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3.人の気持ちは揺れやすく、後悔などたやすく、



某病院に、入院中のある中学男子がいました。


あと少しで退院出来そうなので、その日彼は上機嫌で珍しく病室を出ると、飲み物を二つ買いいったのですが、売店から出る際に不思議なものに気が付きました。


「痛いよおおおおお」


泣いてる子供の背後に、破れたゴミ袋のようなものが張り付いているのです。

後に知りますが、子供は交通事故多発地帯にて事故に遭い、軽傷を負ってしまったそうで……彼は何だろうと手を伸ばそうとしましたが、子供のご両親が傍に居るので躊躇われます。彼は見ないふりをしようと子供の背後を通り過ぎようとしたら、


「いっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっぱいいっ」


甲高い声でした。しかし、大きな声ではありません。


彼はそっと子供を見下ろしましたが、子供は「痛いのぉぉっ」と泣いてばかりです。ご両親はぬいぐるみなどを使って慰めていました。



数日後、彼は微熱と咳が続き、退院の日が遠くなりました。

しかも多少仲の良かった隣部屋の方が亡くなってしまい、彼は落ち込んでしまい、食欲もわきません。

清掃のおばさんがゴミを捨てる時もなかなか咳が止まらなくて、息苦しい中、何となくおばさんがゴミを大きい袋にしまおうとする姿を見ると、



あの時の、破れたゴミ袋がありました。



部屋から出されたそれのおかげか、彼はその日を境に体調も回復しましたが、親しい看護婦がぽろりと、「○○君は無事でよかったわぁ」と呟いたそうで、よくよく話を聞くと、あの子供は帰り道にまた事故に遭って死亡(この病院に運ばれたそうです)、清掃員のおばさんは急に自殺、他にも彼の周囲の患者が何人か体調を崩したり亡くなってしまったりで、病院内はとてもピリピリしていたそうです。


もしかしたら自分も……と寒気を感じながら看護婦を見送っていると、ふと、彼の病室の入り口から、ずるりと。



破れたゴミ袋が。





―――しかし颯爽と現る類稀なる美少女Kさんが窓から現れると、「やれやれ…しつこい子猫ちゃんだ」と呟き、「破ァ――!」と叫んで光弾を出してゴミ袋を灰も残さずに消したのです。


「もう大丈夫、この病院に巣食うアレは全部僕が駆除した。君はゆっくり体を治すことに専念したまえ」


艶やかな黒髪を梳かすと、Kさんは颯爽と窓から帰って行きました。


魔女生まれはスゴイ、彼は無事退院した後、私にそう教えてくれました。






「―――じゃ、ねーだろ!!何これTさん!?Tさんのパクリだろ!!」

「失礼な!これは麗しのKさんを流行らせようと…」

「ほら見ろTさんじゃねーか!ていうか魔女生まれって何だそれおかしいだろ!」


偶には読書でもしようと本を読んでいる俺からパソコンを借りて怖い話がたくさん載ってるサイトを見てたかと思ったらコレだ。


俺が無理やり消すと、魔女生まれのKさんこと黒鴉クロエはぶーたれた。勝手に奪われる俺の串団子(持ってきたのは弟)。



「この偉大なる大魔女ベリーパティエールよりも寺生まれがスゴイだなんて認めない」

「あーはいはい」

「む、疑っているだろうりんくん!いいかね、僕という存在こそは奇跡の具現であり、」

「笹団子食うか?」

「頂こう!」



俺が何となく「Tさん」の話なんてするから―――まあいい。未遂で済んだ。


俺は祖母からの手土産である笹団子の紐をぱちりと切ると、笹を剥いて黒鴉の口に入れてやった。当然ぴんぴん弄っていた串は俺が引き抜いてある。


「ベッドに落とすなよ」


俺は俺でお茶を飲む。

これでも病人。動いてないのに黒鴉みたいにたくさん胃には入らないからな―――いや、ああ、そうか。


「……お前、今日は珍しく一日居る気か?」

「んぐっ、…ふう、勿論。今日はこの"ゴミ袋"よりも酷いのが来るからな」

「分かるもんか?」

「当然だ。ここしばらく入院中の爺さん婆さんが多く亡くなったからな、何よりこの麗しの魔女ベリーパティエールの魔の気配に惹きつけられてジ●リ的なものが来るであろう」

「助けてくれKさん」

「任されよ」


冒頭のあの話は真実で、入院中の中学男子は当時の俺だ。

あの日、黒鴉は居なくて―――というのも、魔女は世界から異物として見られる故に、黒鴉は基本的に長く俺の傍にはいれないのだ。

たくさんの世界を行き来して最終的に俺の所に戻り、魔法で以て世界と自分を無理やり繋げるのだという。稀に異物に寛容な世界もあるらしいが、それはそれで歪んでいて住み心地は微妙とのこと。


