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十壱章 同志集結

 敏明の居た長屋を出発した彼は来た道を戻る。

 向かった先は言うまでもなく、自分達と老科学者を引き合わせてくれた占い師の所だ。

 占って貰った場所に行くと、やはりそこに全身包帯が印象的な占い師が居た。

 その男は元昭の顔を見るなり、声を掛けた。


「見事、仲間にしたようよな」

「そなたの占い通りでおじゃ。見事、博士を仲間に加える事が出来たぞよ。これも全て御主のおかげでおじゃ。礼を言うぞよ」

「左様か。なに、我輩は正確に占った。そして占いで見えた内容を御主に伝えた。ただ、それだけのことよ」


 元昭は目の前に居る包帯男を見て、改めて仲間にしたいと思った。

 確かに包帯占い師の能力には、目を見張るものがある。


(こやつは一体、今まで何人もの運命を見てきたのであろうか? もしかしたら麻呂達の未来も見えているのかもしれぬ。そうであれば、こんな良い人材を見逃すほど元昭は馬鹿ではないおじゃ。もし未来が見通せるとしたら……そうでなくとも占いの導きで、今後の活動に大きく前進できるおじゃ)


 ならば尚更、こちら側に引き入れねば……と元昭は自分に言い聞かせてから、意を決して占い師に言った。


「つかぬ事を伺うが……麻呂が、またここに来たのは他でもないおじゃ。実は、そなたの力を……」

「あい分かった。ついていこう」


 あっさりと包帯占い師は答えを返した。

 元昭が開いたままの口を閉じるのを忘れてしまった程だ。

 そんな彼を面白そうに見ながら、男は言葉を継ぐ。


「我輩を仲間にしたいのであろう? 喜んで引き受けよう。ここでの商売はもう潮時だったしな。お客は我輩の姿を見て逃げ出す者ばかりだった故、商売あがったりだ」

「ほ、本当に良いのか? 麻呂は……」

「みなまで言うな。貴様の目的は知っておる。この日野本を乗っ取るのであろう? そのためにはまず地盤固めとして、この摺河を掌握したいと思っていよう? ならば尚更、我輩の力が必要不可欠ではないか?」


 自分の目的を言い当てる包帯男に、元昭はただただ驚きを隠せない。

 やはり、ただの占い師ではないようだ。


「もう感付いているだろうが、我輩は占いだけでなく呪術等といった陰陽術に些かの心得がある。『そなたについて行き、手を貸すべし』と星からの言葉を賜った。故に我輩は貴様についていく事にする」

「さ、左様でおじゃるか」


 全て占いで物事を決めるのが、この占い師の信条なのであろう。

 動機が動機なだけに、もあるが呆気なく仲間になる事を快諾した占い師に元昭は驚きを隠せなかったが素直に手を差し出す。


「今後とも宜しく頼むおじゃ。え~っと……」

「そうよな。名前を言ってなかったな。我輩は木登晴伸きのぼりはれのぶと言う。まぁ、言い難いだろうから『導師』とでも呼んでもくれ」

「よ、宜しくの。木登導師」

「うむ。厄介になるぞ」


 晴伸は手を出して握手を交わすと同時に、白水と敏明が荷造りをして追い駆けてきた。

 そして元昭は2人にも今し方、仲間にした包帯導師を自己紹介してから一緒に玉虫屋へと足を進めた。


 ☆

 

「貴方は、なんという人を連れて来たんですかっ!?」


 仲間にした敏明と晴伸を引き合わせた瞬間、秀明は叫んだ。

 白水を仲間にした時のように反対の色を見せる黒衣従業員に、元昭は首を傾げる。


「何か問題があるおじゃ?」

「大有りですよっ!? よりによって藍沼さんをっ!?」


 秀明は元昭の後ろに居る老科学者を『ビシッ』と指を差す。

 指を差された敏明は『なんぢゃ?』とでも言いたげな表情を浮かべて首を傾げている。


「藍沼さんと言えば新見あたみでも有名なんですよっ!」

「有名ならば良いではないか」

「有名は有名でも悪い意味での有名なんです! ちょっと来なさいっ!」

「な、なんでおじゃ!?」


 秀明は元昭の襟首を掴んで、1階にある番台へと連れて行く。

 そして番台の受付台に入れている黒い小冊子を取り出し、白粉店主に見せつける。


「これを見て下さい」

「何でおじゃ。この黒い本は」

「奉行所が毎年更新して配布している黒冊名簿表ブラックリストです。ここに彼の名前や写真が載っているんですよっ!」

 

 秀明は黒冊名簿表を開き、1ページ目の目次に指を差す。

 その欄には確かに、あの老科学者の名前が載っている。

 その詳細が書かれている頁を捲ると、敏明の顔写真の他、次のように書かれていた。


《名前/藍沼敏明

 性別/男性

 危険度/乙(甲・乙・丙・丁の中で上から2番目)

