表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

RPM

掲載日:2014/01/28


音ひとつない、静かな3LDKのリビング。


パラ、パラ、パラ。


黒い本革の分厚い手帳を開く音が、静かなリビングに響く。



ーー4月1日ーー

テレビでも雑誌でも僕の名前を見ない日はないだろう・・・。

今までも。これからも。


「奇跡の指先を持つ心臓外科医・成沢義巳。」

世間で僕はそう呼ばれている。


4月1日。長年の夢であった病院長の座に就いた。


何度かトラブルを抱えた時期もあったが、

これでまた僕の目標が達成された。

これで何不自由なく生活できる。

ただし女は見つかっていないが・・・。


この記念すべき日から、この新しい手帳に日記を綴るとしよう。

ーーー


成沢は毎日書かさず、その日の出来事や考えを

手帳に日記として綴っていた。



ーー4月10日ーー

日々忙しく疲労も残っているが、院長の座にずっといられるよう、

健康維持と体を鍛えるため、ランニングを始めた。

また不眠症も睡眠薬でカバーできてる。

不健康になっては元も子もない。



ーー4月16日ーー

最近決めたランニングコースで走ろうとしたら、

いきなりある女に声を掛けられた。


「すみません。もうRPMの会員ですか?」

その女はそう言ってきた。


RPM?


僕は何の事か分からなかったので、

その女に「RPM」について聞いてみた。


「Running Partner Mile」


2人でパートナー契約を結び、会員になると、

走った距離1kmにつき1マイルが貯まる。

そのマイルが2人合計100マイル貯まると、

100万円に交換する事ができるという・・・


何ともお得なシステムだ。


その女は、僕にRPMのパートナーになって欲しいと言ってきた。

普段ならこんな聞いた事もないものに興味を持たないが・・・


健康のためのランニングがお金に交換できる。


しかもその女は美人で小柄。

僕の好みだったのもあって、すぐOK。パートナーになった。


その日、その女の言う通り、名前とメールアドレスを教え、

代わりに女の名前とメールアドレスと年齢を教えてもらった。


「佐藤亜利菜・25歳」


もちろん全く知らない女。僕よりも10歳も年下だ。

その後、パートナー契約をし、

今日「RPM」の会員になった。


女も金もこれで手に入るなら、一石二鳥だ。


ーー4月23日ーー

亜利菜という女に出会って1週間が経った。

亜利菜との予定を入れ、再び2人で走った。

走る間に話を聞くと、忙しくてなかなかランニングできない僕の代わりに

亜利菜という女は、計8kmも走り、8マイルも増えていた。


2人合計で100マイルになったら100万・・・

僕にはその半分の50万が手に入る。


あの女が勝手に走って貯めてくれたら、

簡単に50万が手に入るのでは?

そんな悪魔のささやきのようなアイデアが浮かんだ。


話を聞く限り、あの女は、僕の職業を知って近づいてきた訳でもなさそうだ。

亜利菜の方からパートナーになって欲しいと懇願してきた事もあって、

僕の代わりにマイルをどんどん貯めてくれるだろう。


ただ、なぜ僕にあの時、

「直接パートナーになってくれ」とお願いしたのだろう?


きっと偶然・・・だろう。


ーー5月17日ーー

今日も亜利菜と走っている。

4kmお互い走ったところで、突然、亜利菜が立ち止まった。

どうやらあと6kmで100マイルに到達するという。


すると亜利菜がこう言ってきた。

「100マイル達成したら、義巳さんの家でお祝いしたい・・・恋人として。」


驚愕した。


まさか逆告白してくるなんて。

そして、亜利菜が更なる驚愕の一言を放った。


「恋人にしてくれたら、私のマイル分のお金もあげます。」


あの女は馬鹿なのか?

それとも僕の事が本当に好きだから言った言葉なのか?


困惑しながらも、ひとまずその場は

「一緒に100マイル達成できてから考えよう」ということで話を終わらせた。


亜利菜は、やはり馬鹿な女だ。

僕は、亜利菜と一緒に達成するつもりもないし、

恋人にするつもりもない。


せっかく貯めたマイルを全部渡すなんて・・・


僕には考えられない。

しかし100万円はやはり欲しい。


だから・・・決めた。


100マイル達成は、あの女にランニング距離を稼いでもらって、

達成後、恋人として我が家で祝い、

約束通り交換した100万円をもらって、

その後、適当な言い訳つけて別れればいい。


亜利菜は馬鹿な女だから利用して切り離すとしても、

まさか健康のためと思って始めたランニングが、金になるなんて・・・。


やはり院長になった僕に、風が吹いている・・・?


ーー5月19日ーー

RPMからの報告で、遂に100マイルを達成した。


今日は休日。

昨夜は、睡眠薬が効いたおかげでぐっすり寝れた。


今夜、100万円を持った亜利菜が我が家を訪れる。


今夜は長くなりそうだ・・・。

ーーー


5月19日。23時頃。

音ひとつない、静かな3LDKのリビング。


パラ、パラ、パラ。


黒い本革の分厚い手帳を開く音が、静かなリビングに響く。


フフ・・・。


嘲笑うような小さな声が、無音の成沢の部屋に響いた。


バタ。


ほとんどシャンパンが残っているシャンパングラスと、

飲み干した後で空のシャンパングラスが並んだテーブルの上に、

置いてあった黒い本革の手帳を閉じ、

その手帳を、茶色い鞄に入れ、立ち上がる姿がそこにあった。


佐藤亜利菜だ。


嘲笑いながら、これまでの出来事が綴られた日記を読んでいた。

そして、亜利菜は自分の鞄に成沢の日記を入れ、部屋から出た。


玄関に向かう際に、通り道にあったお風呂場を覗いた。

そこには全裸で風呂に浸かっている成沢の姿。

頭も含め全身がお湯に浸かり、呼吸も止まり、

まるで溺死をしているかのようだった。


そんな姿を見た亜利菜は、落ち着いた表情だったが、

両目から涙が少しこぼれていた。



10日後・・・。


「お母さん・・・。」

墓前で手を合わす女性がいた。佐藤亜利菜だった。


亜利菜は墓前で「成沢が死んだ」との報告をしていた。

晴れ晴れとした気持ちのような・・・

これでよかったのかと自問自答しているような・・・

複雑な表情を浮かべていた。



数時間後。

亜利菜は、とある喫茶店へ入っていった。

喫茶店へ入ると入り口から一番遠いカウンター席に座り、

マスターに話しかけていた。


「マスター、本当にありがとうございました。」

亜利菜は、茶色い鞄から白い封筒を取り出し、マスターへ渡していた。


マスターは、ミルクティーを亜利菜に出した。

マスターからのサービスらしい。


返却された白い封筒の中身を確認するマスター。

白い封筒の中には、何枚かの紙が束ねられた書類が入っていた。


何枚かの紙が束ねられたその書類の表紙には、

こう書かれていた・・・。


「RPM(Revenge's Plan to Murder)」


殺人者への復讐計画と・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 浮かれて自分のことしか見えていない人間が、地に堕ちるさまは見ていて面白いです。 [気になる点] 佐藤の復讐の方法や理由が明確に描かれていないところは、ただ「?」となるだけです。あえて描かず…
2014/01/28 14:42 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