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九章 謎の星詠師

「はて?」

「ん~?」


 元昭と白水は頭をキョロキョロ動かして周りを見る。

 前方――誰もいない。

 右方――同じく誰もいない。

 左方――以下同文。


「誰もおらぬではないか。幻聴かの?」

「疲れてるんじゃあ~、ないでしょうかぁ~? 探すのはぁ、明日にしてぇ、今日は帰りましょうかぁ~?」

「そうしようかの。人材を見つけんといかんという強迫観念に迫られておるのやもしれん。じゃから幻聴が聞こえるのかもしれんの……早いけど今日は切り上げるかの」

「そうです、そうですぅ。そうしましょう~」


 2人は軽く頷いてから回れ右して玉虫屋に戻ろうとする。


「おい、こっちだ……前と左右は見て、後ろは見んのか? 白粉貴族と従者の小娘。こちらへ来るが良い」


 幻聴ではなく、明らかに自分達を呼んでいる声に2人は同時に後ろを振り返る。

 温泉街と住宅街の境の、裏道のような通りに1人の男が居た。

 橙色の大黒頭巾だいこくずきん作務衣さむえという強烈な印象感が強い服装だが、それよりもっと目立ったのが男の肌という肌に全て白い包帯が巻きついている姿。

 おまけに目から下の部分を隠すように黄色い布製のマスクを装着している。

 全身包帯男、しかも橙色と黄色という際立つ色の服。

 見るからに怪しそうな人、という枠を超えて色んな意味で怖そうな人だった。

 元昭達の視線が合うと、その男は右手で「おいでおいで」と、まるで死霊がするような手つきで、ゆっくりと手招きをした。

 その男の姿を見て元昭と白水は念の為『自分達のこと?』と言いたげに、自分自身に指を差すと包帯男は手招きしながら無言で頷く。

 間違いない、自分達は呼ばれている。

 自分よりも不気味な存在を醸し出している男に、元昭は少し怯えながら内緒話するかのよう小声で白水に問い掛ける。


(な、なんでおじゃるか……この怪しさ爆発の者は……まさか、これがそなたの言うておる変わった者でおじゃ?)

(あんな人ぉ、私は知りません~)


 耳打ちしながら白水は首を横に振る。


(じゃあ何故、麻呂達は呼ばれておるのか……)

(分かりません~。ですけどぉ、何かぁ、私達にぃ、用があるみたいですよぉ? 行ってみましょう~)

(正気でおじゃるか!? 明らかに怪しいではないか……)

(姿でしたらぁ、店主も負けていません~)


 恐怖心を抱く様子を見せず、白水は元昭に対して少し失礼な事を言いながら、橙色の包帯男へと歩みを進める。


「こ、これ……水岸……」


 元昭は怯えて行く事を躊躇するも、彼女がどんどん包帯男に向かって歩いていくため仕方なく彼もついていく。

 そして両者が男の前まで行くと、白水が口を開く。


「あのぉ、私達にぃ、何か御用ですかぁ?」

「先程も言うたであろう。何なら困っていそうな感じだと。違うか?」

「確かにぃ、困ってますけどぉ……失礼ですがぁ、貴方は一体ぃ、どこの誰ですかぁ?」


 白水の質問に包帯男は言葉にせず、右を指差した。

 そこには木製の小さな立て看板があり、2人はそれに目をやる。


『総合運……150鉛(約3000円)

 健康運………75鉛(約1500円)

 金銭運……100鉛(約2000円)

 恋愛運………20鉛(約400円)』


 そして値段表に書かれている最後の行に、


『星詠術…………1銅(約5000円)』


 とあり、その下に横文字で『星詠術・木登屋』と書かれていた。

 ここまで読み終えた元昭は、包帯男に視線を合わせて聞く。


「そなた、占い師でおじゃ?」

「左様。正確には星詠師せいえいし。つまり、星詠みだ」

「星詠み、とな? 何でおじゃ、それは」

「読んで字の如く『星を見て運勢を占う』ことだ」

「やはり占い師ではないか」

「ただの占い師ではない。そこら辺に居るような一般の占い師とは訳が違う、と我輩は言いたかっただけよ」

 

 随分と気位が高いのか、自信たっぷりな物言いだ。

 その包帯占い師の言葉に元昭は、


(最近の占い師というのは、こうも態度が大きいものなのかの?)