 内容/新見の中でも『機械』と称する珍にして妙なるものばかり作っているが、その代物の大半は誤作動による自爆で周囲に迷惑を掛けている。最近の騒動では大掛かりな仕掛けを作ろうとして大爆発……彼の居住である長屋から半径五百米(500メートル)が爆風や爆音で被害を被った。それ以降、長屋周辺の者は彼を除いて全員退去した》


「おじゃ……彼に、このような経歴があろうとは」


 元昭は若干、驚いた表情を浮かべながら老科学者の欄を見続ける。

 秀明は目の前で黒い冊子を見ている店主に対し、忠告するように進言する。


「店主。ご理解頂けましたか? ですから、あの人を味方に引き入れるのは……」

「うむ。そうじゃの」

「分かって頂けましたか?」

「そなたの言いたい事は、よ~く分かったおじゃ」


 元昭の言葉に秀明は安心したのか自然と安堵の息を漏らす。

 しかし、白粉店主は黒衣従業員に冊子を返しながら、こんな事を言ってのけた。


「あやつには今後、誤作動せぬよう釘を刺しておくおじゃ♪」

「ちっとも分かってないじゃないですかっ!?」


 その言葉を聞くなり、秀明は手にしていた黒い冊子で元昭の頭を思い切り打ちつけた。


「ほげっ! い、いきなり何するでおじゃるか!? 痛いでおじゃっ!」


 思い切り叩かれたのか、額の白粉から地肌が見えて若干赤みを帯びている。

 相当痛かったのか元昭の目から涙が滲み出ており、叩かれた場所を手で擦りながら秀明に抗議する。


「これくらいじゃ物足りませんよっ! あんた、私が何を言ってるのか分かってないじゃないですか! あの藍沼さんという人を仲間にするのは反対だと言っているんですっ! 彼の作る機械とやらが、そんなに必要なのですか?」


 顔を顰めて問い詰めるように視線を向ける秀明。


「そなたは博士の作った物を見た事があるでおじゃ?」

「い、いえ。見た事ありません」

「実際には無いんじゃろう?」

「……何が言いたいのですか?」


 馬鹿にされたような言い方に眉を顰める秀明だが、元昭はそんなつもりがないという風のか『想像で理解するのは難しいじゃろうて』と言い直す。


「あやつの作る物は摩訶不思議でおじゃ。特に瞬間湯沸かし器とかいう代物は見事でおじゃ。薪を使わずに水を沸騰させる事が出来るおじゃ。薪代は大幅に浮くし、湯宿には必要だと思うおじゃ」


 元昭はなんとか敏明を仲間に引き入れようと、黒衣従業員に機械を導入する事への利点を並べて説得する。


「しかし、あの人の過去は……」

「だから何でおじゃ? 過去は過去、今は今でおじゃ。過去の経歴に捉われておったら前に進まないでおじゃるよ? 表向きは玉虫屋改装という事なんじゃから、それくらいの事をしても構わぬじゃろう」

「百歩譲って機械の必要性はあるとしても、誤作動が出るようでは……万が一、爆発したら修繕費も掛かりますし……」

「麻呂が言って聞かせるおじゃ。それに物事を成し遂げるには多少のリスクは必要でおじゃるよ。それに仲間にするよう麻呂に進言したのは、あの占い師の助言もあってでおじゃ」

「その占い師とやらも怪しいですっ!」


 秀明は敏明の隣に居た全身包帯男の姿を思い出す。


「いかにも怪しげな雰囲気丸出しじゃないですか」

「怪しいという理由だけで人を判断するでないおじゃ。人は見掛けによらぬぞよ?」

「そういう意味では店主も引けを取りませんよっ!?」


 確かに白粉を塗って貴族の衣装を着ている湯宿の店主が言っても説得力はないだろう。

 しかし元昭からしてみれば、あまりにも心外な言葉だったのか白粉店主は怒りを露わにして秀明に問い詰める。


「にゃんとっ!? そなたは麻呂の高貴な姿の良さが分からぬとなっ!?」


 それに対して秀明は真っ向から答える。


「分かりたくありませんっ! むしろ同類なんじゃないんですか!?」

「ならば良いではないかっ♪ それならば天才ということでおじゃ。ほほっ♪」

「馬鹿と天才は紙一重と言いますよね?」

「……黒沢よ……遠回しに麻呂を貶めてはおらぬか?」

「遠回しでなく直球です」

「おにょれ! 店主に向かって何たる暴言をっ!」

「暴言したくなりますよっ! ついでに暴力も振るいたくなりますっ!」

「さっき振るったではないかっ!」

「うるさいっ!」


 まるで子供の口喧嘩みたいに騒ぎ立てる2人。

 先に冷静に返ったのは言うまでもなく秀明だ。

 言い合いで疲れたのか、軽く息をしながら元昭に聞く。


「はぁはぁ……店主……見掛けで人を判断するな、と言いましたが……あの占い師の腕は信用出来るのですか?」

「ぜぇ……はぁ……む、無論でおじゃ……ぜぇはぁ……」


 元昭も疲れているのか秀明よりも深く息をしながら説明する。


「あやつは過去や未来を視る事が出来るみたいでの……陰陽術や呪術というようなものに長けておる。現に藍沼博士の居場所や、麻呂達が何を目論んでおるのかズバリ言い当てたおじゃ……じゃから何をすべきか分からなくなった時や悪い事が起こり得る場合、対策を立てやすくなるおじゃ……悪い話ではないと思うぞよ?」

