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僕ととめぽさん そのいち!

笑える表現が少ない気がする……いや、少ない

 僕の名前はリョータ。現役バリバリの中学二年生。かなり背伸びしたいお年頃。自分で言うのもなんだけど。

 僕は普通の人だった。あの人に出会うまでは。



 僕ん家の隣に、笹野さんという女の人が住んでいる。その人は、魔法使いだ。決して、僕の頭がおかしかったり、ヤク漬けで精神がイっちゃってて幻を見たとかではない。本当に使うのだ、魔法を。信じてはくれないだろうけど。

 その人は、自分のことを「とめぽ」と呼ばせる。変わった人だ。

 そのとめぽさんと僕が出会ったのは、小学校五年生の時。学校からの帰り道、公園の前を通りかかったときだった。

「……子供か。いや、妥協しよう。背に腹はかえられないし。おーい、そこの少年」

 呼ばれて僕は、上を見上げた。大きな木の枝に、女の人が逆さまにぶら下がっていた。薄い水色のワンピースを着ていて、裾の部分が捲れないように両手で必死に押さえている。

「少年、すまんが降りるのを手伝ってはくれんか?」

 僕はうなずいた。正直なところ、助けている途中に中が見えないかなと少々期待していた。

「どうすればいいの?」

 木登りは苦手ではなかったから、木に登って助けられれば見えるかも、などと考えていた。表情に出さないようにしていたが。

 しかし、返ってきた言葉は、僕の予想外の言葉だった。

「そこの杖を拾って、こっちに投げて寄越してくれ」

 そう言われて、足元を見る。すると、さっきまではなかったはずの立派な杖がそこにあった。先っぽに紅い玉がくっついた、いかにもな杖。

「これ?」

「そう、それだ」

 僕は少々残念に思いながら、その杖を拾った。意外と軽かったため、これなら僕でもあの人のところまで投げられると思った。

 両手で持ち、思い切り放り上げる。その人は片手を裾から離し、杖を掴んだ。勢いを付け過ぎたのか、杖は女の人の手を軸に回転、玉の部分が女の人の頭を直撃。

「っ……少年、覚えておけよ」

 この時僕は、ヘビにでも睨まれたかのように動けなかった。

 女の人は杖をくるくると得意気に回していた。次の瞬間、僕の目の前で不思議なことが起きた。

 女の人の体がふわっとなったと思うと、空中でくるりと半回転。そのまま地面に降り立った。この時僕は、そのワンピースの中が見えたのだったが、そんなの気にしている余裕はなかった。口をあんぐりと開け、女の人を呆然と見つめていた。

「少年、一応助かった。だが、忘れるなよ。頭は痛いしパンツを見られたのだからな。普通なら半殺しだ」

 僕は驚きから恐怖に感情が移った。そんな僕を哀れに思ったのか、女の人はため息を吐いた。

「だが、半殺しは次にあった時にしよう。私に二度と会わないことを祈るんだな」

 フン、と鼻で息を吐くと、杖の玉のほうを僕向けた。

「それと、今私が使った魔法のことは忘れてもらうぞ」

 そう言うと、女の人は杖を僕の目の前で一回転させた。僕はと言うと、こんな面白いものを忘れてたまるか! といった勢いで、女の人の後ろにある木をぼうっと眺めていた。

「さらばだ少年」

 杖を肩に担ぐと、意気揚々と女の人は去っていった。僕はと言うと、魔法にかかったふり――かかったことはないから、テキトウにぼーっとしてみた――をして、女の人がいなくなったのを見計らって走って家に帰った。