 と心の中で思っていると白水が前に出て彼にこう言った。


「店主ぅ。せっかくだからぁ、この星詠みの先生にぃ、見て貰いませんかぁ?」

「にゃぬ?」

「場所が分からないんじゃあ~、探すにもぉ、時間が掛かりますぅ。ここは1つぅ、藁にもすがる思いでぇ、やってみましょう。なんとなくぅ、その方が良いと思いますぅ」

「しかしじゃの……」


 元昭は白水の申し出に渋る態度を見せた。

 彼女の『なんとなく』という直観力は確かで彼自身も認めている。

 しかし今回ばかりは、疑うわけではないものの、さすがに慎重に動かないといけないと元昭は思っていた。

 ふと包帯占い師を見るが、見るからに怪しい雰囲気が丸出しで、信頼できるのかと考えてしまう。

 仮に占って貰うとしても目的は人探しだが、玉虫屋の……強いては日野本を乗っ取るために必要な人材探しで占いを利用するのは、どうかと思う。

 ましてや目の前に居る怪しげな人に占って貰っても説得力はないだろうと元昭は思っていた。

 すると包帯占い師は、いきなりこんな事を聞いてきた。


「貴様等は人を探しているのだろう?」

「う……うむ、そうでおじゃ……何故、それを?」

「その者は何か見た事もないものを作っておるようだな。そいつと会って、使えそうならば仲間に誘おうとしてはおらぬか?」

「ひっ!」


 元昭は占い師の言葉に戦慄を覚える。


「それだけではない。貴様は何かを成すために優秀な人材を集めたがっているようだ」

「な、何故そなたは麻呂の考えておる事が分かるおじゃ!?」


 ズバズバと自分達の隠し事を言い当てる男に、元昭は顔面蒼白になりながら勢いこんで尋ねる。


「言うたであろう? 我輩は、その辺の一般占い師ではないと。星詠みをすれば、大概のことは一目瞭然。全てお見通しよ。ヒヒヒッ」

「お、おじゃ~~っ……」


 男は面白がっているのか目を細めて、頭巾の奥から不気味な笑い声を発している。

 それとは対照的に、元昭の顔は驚愕に支配されていた。

 そんな2人のやり取りを見た白水は、


「それでぇ、その人は今ぁ、何処に居るんですかぁ? 仲間にするとぉ、良いですかぁ?」


 と聞きながら机の上に今日の稼いだ小銭をすべて出した。


「白水……まさか、そなた……」

「店主ぅ。今はぁ、彼の占いを信じましょう~。そうしたらぁ、たぶん~、うまくいくと思いますぅ」

「しかしじゃの……」

「彼はぁ、きっと店主の役にもぉ、立ちますよぉ?」


 白水の気持ちは既に包帯男の星詠みを信じているようだ。

 ここで反対しても話は一向に纏まらないだろうし、それ以上に占い師の星詠み能力は本物のようだ。

 元昭は1度、深い深呼吸をしてから白水の顔を見て頷いた。


「分かった。そなたの良きに計らえ」

「ありがとうございますぅ。それでぇ、どうなんですかぁ?」


 小銭の入った袋を占い師の前まで押しやると、男は袋の中身を改める。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ……ふむ。250鉛(5000円)分だけ頂く。あとは貴様に返そう。これで星詠みをしてやろう」


 占い師はそう言って金額を懐にしまってから、余った小銭の入った袋を白水に渡してから星詠みを始めた。

 まるで何か呪術を施すかのように両手を緩やかに振り回し、ブツブツと何か呟く。

 腕と言葉が終わると不意に2人の前に1つの水晶玉が現れ、元昭達が驚く間もなく水晶は鈍く光り始める。

 その光り輝く水晶の中に浮かぶ淡い映像を見ながら、占い師は元昭に語り始める。


「ふむ……そやつを仲間にする事は今後、貴様等が抱える望みに大きな前進を与える事となろう」

「ほ、本当でおじゃるか?」

「だが、この者がもたらすものは有益だけでなく不利も招く。その事を踏まえた上で会いに行くと良い。だが仲間になるだろう」

「さ、左様でおじゃるか。それで……場所は何処でおじゃるか?」

「ここより少し西の方角に少しボロい長屋がある。その長屋の1番大きな部屋に、探している者がおる」


 男の言う事は占いというより、むしろ予知や予言に近いものだ。

 しかし元昭や白水は、包帯占い師の発する言葉を何故か信じる気持ちになっていた。

 不思議と彼の言葉には信憑性があるように感じ取れる。

 2人はお礼言うのもそこそこに、目的地である長屋へと向かう。

 その途中、白水が口を開いた。


「さっきの人ぉ、占いというよりぃ、未来が見えるようなぁ、口振りでしたねぇ」

「未来というより全てが見えておる感じじゃの」

「でしたらぁ、あの人もぉ、仲間にしませんかぁ?」


 彼女の提案に元昭も頷く。


「外見は不気味ではあるものの、あやつの持つ能力は本物でおじゃるからの。今後、仲間を増やすには、あの者の力が必要不可欠になるぞよ。無暗に探すより、よほど効率的でおじゃるな。それに……」

「それにぃ?」

「麻呂達は言うなれば悪の組織みたいなものでおじゃ。そこの幹部には、あれくらいの彩がないとの」

「動機が不純過ぎますけどぉ、確かにぃ、言えてますぅ」


 元昭を叱る反面、あの占い師が仲間になる様子を想像した白水は楽しそうに微笑む。


「全てが見える、と仮定すれば喉から手が出る程の逸材でおじゃ。取り敢えず、まずはあの占い師が言うた長屋に行くおじゃ」

「はいですぅ」

 思わぬ人物から助言を聞いた2人は、期待感に胸を躍らせながら長屋へと向かった。

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