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恋愛学園  作者:
2/2

お互いの気持ち

━aru━


 イロハちゃんに道を訊き、やっと保健室に着いた。

 「この学校…ゼッテー迷子になる…」

 西華(せいか)学院もそうだったが何処の学校も階段がいっぱいあり、いろんな場所に繋がっている。

 ━今度案内してもらおう…

 そう思いながら扉をノックした。

 「はい、どうぞ」

 明るい女の人の声がした。

 「失礼します」

 扉を開けると俺は茫然とした。ベッドの方から変な声が聞こえる。

 ━この学校…なんかある…

 なるべくそっちを気にしないで先生に向き直る。

 「あら、あなたは…誰?」

 「今日転入してきた帝緋ていひ あるです。松岡(まつおか)さんが倒れたので連れてきました」

 先生は俺をマジマジと見つめながら周りをグルグルと回る。

 「うん、かっこいい…」

 「あの…今なんて?」

 先生は首を横にブンブンと振る。

 「いいえ。大丈夫よ、松岡さんはいつも保健室に来るから」

 「はぁ…」

 全然大丈夫とは言えないと突っ込みたかった。

 「じゃあ奥のベッドに運んでくれる?」

 俺はうなずき、松岡さんを起こさないように音をたてずに歩く。

 カーテンを開き、ゆっくりとベッドの上に降ろす。

 女の子を運んだのはこれが初めてだが、松岡さんの身体は思ったより軽かった。

 「…かわいいのにもったいないな、男子が嫌いなんて……」

 松岡さんの顔をジッと見ていた自分が恥ずかしくなり眼を逸らす。

 ━なにマジマジと見つめてんだよ俺!

 自分を叱責しながら松岡さんから離れようとした瞬間。

 くんっと服が引っ張られた。それに続いて寝言らしきものが聞こえる。

 「……行かない…で……」

 俺はドキッとした。急に鼓動が加速していき、顔が熱くなる。

 必死に服を引っ張り逃げようとするが手が離れることはない。瞬間的に無理だと悟った。

 そしてさっきよりも強く、服が握られる。

 「行かないで…」

 ゆっくり後ろを向くと、松岡さんが眼をうっすら開いていた。その眼には涙が溜まっている。

 俺は胸が締め付けられた。

 「あっ…」

 「お願い…ここに……ここに居て…?」

 そう呟いた松岡さんの手がかすかに震えていた。

 「お願い…」

 俺は逃げるのを止め、松岡さんの傍に行く。叩かれると思った。

 「ありがとう…」

 「いや…別に」

 返ってきたのはビンタではなく、“ありがとう”という感謝の言葉だった。



 あれからどれぐらい時間が経ったのだろう。気が付くと窓の外が赤く染まっていた。

 「あれ…俺……?」

 「起きた?」

 その声に驚く。

 「うわっ!」

 ガバっと身体を起こすと松岡さんがベッドの上で寝転がっていた。

 「居てとは言ったけど、寝ていいなんて一言も言ってないわ」

 そう言い俺を睨みつける。

 「す…すいません」

 咄嗟に謝ると松岡さんは笑う。

 「なに真面目に謝ってんのよ。そこは怒るとこでしょ?変に素直なのね、帝緋くんって」

 「…よく言われる」

 そう答えるとまた笑う。

 「反論しなさいよ。フフッ、本当に面白い。男の子が皆あなたみたいならいいのに」

 松岡さんはお腹を抑えながら起きあがる。そして伸びをした。

 「よく寝た!まぁ、授業はサボっちゃったけどね」

 ニコッと笑うその表情にまた鼓動が速まる。

 ━なんかさっきから俺…変だ。

 松岡さんの顔を見るたびに心臓が飛び出しそうになる。

 「どうしたの?」

 「えっ…いえ!なんでも!」

 俺は笑って誤魔化した。そして自分に言い聞かせる。

 ━女の子とあまり話したことがないから、慣れてないんだ。

 そう思うことにした。

 

 「もう行こう、教室。帰らなきゃ」

 俺はうなずく。

 


━yui━


 わたしは自分が自分じゃないような気がした。

 ━なんで或くんと普通に話せてるの?

 今までは近くにいることすら駄目だったのに、今自分は普通に傍にいる。女子に話すように笑顔で話せてる。

 ━頭でも打ったのかな?

 原因が分からないまま教室まで話して歩く。気のせいだろうか、心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 それに顔も熱い。

 ━熱でもあるのかな?

 そんな疑問しか浮かんでこなかった。

 或くんの方を横眼で見ると、顔が少し赤かった。

 ━風邪?

 あんな所で寝たからだろうか?

 その意味が分からないままわたしたちは教室に着いた。



 「あっ…」

 或くんが急に呟く。

 「どうしたの?」

 「いや…」

 口ごもる。そんなに言いづらいことなのだろうか?

 「あのさ」

 目線を鞄に戻したとき、或くんが口を開く。

 「寮って…どうすんだろうって思って…」

 「あっ…そう言われれば確かに」

 ここ、光恋学園は女子高なのでもちろん寮も女子寮しかない。男子の寮はない。

 「…詩織(しおり)先生に訊くしかないわね。準備終わった?」

 わたしが右隣を見ると或くんがうなずく。

 「じゃあ行きましょう、職員室。わたしが案内するから」

 「う…うん、ありがとう」

 そう言葉を交わし、教室を出た。



 職員室の扉を叩く。

 「失礼します。壱年伍組(いちねんごくみ)の松岡由維(ゆい)です。幾田(いくた)先生は居ますか?」

 「はい!」

 先生はすぐに反応して来てくれた。

 「どうしたの?二人して」

 「あの、帝緋くんは寮どうするんですか?」

 先生は眼を見開く。

 「忘れてたわ!そういえば荷物って何処に届いたのかしら!?」

 そう独り言を呟いて足早に自分の机へ戻っていく。わたしと或くんは眼を合わせた。

 「どうやら…先生も忘れてたみたいだね、俺のこと」

 或くんが苦笑する。それにつられわたしも笑う。

 「そうみたいね。影が薄いのよ、きっと」

 そんなくだらない話をしながら先生が来るのを待っていた。



━aru━


 それから五分後、詩織先生は俺たちの所に戻って来た。

 「どうやら、由維たちの寮に荷物があるらしいの。移動するの大変だからそこでいいかしら?」

 俺は思考が停止した。女子寮に一緒に暮らす…考えたこともなかった。

 松岡さんが否定する。

 「先生、何言ってんのよ!年頃の女の子と男子を一緒の部屋にする!?普通はありえないわ!」

 「分かってるけど…他に寮もないし……それにイロハちゃんたちは賛成してるし」

 俺は自分の耳を疑った。“イロハちゃんたちは賛成してる”ってことは…つまり。

 「イロハちゃんたちも同じなんですか?!」

 「えぇ。…とにかく校長先生もそれでいいといってるから。よろしくね」

 『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!』

 その後訊いた話では、俺たちの悲鳴は寮まで聞こえていたという。

少しづつですが話が動き出しました。

或はこれからどうなるのか、それは作者にも分かりません。

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