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11.泡沫と消える、



※本日二話目の更新です。





勇者は可憐でか弱いお姫様と結ばれる。


英雄は個性豊かな仲間に囲まれ、数多の試練を真っ直ぐな心で乗り越える。


剣を掲げ、最後は平和を取り戻す。みんなみんなハッピーエンド!



―――賑やかなんだ。孤独など知らぬほどに突き抜けて明るい。


でも人間は温かいのも冷たいのも大好きだ。どんどんと増えていく、俺の凍えた物語。



傲慢な王と成り果てた勇者は最期の最後にしっぺ返しを喰らう。「待ってくれ」その言葉は激流に飲まれる。王は罰として誰にも愛されず、愛した人が自分ではない誰かの手で幸せになるのを見るだけ。


英雄は物語の裏で人間に殺されるだろう。気高いまでに輝いていた物は泥まみれになり、打ち倒した魔女に哂われる。その魂はきっと、魔女のヒールの下。



「……俺な、両極端すぎて、あんまりよく思われないんだ」

「――――」

「ははっ、お前は好きか?熱心に見てくれるなあ」

「――――」

「俺なあ、昔は、勇者とか、英雄とか。そういうどこまでも真っ直ぐで力強い、苦しみになんて負けないひとになりたかったんだよ」

「――――」

「…でも、今は。魔法使いになりたい。…それもどこまでも悪い魔法使い。そしたら俺、どんなに汚いことや酷いことを思っていても、読者みんなは『当然』って責めないでくれるだろ。怒るけど、でも責めないんだ。それが当然の役だから」

「――――」


「……おれだって、弱音を吐きたいよぉ。…どうして泣き言をいったらダメなんだよお…」



薬はもうやだ。気持ち悪いんだよ。


母さんは嘘つきだ。死んでくれたら楽なのにって、どうせ思ってるくせに。


弟にひどいことしかできない自分がイヤだ。本当は、一緒に遊びたかった……。



「せめて、"魔女"が俺の所に来てくれてもいいと思うんだよ」


「命だってなんだってやるから。こんな、苦しいの。取っ払ってくれよぉ……」


「俺だって、………愛されたいよお……」



薬のせいで眠りに落ちる寸前。


そっと、耳元で囁く、柔らかい声。



【―――うん。そのキモチ、よく分かるよ】











「あ………」



黒鴉の胸に刺さったそれは、ぶわりと揺らいで黒鴉の心臓に染みこむ。


倒れ込んだ黒鴉は必死で胸を掻き毟り、異様に黒い血を吐いた。俺が訳も分からず背を撫で店主に恐れの目を向けているのも気にせず、黒鴉はもがく。


「う、うぅぅぅ……!」


ばしゅん。


気の抜ける音と共に、店主は萎んで消えた―――跡形もなく。


店には罅が入り、砂のようになって崩壊する。

俺は苦しむ黒鴉を抱き上げると、その場から逃げ去った。


(でも、これ、え?)


(ど、どうすれば、どういうことで、えっと、)


気の抜けた音で街中が賑わう。バラバラと崩れていく。


どういうことなんだ。異世界が突然?黒鴉が傷つけられて?黒鴉は一体何者なんだ。黒鴉はどうなってしまうんだ。


(黒鴉、黒鴉っ。いやだ、死なないでくれ―――!)


情けないことに、黒鴉の危機に涙が溢れてくる。

異常な世界、異常な黒鴉。その中で"正常"の自分。まるで俺が本来の異端のようだ。


崩壊する街は桜吹雪の代わりに雪が混じり、細氷ダイヤモンドダストは俺の背を追いかける。それがまた捻じれて桜吹雪になり、やがて焦げた紙切れのようなのが寂しげについてくるだけ。


頭が混乱した俺がたどり着けたのは宮だった。急いで上がり込むとまだ宮の人間は「機能している」。俺は「嘉夜!嘉夜!!」と怒鳴るように呼んだ。


だんだんあの気の抜ける音が聞こえてきて、俺は土足のまま部屋に入る。すると嘉夜の後ろ姿―――肩を掴むと、ズレた笑顔の嘉夜が、



「どぉ シ ま  ァぁぁ シた。禍?」



柔らかな微笑のまま、嘉夜の顔半分は膨らみ、そしてぱしゅん、と縮んで消える。


俺は過呼吸のまま黒鴉を抱いて駆け出した。宮の半分を、黒い何かが飲み込んでいる。



「く、黒鴉、待ってろよ、死ぬなよ……!」


黒鴉の爪と指の間には肉がびっちりと詰め込まれてる。

「ヒュー…ヒュー……」と気管がおかしい音がするから、いい加減何とかしないといけない。いけないのに……!


(駄目だ、追い、つか、れ……)


「黒鴉……!」


せめて少しでも長く。


俺は黒鴉に覆いかぶさるように、黒い波を受け入れた。


ぎゅ、と強く抱きしめていた黒鴉は、酷い叫び声をあげると、俺の目を隠して。





―――ぱしゅん。



腕の中のぬくもりは、泡沫のように消えてしまった。











―――俺は黒鴉に対し、ずっと疑問に思っていたことがある。


「なー。何でお前、俺の隠してた話、知ってるんだよぉー」

「ふふーん、魔女が知らぬことなど無いと知り給え」

「……部屋にガサ入れする警察みたいなことしてんだろ」

「まさか!僕は"正々堂々"君の手から読ませてもらった!……そして君程度の若人には『母親にエロ本を見つけられる』程度が相応しいほどに難易度が低いと申し上げ奉る」

「うっせー!」



なんだよ、もー……。


…………。…でも、絶対に読ませた記憶は無いんだけどなあ………。






次回は黒鴉さんの過去話になります(たぶん)


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