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立場逆転シリーズ

転生したら亭主関白な王子の婚約者だったので、調教しておきましたわ

作者: 黒の課長
掲載日:2026/10/09

「おいエリス! こんな不味そうな飯が食えるかっ!!」


 豪華な晩餐室に、ガシャーン!! と激しい破壊音が響き渡った。

目の前で偉そうに立っているのは、私の婚約者である第一王子ロイド。


 彼がドヤ顔でひっくり返したローテーブルの上からは、出来立てのスープや肉料理が床一面にぶち撒けられている。


「……何やってんだコラ」


 私の口から出たのは、貴族の令嬢らしからぬ地声の低い一言だった。

(あーあ……せっかくの温かいスープが台無しじゃん)


 私は元々、現代日本で気性の荒い職人たちを束ねてきた現場監督の女だ。

過労で倒れて目を覚ましたら、この『おしとやかで気弱』だったエリス令嬢に転生していたらしい。


 本来のエリスなら、ちゃぶ台返しをかました王子に怯え、泣いて謝っていただろう。

だがあいにく、中の人は筋金入りの気の強い女性である。


「は?なんだその口聞き方は! 妻になるもの、夫の機嫌を取るのが当然――」


「あ?」


 私は落ちていたスプーンを拾い上げると、両手で一気に折り曲げて見せた。

パキィン! と金属が悲鳴を上げ、綺麗に真っ二つに折れる。


「……ひっ!?」


「食べ物を粗末にする奴が一番嫌いなんだよね。おいロイド、床に散らばったスープ、拭けよ」


「な、なにを……俺は王子だぞ!?」


「王子だろうが人間だろ! 自分が散らかしたもんを自分で片付けられない奴が、一国の王になれると思ってんのか愚か者が!」


 ズカズカと詰め寄り、胸ぐらを掴んで顔を至近距離まで寄せる。

ロイド王子の顔から一気に血の気が引いていった。



……それからの教育(調教)は速かった。

「おいロイド、靴が揃ってねえぞ。やり直し」

「は、はいっ!」


「おいロイド、女は後ろを歩けだ? 前を歩く私の護衛もできないヘタレですって自己紹介か?」

「申し訳ありません! すぐに後方に立ちます!」


「おいロイド、私の紅茶の温度がぬるい。淹れ直してこい。あ、自分の分も淹れて一緒に飲もうね」

「喜んでお淹れして参ります!!」


 数週間も経つ頃には、威張り散らしていた亭主関白王子は影を潜め、私の足音を聞いただけで背筋をピンと伸ばして敬礼する「超絶優秀な忠犬」へと仕上がっていた。


「エリス……今日の服、とても似合っているよ。不手際があったら何でも言ってね……!」


「うん、上出来。やればできるじゃん」


 頭を撫でてやると、ロイドは嬉しそうに頷いた。

よし、これでこの国の未来も安泰だろう……亭主関白なバカ男を一人矯正してやった達成感に包まれていると、急に視界がグラリと揺れた。


(あ、コレ……元の世界に引き戻されるやつだ)


 体が浮遊感に包まれ、私の意識は急速に現代へと引っ張られていく。

最後に「あとの人生、楽しんでね」と、本来の気弱なエリスちゃんの魂にバトンタッチして、私の異世界滞在は終わった。



◇◇◇♢♢

「う、ううん……?」


 エリスはゆっくりと目を覚ました。

頭がすっきりと冴えている……どうやら、しばらくの間だれか凄く強大な魂に体を貸していたような、不思議な感覚だった。


「……あ、あの……ロイド様……?」

おずおずと目の前の王子を見上げると、エリスは昔の気弱な声で問いかけた。


その瞬間……

「ひぃっ!? す、すみませんエリス様!!」


ガタガタガタッ!! と勢いよく椅子を引いて立ち上がったロイド王子が、ものすごい速度で綺麗な土下座を決めた。


「な、何か失礼がありましたでしょうか!? お茶の温度ですか!? それとも私の歩き方が生意気でしたでしょうか!?」


「え……? え……?」


 冷や汗を滝のように流し、全身を震わせている王子。

かつて自分を見下し、「女は黙れ」と怒鳴っていた面影はどこにもない。


「私、何もおこ、怒っていませんよ……?」


「そ、そんな優しくしないでください! 嵐の前触れですか!? 拷問ですか!?」


「ロイド様、顔を上げてください……!」

エリスがそっと手を差し伸べると、王子は「ヒィン!」と短い悲鳴を上げて首をすくめた。


(……なんだかよく分からないけれど)


 気弱なエリスは、プルプルと震えながら自分に怯え切っている婚約者を見て、首をかしげた。


(……これなら、私でもやっていけるかも?)


 こうして、調教済みのビクビク王子と、元・気弱令嬢の、平和で立場が逆転した新婚生活が始まったのだった。



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― 新着の感想 ―
楽しかったです!(*^▽^*) こんな異世界転移あったらいいな♩ですね "王子だろうが人間だろ!" を、墨で書いて貼り出したいですヽ(´▽`)/・:*+. 夫婦は思いやりと支え合いですよね〜 撫で…
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