この世界は拒絶反応が酷いらしく、自称大魔女のアイツでもガンガンMPが減っていくらしく、補うために本来必要ない食事を摂る。今のコレだな。

もしくは周囲の精気を吸って回復するらしい……そんな訳で俺の体が治り辛いのもコイツが理由でもあるわけだが、黒鴉なら俺の死神になってもかまわない。

まあ黒鴉にそんな気は無いようだけど―――周囲の精気を吸うのは食事よりも効率良いらしいが、それでも一日居ようとしたら病院の半数が死ぬらしい。


だが、唯一一日どころか二日でもこの世界に居れる方法がある。


冒頭の話にも出てきた、「破れたゴミ袋」を喰らうことだ。


「ふふふーっ、あれだけ溜め込んでいればとても美味だろう」


俺は黒鴉の影響で「抵抗力の低下」に遭っているせいか、通常の人間であれば見えないそれを見ること"だけ"は出来る。

黒鴉の説明含めてあのゴミ袋は―――死神、なのだと思う。

形状は基本がゴミ袋で、一定量に至ると分裂するタイプと巨大化して何らかの形をとるのに別れるらしい。

軽犯罪現場から殺人現場まで、"薄暗い"所を好み、またそこは苗床なのだそうだ。どんなに頑張っても死滅することは無いらしく、大体の世界に在る物なのだという。


世界によっては代替物が人間の命を奪うらしいけど。黒鴉曰く「シミ」という名の(別称あり)それは人間に取りつくと事故事件自殺病死と、死を招いて命を奪う。


黒鴉のような魔女にとっては死神どころか「御馳走」らしいけど。俺のようにある都合で"見えるだけ"の人間には危険なのだそうだ。しかも病人だし。

当然シミを退治する機関(それこそTさんみたいな集まり)があって、少年漫画的な日常を送る人間もいるらしい。話を聞いてwktkした。


あ、あとそういう人間(もしくは魔女の素質がある人間)には黒鴉の"異端"の気配を察することが出来るが、相当の被害が出ない限りTさん的な人たちは喧嘩を売らないらしい。

此処はもう黒鴉の"狩場"であるから、例の機関はスルーし続ける。



「……面白いよなあ」

「ん?」

「お前ら。なんていうか、"特別"でさ。物語の中の人物みたいだ」

「君もなりたいのかな?」

「ああ。俺も、黒鴉みたいになれたら……二人で色々遊べるなあ」

「……」

「そうだ、魔女ってどうやってなるんだ?この際小説のネタにする」

「何?ならば真に偉大なるKさんを出すことを条件に教えて差し上げよう」

「はいはい」



黒鴉の口に付いたあんこを指で取って舐めると、黒鴉は「素質があるとの前提でだが、」と前置きして、



「何でもいい。何か一つ、強い感情ねがいを持ち続けること」



何か、一つ。

……なんだそれ、誰でも出来そう……。


「恋情でも独占欲でも何でもいい。その一つの為に人生いのちを差し出せるか。それが重要なのだ。……まあ、ほとんどの子が見習いで終わってしまうが」

「見習いで?」

「そう。例えば亡くした恋人を取り戻したいと願うだろう?僕のような魔女の手を借りれば、"ある条件"をのみ不断の努力を誓うことで叶ってしまう。…いや、一時的にか」

「……」

「彼らはそれで満足する。何より魔女見習い程度であれば努力でなれるが、魔女となると難しいし。都合というものもある」

「そうなのか?」

「こればかりは天性のものと条件と運だな。僕が見習いにした少女でも、まだ二人程度しか可能性のある子に出会ったことはない」

「……お、俺は見習いで終わるかな?」

「君か?君は―――僕のせいで"条件"は整っている。素質は微妙だが僕の魔力に感化されて整いかけているし。君が本当に魔女に至りたいというならば、無理な話でもない」

「へー!」


嬉しい。


だって、なれたら。魔女に至れたら、俺は時間の止まった黒鴉の傍にずっと居られる。置いて行かれることも置いていくことも無い―――。



「なりたい。なあなあ、教えてくれよ大魔女ベリーパティエール様」

「初めて敬う気になれたのかね?しかし……気が進まない」

「えーっ」

「君は上辺の真実しか知らないからだ。……知れば僕を恐れて、会いたいとも思わないのだろう」

「そんな、」

「―――それに、君の親御さんに申し訳ない。"りん先生"のファン第一号としては、君の賑やか極まりない物語を一番最初に読めないのは悲しい」

「………ふんだ」



照れと悔しさでそっぽ向くと、窓に黒い切れ端が飛んでいくのが見えた。

―――もうそろそろ、なのかもしれない。



「……でも、そうだな、今回の"食事"が予想通りの収穫だったら、君を連れて行ってあげる」

「どこに?」

「ほら、小説を書いている間、ずっと言ってたじゃないか。『アリスになってみたい』って」

「……ファンタジーの世界に行きたいって言ったんだよ」

「一緒だ一緒。…だから、遊んだあとでも魔女になりたいと強く願うのなら、考えなくもない」

「おお!ほ、本当だな!?」

「……楽しみにしておいで」



ちゅ、と今日は子供らしいキスをされた。


俺もまた、小説を手荒くどかすと、黒鴉のおでこにキスをした。



ああ、俺ならば河童の世界に落ちたあの男のように、帰りたいとは願わないのに!









「ただわたしは前以て言うがね。出て行って後悔しないように」

「大丈夫です。僕は後悔などはしません」


僕はこう返事をするが早いか、もう綱梯子をじ登っていました。………



(抜粋:芥川龍之介 「河童」)


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