 家に付くと駆け込み、すぐに部屋に滑り込んだ。そして女の人の使った魔法を思い浮べる。

「……使えないかな、僕」

 でも、やってみようと思っても、やり方がわからない。テキトウに念じてみたり、跳んでみたりしたけど、やっぱり駄目だった。

 友達に話そうかと思ったけど、信じるやつなんかいなさそうだったから、やめた。

 次の日、祝日。休みの日は友達と山に虫を捕まえに行くため、朝から大張り切り。麦わら帽子、虫取り網、虫カゴ、水筒、おにぎり。全部準備し終え、サンダルを履く。

「行ってきまーす!」

 元気よく家を飛び出し、左に曲がる。すると、隣の家の笹野さんが新聞を取りに玄関に出ていた。ご近所付き合いはあいさつから。

「おはようござい、ま……す……」

 笹野さんの顔を見た瞬間、全身の血が冷えるのを感じた。だって、笹野さん、昨日の魔女さんなんだもの。

「おや少年、おはよう。また会ったな。おまえの家は隣だったのか、偶然だな」

 笑顔で語りつつ、どこからともなく杖を取出し、さらに一言。

「これも何かの縁。上がっていけ。“歓迎”するぞ?」

「いえ、えんり……」

 それ以上、言えなかった。だって、向けられた瞳が、拒否することを許していなかったんだもの。顔は笑ってるけど、目は真剣マジだもの。

 こくりとうなずく。僕に残された最後の選択肢。

「……おじゃまします」

 二度と戻っては来れない死地に赴く兵士の如く、僕は真っ青な顔でつぶやいた。

「なにもそんな悲しい顔をするな。たかだか半殺しだ」

 やっぱりですか。心の中で滝のように涙を流す。

「……と、まあ、冗談だ。そんな泣きそうな顔をするな」

 なら最初から冗談って言ってください。子供は信じやすいんですから。て言うか、あんな状況じゃ誰も冗談だとは思わない。

「言ったろ、これもなにかの縁。助けてくれたお礼だ、茶をいれよう」

 今考えると、妙なしゃべり方するな、笹野さん。見た感じ、うちのお母さんより若いのに。下手すると、お姉ちゃんくらいかな?

 そんなこんな考えていると、笹野さんはお茶とお菓子をお盆に乗せて持ってきた。

「ほら、飲め。ぬるめにしてある」

 有難い。僕は猫舌だから、熱いのは苦手だ。

「いただきます」

 お茶を二人ですする。おいしい。お茶のことはよくわからないけど、渋みがないまろやかなお茶だ。

「……あ!!」

 ことり、と音がした。隣を振り返ると、どうやら笹野さんは手を滑らせたらしく、湯飲みがテーブルの上に転がっている。お茶が床にもしたたる。

「ぞ、雑巾はどこだったかな」

 慌てる笹野さんに一言。

「魔法でなんとかできないの?」

 僕がそういうと、ピタリと笹野さんの動きが止まる。しまった、僕は魔法のことを忘れている、という設定だったっけ。

 冷や汗がダラダラでてきた。ゆっくり振り返る笹野さんが恐い。

「しょ、少年。今、なんと言った?」

 首がこっちに向くごとに、殺気とやらを感じる。恐い。はっきり言って、顔を合わせられない。

「い、いや、別になにも?!」

 無駄とわかっていても、嘘を吐く。笹野さんが近づいてくるのが、気配でも足音でもわかる。

 こ、ここ、コロサレル!!!?

「少年、なぜ、魔法を、知っている? わかりやすく、詳細に、私に教えろ」

 恐くて顔を合わせられない。でも、本当のことを言っても嘘ついても殺されそうだ。

 仕方ない。覚悟を決めよう。小学五年生の命、ここに見事咲かせてみせよう!

「えと、えと……忘れさせる魔法にかからなかったというか、杖をみなかったというか……」

 嘘は、吐いてない。杖を見つめなかったから魔法にかからなかった。

「……少年」

「はいっ!」

 死ぬ!! お母さん、ごめんなさい。僕、隣の笹野さんに殺されるよ……。

「私の魔法にかからないとは、大したものだ。気に入った。弟子にしてやる」

 ……はい? 今、なんと?

「聞いてなかったのか? おまえを私の弟子にしてやると言うのだ」

 ……ほえ〜!? いや、今のセリフなし。

 えー!? で、弟子って……。

「なんだ、うれしくないのか? だったら半殺しにでも」

 喜んで弟子になります。いや、して下さい。

 こうして、あれよあれよという間に、僕は笹野さんの弟子になった。

「おおそうだ、少年」

「はいっ何でしょう!!」

「私のことは「とめぽ」と呼べ」

 え? なんで?

「細かいことは気にするな、男なら」



 こうして、僕ととめぽさんの出会いは果たされました。

 それにしても、なんでとめぽさんはとめぽと呼べと言ったんだろう。中二の今でも、すっっっごい謎。この謎が解ける日は来るのだろうか?

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