「……本当に仲間にするつもりなんですか?」

「うむ。麻呂の目を信じるおじゃ♪」

「だから不安なんですよ……」

「ならば、そなたが麻呂の代わりに人材発掘をすれば良いではないか。それとも、そなたが探し回ったら、あの2人よりまともな人材が見つかるとでも?」

「うっ……そ、それは……」


 元昭の問いに秀明は言葉を詰まらせた。

 確かに自分が街中をうろついて探し回っても良い人材を見つける事は難しい。

 ましてや敏明や晴伸みたいな輩とは会う事はないだろう。

 元昭が連れて来た2人は得意分野を考慮すれば、玉虫屋経営にあたっては大きな戦力になる可能性はある。

 敏明は機械を導入する事によって、お湯を短時間で沸かしたり役に立ちそうなの機械を設置する事で、他の湯宿と差別化が出来る部分では大きな力になるだろう。

 晴伸も店内の占い師として配置すれば湯治の他に、白水とは違う方向での娯楽という意味で売上に貢献してくれるかもしれない。

 いつの時代も人は占いを信じる者が多いだろうし、店内で占いをするという企画は客人を呼び寄せるキッカケにもなるだろう。

 そういう意味では元昭の着眼点は大したものである。


(やはり天才と馬鹿は紙一重ですね……)


 秀明は心の中で呟いてから白粉店主を見る。

 元昭は、あの2人を仲間にする気満々なのか目を輝かせている。

 そんな様子を見て秀明は思う。


(私達は戦力を欲しているはずなのに店主は戦う人材よりも、1つの特技を活かせる者ばかりを集めているような気がしますね……)


 やはり選択は間違いだったのか、とも思ったがそれは違うと秀明は判断した。

 摺河を、ゆくゆくは日野本を手にするには戦力は必要不可欠なのは確かだ。

 ただ『戦力』と言っても戦える者だけを集める事が戦力ではない、と秀明は思っていた。

 戦場で言えば指揮する将軍が居ても、実行する足軽が居ないと話にならないし、その足軽や将軍の居る戦線を支える補給隊がいなければ1つの部隊は機能しない。

 それを当て嵌めて考えれば元昭という将軍の下、自分を始めとする若菜や敏明、晴伸といった足軽や補給隊は玉虫屋、強いては足川家を支えるという意味では必要不可欠なのかもしれない。

 一見、無駄に思える特技でも使い方次第によっては大きな戦力になるかもしれない。

 そう思った秀明は改めて尋ねる。


「店主……今一度、聞きますが本当に仲間にするのですね?」

「うむ。もう決めた事じゃからの。誰が何と言おうと麻呂は、あの2人を仲間にするおじゃ」

「そうですか……」


 やはり元昭は先代の頑固さを引き継いでいる様だ。

 これ以上、説き伏せても無駄だろうと判断した秀明は深い溜息をつき、諦めにも似た表情で元昭に言った。


「分かりました。藍沼さんと木登さんについては店主が責任を持つという事で賛成します」

「ほほっ♪ 恩に着るぞよ♪」

「どうなっても知りませんからね……」


 元昭は喜びながら、秀明は僅かに不安を抱いたまま地下1階の従業員室に戻る。

 中に入ると、


「小型蛍光灯ぢゃ!」

「あら凄い♪ 蝋燭の火無しで灯りが点くわ♪」

「貴様の勝負運は中々のものよな……ほとんど負け知らずの相が出ておる」

「本当ですかぁ?」

 

 敏明は自分の発明品を若菜に見せ、晴伸は水晶玉を見て白水の運勢を見ている。

 早くも打ち解けているようだ。

 元昭達が中に入ると、晴伸が口を開く。


「色々と揉めたようだが、なんとか了承してくれたようよな。黒いの、感謝するぞ」


 まだ何も言ってないのに、やはり言い当てられて秀明は驚いた。


「まさか、本当に見えるのですか?」

「時と場合による。見えるものもあるし、見えぬものもある。我輩は見えたものしか口にせぬ故」

「そ、そうですか。店主と色々話し合った結果、2人を仲間にする事が決まりました」

「今後とも宜しくな、黒いの」

「儂からも宜しく頼むわいな♪」


 晴伸と敏明は秀明に近付いて手を差し出すと、黒衣従業員は黙って両手を出し、2人と握手を交わした。

 こうして玉虫屋に新たな仲間が加わった。

 なんだかんだで資金確保&人材獲得は地道ながら、順調に進んでいた。

 もっとも人材確保に関しては、皆の目的意識はバラバラ一見、統率力がないように思える。

 しかし、これが全て元昭を中心に集まっているという事は確かであり、ある意味で纏まっているのは確かだ。

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