表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

恋患い

 最近どうも調子が出ない。近くの小さな病院で診察してもらったのだが、

「特に異常はありませんね」

 その一点張りである。不満もあるのだが確かに検査で異常は見られなかった。血液検査は正常値。レントゲンでも異常なし。逆にここから何か病に結び付ける方が難しい。

 頭がぼうっとする、胸のあたりが苦しい、食事が喉を通らない、ところが風邪でもない。



 電車を乗り継いでわざわざやってきたのは地域では有名な総合病院だ。何日もこの症状が続くものだから、さすがに不安になってこの病院に来た。さすがは大病院、近所の病院よりは未来的できれいでホテルを思わせる。受付をして小一時間ほど待っただろうかやっと自分の名前が呼ばれた。症状を説明した後、人当たりのよさそうな医師は少し考えて言った。

「なるほど、もしかすると、いや、そんなわけないか、でも」

 次の言葉を発したくない雰囲気で診察室に少しの緊張感が走った。もしや大病なのか、そう勘ぐってしまう状況ではあったが医師の言葉はそれを裏切るものだった。


「恋、かもしれません」


 ぽかんとしてしまった。そして思わず笑いそうになった。


「いや、最近増えているんですよ、ただそれが一番近いかと」


 医師によると最近患者数が増えているらしいとのことだ。でもまさか自分がそんな病にかかっているとは何とも情けない。恋なんて高校の時に日本史で勉強したぐらいだ。確か100年前くらいにその病気はほぼなくなったと聞いていた。そもそも昔は病気という概念もなかったらしいが。


「あまり公にはなってないんですが年に数人の患者がこの病院にもいらしてました。非常に稀なケースでありましたしそんなに重い病気でもないのでその都度対応していたんですが今年に入って一気に患者数が増えましてね。月に10数人いらしています」


 あと数か月もすればネットで大騒ぎになるに違いない。しかしほとんどブームみたいなもので終わる。そしてまた時がたつとそんなこと無かったみたいにみんな忘れてしまう。これも100年位前から変わっていないらしい。


「一応お薬出しておきますね。症状が軽いとはいえお苦しいでしょうから」


 薬、があるのか。

 一礼をして診察室から出る。思わぬ病名を言われたが、まだ完全に信じたわけではない。この時代に「恋」なるものが果たして存在しているのだろうか。


 今自分は29歳である、30歳になると国民皆婚姻制度により許嫁と結婚することが決まっている。もちろん自分にもその存在がいるがまだ会ったことはない。正直結婚には乗り気ではない、しかし世間体もあるし大体の人がこの制度で結婚する。元々は深刻な少子化でこの制度が始まったらしい、今から50年ほど前といったところか、これも日本史で習った。この制度に従わないものも中にはいるらしいがそんな人は万人に一人くらいではないだろうか。


 病院からの帰り道に考えてみた。この病にかかる出来事があったかどうか、驚くほど簡単に答えは出てきた。自分は食料品の販売員をしていてそこに二十歳位の女性がバイトで入るようになった。笑顔が魅力的で仕事で疲れた自分の癒しのようなものになっていた。原因とすればこの出来事くらいだろうか。いやバカバカしい、早く薬を飲んで寝ることにしよう。最近仕事が忙しかったから疲れてるのかもしれないし。

 

 でもやっぱり彼女を思うと胸が痛くなる。薬が効かないのだ。


 数か月たった頃からこの病は流行と呼べる状況まで広まった。かなり医療が進歩した現代ではおよそ30年前のインフルエンザ流行以来の出来事であるらしい。






「その後調子の方はどうですか?」

 再びあの医師を訪れた。でも「恋」はもう完治した。あのバイトの女性が先月で辞めた。それが関係しているかは今となってはわからない。今はあの時の何倍も心が苦しい。自分ではどうしようもできない。頭がおかしくなりそうで胸が張り裂けそうで、とてもつらい。


『後悔』という病気らしい。




 


 





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