そのに!
ええ、リョータです。僕は今、自分ん家に向かって歩いてるんだけども、遠い。元の大きさなら、たったの十歩くらいの距離なんだけどなぁ……小さいと非常に遠い。
今の僕たちの身長はだいたい十センチくらいだと思われる。僕の歩幅は約五センチくらい。大股で歩いてこれだ。隣の家がこんなに遠いものだとは思わなかった。
そうこう考えてる間に、門の前に着いた。元なら玄関まで三歩くらいのこの距離。今じゃ約四十歩くらいかな?
なんか小さいってのは大変だけども、いろいろおもしろいな。
「庭はこっから左に向かったところです」
僕が率先する。僕ん家だから。
庭に向かう途中、アリに出会った。普段なら豆粒程度の大きさだが、今は靴くらいの大きさはある。やっぱりまだ小さめ。
結構な距離を歩き、ついに僕の家の庭に到着。小さいと、見慣れた庭も違う世界に見える。
「気を付けてください、もうすでに奴らの領地です」
もぐら共、人ん家の庭を勝手に自分の領土にしてんのか。身の程知らずが。
「……滅殺」
突然の呟きに驚くシーさんととめぽさんを余所に、とめぽさんより譲り受けた魔法金属製の細剣を抜き放ち、モグラ塚を探す。
まあ、簡単に見つかるだろう。という考えは甘かった。
「見つからないなら、向こうから出てくるのを待てばよい」
半殺人鬼状態だと自分でもわかる僕に、とめぽさんは鎮めるように一言。
でも、待ってるだけじゃ来ませんよ?
「そのための餌があるだろう」
ああ、確かに。
「え? え?」
これから自分の身に何が起ころうとしているのかわからないシーさん。視線が僕ととめぽさんの顔を往復する。
「やーめーてー! ほどいてー! イヤー!!」
精神的に女性であるのか、シーさんは甲高い叫びをあげて解放要請。僕の個人的意見で却下。
S? よく言われるけど?
草陰に隠れて観察。シーさんは声枯らすことなく叫び続ける。少し酷い気もするが、仕方ないと割り切る。いや、なんかうねうね動くのが面白い。昔見た、音をならすとうねうね動く花のオモチャみたいだ。
自分でも自覚できるほどのSだな。
「へっへっへ、美味しそうな叫びが聞こえるな」
地面から唐突に声が聞こえたと思ったら、シーさんが静かになった。
地面がボコッと動いたかと思うと、ズルズルとシーさんが地面に沈む。再び叫びだすシーさんだったが、抵抗虚しく地面へと消えた。
僕らはそっとシーさんのいた地点に移動。地面には、隠ぺいされてはいるが、穴が開いた痕跡が残っていた。
「とめぽさん、地面に穴を開ける道具はありますか?」
「これを使うといい」
……ハンドスコップ?
「……軽い冗談だ、そう睨むな。ほら」
杖、ですか。
「アース系統の魔法を使えば穴の一つや二つ、簡単だろう」
確かに。ではさっそく。
弟子になった次の日から、教え込まれた魔法。初期呪文はあらかた使えるようにはなっている。僕は最近、アクア系統を専攻している。
「……はっ!」
杖で地面を軽く一突き。多少の地鳴りがして、穴が開く。今のはアース系統の魔法の初期呪文、アースストライク。地面を揺らすだけの魔法。今は元々から下が空洞だから、揺らすだけで開いたけど、きちんとした穴開け用の呪文もある。
その辺の草の先を穴に垂らし、それを伝って下に降りる。モグラの巣へあっさり侵入。
……穴、土の。そのはず。そう、モグラの巣に来たはず。間違ったって、こんな近未来的な全面鉄製の通路なんかに出るはずが……。これじゃあまるでSF世界だ。
「とめぽさん、最近のモグラはこんなに科学力があったのでしょうか?」
「愚問につきマイナス一点。あるわけなかろう」
なんのポイントがマイナスされたのかはさておき、この状況はいったい……。
「まさか、奴か?」
とめぽさんがなんかブツブツと独り言を始める。とりあえずフリーなその左手を――右手は顎に添えられている。とめぽさんの思考全開モードのスタイル――掴み、引っ張っていく。こうでもしないと、この状態のとめぽさんは動いてくれない。
スタスタとシーさんのいるところに向かって歩く。とめぽさんは今だに思考モード。
なぜまっすぐにシーさんのところへ行けるのかというと、アクア系統の中級魔法、アクアサーチの呪文を口ずさんでいるから。これは、自分の体液を付着させた物体の位置を察知できる優れ物。
シーさんには縛る時に僕の汗を付けておいた。僕もベットリになったわけだけども。
っと、そんなこと話してる間にシーさんが捕まっていると思わしき部屋の前に到着。呪文を唱え続けるのは相当疲れるから、わかればすぐに詠唱終了。
「……どうやって開けるかな?」
一、力に任せて吹き飛ばす。
二、開け方を探る。
三、とめぽさんが嫌がるだろうから、ここを素通り。
ふむ、一はあまり好きじゃない。僕はアクション派じゃないし。三は無視。
じゃあ、開け方でもボチボチ探しますか。
「……なんだ貴様はぁ?!」
……アクアハンマー!!
すべてを水に流しましょう。地底人のような二足歩行型モグラがビームガンらしき楕円形の物体を手に持っていたなんて……。しかも、二人組で巡回してくるとは。
ああ、なんか似てる。とめぽさんの創りだす生物に……。
「とめぽさん!」
「一刻を争うかもしれん、モグラの大将を探すぞ!」
珍しい。とめぽさんが声を荒げるなんて……。よっぽどマズい状況なのか。
「わかりました」
仕方ない、一でいくか。アクアハンマー!!
《バゴン!》
と盛大な音を立てて弾けとぶ扉。中を見ると、シーさんが扉の直撃を受けて気を失っていた。
あ、扉から離れてくださいって言うの忘れてた。
「……行きましょうか」
僕は自分のイメージを守るために、そこから逃げ出した。そうすればあの扉の件はモグラのせいになるはずだから。
自己中心的、と言えばおしまい。
「とめぽさん、モグラの大将はどこにいるんですか?」
それがわからないことには始まらない。
「知らん。しらみつぶしに探すぞ」
あてもなく探すのか……面倒な。第一広そうな穴の中でたった一匹のモグラを探すなんて。
それにしても、モグラが二人組で見回りにくるなんてどういうことだ? モグラは確か、縄張り意識の強い生物だったはず。一つの巣の中に二匹は住まないって聞いたことがある。日光に当たったら死ぬって話もなかったっけか? でもそれだと泳ぎが得意だって話と矛盾するな。
って、モグラのことを深く考えてる場合じゃない!
「いたぞ、侵入者だ!」
手に持ったハンドガンらしきものから弾を発射しながら距離を詰めてくるモグラ兵。鉄製っぽい壁や床に少し深めに弾痕がついてるから、当たったら痛いって次元じゃないことがわかる。
この歳でまだ死にたくはない。中学二年生男子、自宅の庭の地下にて射殺される。わけわかんないしシャレにならん!
となれば手段は一つ。
アクアピアス!
「なん……ぎゃああぁぁぁ!?」
モグラの断末魔。すまない、殺られる前に殺れってことなんだ。憎しみだけで殺したわけじゃない。いや、憎しみの気持ちも多々あるわけだけども。
とにかく、とめぽさんに指示された通り、モグラの大将を探す。モグラ帝国だから、モグラ皇帝かな?
「とめぽさん、行きまし……」
あー。はぐれた。