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4.不思議の世界に連れてって!



魔女・ベリーパティエールに出来ないことは無い!



『本当?ああ、それならば、私を魔女にして!』


『ずっと、愛する人と永久に共に在りたい』



よかろうよかろう。


叶えて差し上げる。―――ああ、光栄に思え、幸運だと涙を流せ。

我こそは孤独の体現者。奇跡の具現。気まぐれ出鱈目、報われぬ黒のピエロよ!


さあさ迷える子らよ、魔女・ベリーパティエールを讃えよう!


僕らはあなたを愛すると、言っておやり。


そうすれば、僕はきっと八重歯を見せて笑うだろう。嬉しそうに、幸せそうに。











―――と、傲慢に言えども。



「……はっ、悪食め。共食いまでしたか」



黒の羽に埋もれかけ―――喉にこみ上げる気持ち悪さに廊下で寝転んでいると、黒鴉クロエは一度長く息を吐いた。



「しかしノルマ超えだ。長い旅に案内できそうだな。―――ん?」



医師と看護婦の騒々しい足音が聞こえる。


どうせ死神を喰いきれなかったゆえのものだろうが、アレを完全撲滅することは出来ない定め。しょうがない。


黒鴉は慌ただしいその靴の音を開幕の合図ベルの代わりにして、ずるりと羽が作る闇の中に落ちた。











「へあ!」

「え、へ、へあ……ああああああああああああ!?」



―――ちゃんと薬を飲んで、黒鴉を見送ったのは覚えている。


覚えているが、何でこんな全力疾走のストレッチャーに乗って……ああああ落ちる!振り落とされるぅぅぅぅ!!



「な、なんにゃんだよこれ!」

「ストレッチャーだとお教え奉る」

「知ってる!!」



しかも猛牛のような突っ走り方のストレッチャーの先々で、何かエライもんがその爪先を見せようとしている気がする。俺は情けなくも頭を低くしてストレッチャーにしっかりと捕まった。



「楽しかろう?君がやりたかったアリスごっこだ」

「愛と勇気と正義が跋扈するファンタジーな世界に行きたかったんです!」

「無い」

「ひどいっ」

「―――ほら、見給え。あの先にて世界はぐらりと変わる。しっかりと僕に捕まっておいでアリス」

「アリスじゃ…ふがががっ!」

「あ、すまない。羽が口に入っていたな。…さてさて、早速だがご注文は?君の望む世界だ、アリス」

「止まってくださいお願いします」

「ふむ。では休憩ついでにお茶でも」



パチン、と指を鳴らすと、俺と黒鴉は大変派手にストレッチャーから放り出された。

黒鴉は猫の如くしなやかに硬い病院らしいソファに着地したが、俺は無様に落下する。


「う、うう……」

「霖くん、お茶は緑茶でいいかね?」

「うん……ん?」


ひやり、冷たい感触だけど、何か違和感。


俺は暗闇にも慣れた目で"コップ"をよくよく見る。緑茶には異状ないが―――



「ビー…カー……」

「僕の魔法より生まれた物であるから心配ご無用」

「いや……いやいやいやいや!!普通のカップを寄こせ!嫌だぞビーカーとか!」

「雰囲気に合わせたのにーっ」

「合わせんな!」



無駄に男らしく飲む黒鴉に噛みつけども、まったく気にしないのはいつものこと。

俺は恐る恐る口をつけ―――心なしか自販機の物よりも美味しく感じる―――ふう、とちゃんと一息ついて、ようやっとこの状況に気持ちが追いついた。


(ちゃんと、約束守ってくれたんだ……)


みんな大好きファンタジーの世界。


何があるんだろう。剣と剣が交差したり魔法大戦があったりとか?魔王様を倒す勇者とか!


…あ、でもきっと見るだけかな…でもいいや。黒鴉と、一緒に。ううん、黒鴉のる世界に、俺も居るということが嬉しい。



「―――どんな世界がいい?」

「うーん…俺、黒鴉に任せる。黒鴉の知る不思議の世界がいい」

「ふむ……なるほどなるほど。君は昨今で流行の"巻き込まれるの大好き系男子"なるものだな?」

「否定はしない」

「ふふん、よかろうよかろう。ベリーパティエールが巻き込んでやろう」



黒鴉はそう言うと、毎度お馴染みの黒鳥の羽を蝶に変化させ、その蝶の群れに――まるで押入れから物を引っ張り出すように腕を突っ込んで、猫を出した。


いや、正しくは猫耳の。


「では、まあ適当に彼女の設定をしようではないか。

彼女は…名前は"ジョセフィーヌ"。なんやかんやのあれそれで一生懸命逃げている彼女を、君は追いかけねばならぬ。いざ立て若き騎士よ」

「お、おお…?」


人形のようにぴくりとも動かぬ猫耳少女。

白猫らしい耳としっぽに合う鮮やかな青いドレスとダイヤの輝きが美しい、サファイアが一際目立つティアラ。………あれ、俺、昔、こんなキャラを作って没にしたような…って、


「黒鴉!おま、また俺の没作品読んだな!」

「女に夢を持ち過ぎだと献言申し奉る」

「うるせー!」

「それもこれも君が"魔女生まれのKさん"作品を書かないのがいけないのだよ」

「扱い悪すぎるんだよ、チート一匹で山あり谷あり面白おかしく話を回すって難しいんだぞ!」

「むぅ……なれば僕が"Kさん"の始まりを書いてやろう」


すでに置いてけぼりの猫耳少女をソファに投げ捨てて(痛そう…)黒鴉は羽を手に取るや否や口づけて筆にと変えてしまった。


「先ほどの設定はナシだ」と呟いて、芝居がかった風に話を紡ぐ。



「"『我こそは偉大にして麗しき大魔女・Kクロエさま! 汝、俗世の人間よ、姫を攫わせはせぬ!』"」

「俺が悪役!?」

「"―――と、魔女生まれのKさんが宣言すると、彼女は。"」

「……?」

「"闇に消えたり!"」



ずるり。


ソファで転がされていた(扱い酷過ぎる)猫耳少女ジョセフィーヌに黒揚羽蝶が集ると、二秒後には姿形もない。


(はあ、つまり探せと、)


夜の病院で人(?)探しとか嫌すぎるが、黒鴉のことだから"本当の危険"は無いと信じている。


俺は「ふふん」と得意げな黒鴉の手を取り、



「"……対して人間は言いました。『ならひめを捕まえるよりも効率の良い手がある、』と"」

「ほう?」

「"居場所を知る"―――お前を捕まえる!」

「きゃあん怖いー!」



無理やり抱きしめようとしたが、流石に魔女、するりと体が蝶へと分解して―――今度は俺の背後できゃっきゃと笑う。


そしてつかず離れずの距離をお互いに保ち、もはや破綻した物語でじゃれあった。



(―――そう、理由なんて、筋書なんて、後で幾らでも弄ればいい。)



俺たちのすでに意味のないあらすじをご丁寧に綴っていた筆が床に落ちて、夜の病院に響く頃。


そこに俺の姿は無い。







つまり、二人でじゃれ合えればいいのです。


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