだ。

 ようするに、萌えを優先した非戦闘型の魔法。

 煙の中から現れたシーさんの姿を見て、僕は一言。

「か、可愛い……」

 流れるようなウェーブのかかった滑らかな茶髪。痩せすぎず、太すぎずのほどよい体型。元気っ子に見られる大きく見開かれた目。小さめの鼻。服はみみず色でありながらも、気持ち悪さを感じさせないフリフリのついたワンピース。

 ワンピースってあたりが、とめぽさんらしいや。

「いつまでもみみずの格好では目立つしな。こっちのほうが私も接しやすい」

 なるほど、みみずでなければとめぽさんも大丈夫か。

 シーさんは体の異変に気付き、ワンピースや顔、手足をさわって確かめる。そして何気なく裾をたくし上げ……!!

「と、とにかく、出発しましょう!」

 くまさん……じゃなくて、もぐらの大将のところへいざ出発! とめぽさんが嫌味な笑みを浮かべて見てくるが無視無視!

 いざ行かん、もぐらの大将のところへ。

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