表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

6.よーく考えよう



『忌まわしいやつめ!失せろ!』


『この子のことを襲うつもりだったんだわ!誰があれを殺してよ!』


『ゴミ漁って…あーあ、カワイソー』


『ほら…あれ、危ないから行こう?』


『体押さえつけろ』


『暴れるな』


『長の家に忌み事を持ってきやがって』


『射れ』


『石を投げろ』



―――痛いよ、痛いよぉ…。


わたし、悪いこと、してないよ。ただ恋しかったの。


あの子が、この目を綺麗だと言ってくれたから、嬉しくて。


そこの子が、美味しいご飯をくれるから、嬉しくて……。



『馬鹿みたいに寄って来るからさあ、面白くて』


『物乞いに恵んでやったのにさ』



だれかあいして。


寂しいよぉ。痛いよぉ……わたし、何もしない。危害だって加えないから。


あいして。あいして……!



『そら、生き埋めにしてやれ』











「あっはははは!爽快爽快、もっと回れ!」

「あばばばばばばば!!」



車椅子ってこんな動きすんの?…ってくらいに激しい回転で廊下を過ぎてゆく。

遊園地のティーカップだってこんな回らない。


黒鴉クロエ、落ちるぞ」

「じゃあ捕まえてて!」


俺の膝の上、「きゃーっ」とはしゃいでおられる大魔女ベリーパティエール様。

黒鴉自身、俺の首に両の腕を回しているし、俺が変なことをしなければ多分大丈夫だろう。俺は黒鴉の細い体を(危ないから片手で車椅子を掴んでる)再度強く抱きしめて、階段に飛び出しくるくると回って(不思議と落下しなかった)踊り場に着地するのも堪えた。


「なんか腹減ったな」

「うん?そうだね―――あ、売店」

「金どうする?」

「ふふ、金も何も、此処はすでにニンゲンの居られる世界ではないからね」

「無銭飲食か……こういうとアレだけど、そういう漫画の中でのことやってみたかったんだ」

「ほう?では"追いかけてくる店主"はいるかね?」

「いらん」


最後は回転も緩やかに売店の前にたどり着くと、黒鴉は上機嫌に飲み物に手を伸ばした。


俺はお菓子の箱(あ、これ新作じゃね?)を……最低だがわくわくと開けてしまった。

だ、だってこの世界には法も何もないだろ、うん、法のある場所ではやんねーよ。


「おしるこ…うーんレモンティー…」


黒鴉はどれ飲むかに吟味中……お、パッケージのよりも美味そう。


「黒鴉、」

「んー?…むっ」

「どうよ?」


振り向いた黒鴉の口に押し当てて食べるように促せば、黒鴉はパッと嬉しそうに咀嚼する。「ふむふむ」と頷きながら、「おいひい」と幸せそうに言うから、俺も釣られて笑った。口に放り込んだ菓子がとても甘く感じる。


「次、これにしようぜ」

「じゃあ、…あーん」

「雛かよお前は」


そう言いつつポ●キー的なあれを咥えさせると、かりかりとレモンティーの蓋を開けながら齧っていく。


あとちょっとでチョコの部分が消えるというところで、俺は黒鴉の肩を叩いて見上げさせると僅かの所を、奪ってしまう。


微かに唇が触れたのがか、初めてのポ●キーゲームに照れてしまったのか、俺は誤魔化すように二本一緒に口に突っ込んだ。


「………肉まん食べたい」


ムードの無い奴だな、と思ったが。

黒鴉がプイッと顔を背けてしまったから少ししか見えないけど、赤い頬が黒鴉も照れたのだと教えてくれる。


(そういや、こういう青春満喫ゲームはしたことなかったな)


いつも仲良く食べ合いっこ分け合いっこしてるけど。


滅多に焦ったりしない黒鴉だから、その反応はとても可愛らしかった。


だから、うん、こうして抱きつくのも変じゃないよな。


「黒鴉―――!」

「!」

「次は何食う?」

「…じゃあ、せっかくだしそこの高いやつを頂こうか」

「よっしゃ、待ってろ」


躾のなってない子供みたいに売店を荒らして。

箱をこじ開けお菓子を一緒に貪って、最後は二人で「御馳走様でした」と礼をする。



「―――さてさて。いい加減、病院ここから飛び出そうか」

「おおー!」

「どうしようか…青髭城か白雪姫か。凍土か常春の地か」

「なんだ、その選択肢?」

「僕が旅した世界だ。他にも巡っている―――ふむ、やはり安全第一で」

「いや、全部行こうぜ!全部!」

「全部?」

「黒鴉が見た世界を俺も見たい!」

「…ふふん、可愛いお言葉だ。―――よかろう!いざ行かん凍土へと!」



黒鴉が宣言すると、車椅子が膝の裏を打って俺を無理やり座らせ、黒鴉は「てぇーい」と俺の上に飛び乗る。


今度は遊園地のティーカップにはならなかった代わりに、ジェットコースターのようにぶっ飛ばし、床が急に斜めに上がって下がって、俺と黒鴉は手術室の扉に突っ込んだ。



扉の向こう、はらりはらりと煌めく雪が、とても美しかった。











『生き埋めだ――!』


『火も投げ入れろ!』


『おら、暴れんな!』


『目を抉ってやれ!』



ひド伊よォ……痛い、ょ…。


アいしテよ……。



【まあ、可愛らしいお嬢さん、なんて可哀相な目に】


【そこまでされても愛を求める一途さ。あなたは魔女に至れるやもしれない】



ま、ジョ……?



【そしたらたくさんのニンゲンがあなたに夢中になる魔法が使えるわ】


【愛を乞うなどしなくてもいい】


【幾千の世界を渡り、愛でられるのも楽しいわよ】


【……だけど】



め、でる……。



【本質を見せてはならぬ。汝は汝も誰も嘘で隠せよ。破れば汝………】




――――愛して。



それが彼女の、魔女に変ずるまでの、強いねがいだった………。







けれど課されたものは「真を得られぬ」という枷。


そもそも、彼女には無理な話だった。………。






追記:


別作品の銀髪魔女(見習い)さんに課せられたものは「苦しみ」という枷。

「殺したい」という感情ねがいからくるもの。


そして××には「××を××ると死」という極端なもの。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