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転生聖女はワンコ王子の愛から逃げられない!~世界を救う前に私が食べられそうです~実は狼な王子に買い取られた私は、ブラック勇者パーティーで溺愛の標的にされました

作者: 唯崎りいち
掲載日:2026/02/04

 『大聖女の生まれ変わり』


 私、そう呼ばれる事に慣れてしまいましたわ。


「私は貴方に一目で恋してしまいました。貴方と同じ時代に生まれて、世界を共に変えられる喜びを神に感謝します」


 世界? 大袈裟ですよ? ワンコ王子。


 私は、この国の王子に心の中で思いっきりツッコミを入れてしまいます。


 表情は聖女の微笑みを崩さずに。


 大聖女なんて呼ばれていても、私はただの流れの大聖女で魔法なんて一切使えませんの。


 ワンコみたいに尻尾を振ってくれる可愛い王子にすら、なんのお役にも立てないんですわ。


「それでは、一緒に魔王討伐に行きましょう!」


 ん?


 王子が私の肩を抱いて、遠くを指さして言う。


「私は、魔王討伐中も貴方と一緒にいたくて、貴方のお父上に多額の手付金をお支払いしてあります」


んん?


「勇者として恋人として、遠慮なく大聖女様をこき使わせていただきますよ!」


 な、何ですの!?


 爽やかな従順わんこ王子かと思ったら、とんだブラック勇者パーティーのリーダー様ですわ!?


 私は、ただの会社員の生まれ変わりなんで、魔王討伐なんて、無理ですわ!


「貴方が嫌なら無理強いは出来ませんね。では手付金をお返しください」


 勇者王子が間髪入れず、領収書を見せながら言う。


 見たこともない数の『0』が並んでいますわ。


「まさか……、返せないなんてことは……」


 王子の目が獰猛な獣のように鋭く私を見る。


 ワ、ワンコではなく、狼です!


◆◇◆


 生まれた時に赤ちゃんにしては魔力量が多かったからと、『大聖女の生まれ変わりだー!』なんて父が言いふらしたせいで、本当にそんな扱いを受けているだけの、私です。


 魔法なんてものは使えませんわ。


 何もしてないのに、流れの大聖女として、贅沢三昧の生活が出来たから、親ガチャSSRの父には感謝していますわ。


 でも、詐欺ですわよね? お父様。


 王宮の一室に借りた聖女用の部屋には、いるはずの両親がいませんわ。


 『娘へ

   探さないでくれ。

    ファイト!』


 そんな紙切れが置いてあります。


 何でしょう? ゴミでしょうか?


 魔力だけの魔法も使えない私は、どうすればいいんですの!?

 

◆◇◆


 大広間で王子に紹介された勇者パーティーは、剣士に騎士に格闘家に、魔法使い。


 世界を救う勇者パーティーだそうですが……。


 回復役が居ませんわね……。


「僕が勇者であなたが回復の責任者の大聖女! 完璧な組み合わせですね!」


 王子が爽やかで人懐っこい笑顔を見せる。


 私の胸が高鳴る。


 王子のこの笑顔……、やっぱり前世で飼ってた犬に似てるわ!


「貴方は私がお守りしますから、なにも心配いりません。ただ私と共にいて下さい」


 いえ、回復を完全に私一人に任せるつもりでしょう?


 私の手を握って甘い言葉を囁くポチ……じゃなくて王子。


「何もしなくていいなら、私はお城で王子の帰りをお待ちしていますわ」


「え?」


 また王子の目が鋭くなって、獰猛な支配者の顔を覗かせる。


 ゾクッ、さ、寒気がします。


 で、ですよね〜!


 それにしても、守るとか心配ないとか言葉は立派だけど、具体性はないし、最初から私の回復を当てにしてるのに達成不能な目標ですよね!?


 スローガンだけは立派なブラック企業ですか?


 私はパーティーの面々をもう一度見渡した。


 ゴリゴリの筋肉剣士、寡黙な騎士、血気盛んな格闘家、そしてツンケンした魔法使い。


「このパーティー、回復役が私一人って、あまりにブラックすぎませんか?」


「えっ? 貴方は大聖女でしょう? どんな傷も癒せるからって、お父上に多額の……」


 お、お父様……。


 けれど、王子のこの純粋無垢さは「現場を知らない経営陣」の思考回路そのものです。


「王子! 『大聖女だからなんでも出来るだろう』は危険な思考ですわ!」


 この際、私が大聖女じゃないって事は、脇に置いておきます!


「よく聞いてください。私は『大聖女』ですが、私が倒れたら回復役がいなくなります! まずはこのリストにある『回復系アイテム』を揃えることから始めましょう。冒険はそれからですわ」


「大聖女の魔法が頼れないなら、何のために大聖女をパーティーに迎えたか分からなくなります!」


 剣士が言ってますが、何のためかは私が聞きたい。


 こっちは、いい迷惑ですわ!


「回復の責任者として、私が過労で倒れても、回る回復サイクルを構築する事を最優先とするのが魔王打倒への近道です! 回復薬を基本戦術にすることを提案いたしますわ」


「貴方の尊い考えは分かるのですが、貴方を得るために払った手付金で、この国の財政は切迫しているんです……」


 王子が言う。


「愛するポチ……じゃなくて、王子を傷つかせたくはありません。魔王に勝つためには、この戦術が最善策です!」


「あ、愛するって聖女も私を……!」


 真っ赤になって照れている王子はやっぱりワンコですわ!


 可愛い! そして、チョロい!


 世界を救う前に、まずは、過労死しない『ホワイトな職場』作りからです。


「では予算をください。大聖女として買い出しに行ってきます!」


「無理です! 本当にお金がないんです!」


 王子が叫ぶ。


◆◇◆


 王子が粘った結果、王様が出してきた予算は雀の涙ほどで、聞けば王子の装備も布のふくと鉄の剣という簡素なもの。


 そう言えば、RPGの王様ってそんな感じでしたわね。


「大聖女を付けてくれただけで、王家にとっては出血大サービスなんですよ!」


 と、明るく笑う布の服の王子が不憫です。


「聖女に予算は全てお任せします! 頼りにしていますよ!」


 内情を知れば知るほど、大聖女の役目が重くのしかかります。


 そのお金で、回復薬と装備を買った方が、よっぽど役に立ちましたのに!


◆◇◆


 城下町の道具屋で私は真剣に『やくそう』を見つめます。


 少しでも回復量の多いものを目利きして見つけなくては!


 命大事に! です!


 十個程の薬草を選んで、私は店主に使い方を聞きます。


 なるほど、傷口に直接この葉を束にした『やくそう』を当てるとあっという間に傷が治ってしまうと!


 ……どういう仕組みなのでしょう?


 葉っぱを束のまま当てる必要があるんでしょうか?


 試しに横にいた王子の小さな傷に、『やくそう』の葉の束から一枚だけ葉を取って当ててみます。


「せ、聖女! ち、近いです」


 と、何故か赤くなる王子は無視です。


 パァッ!


 一瞬だけ葉が光ると傷と共に葉は消えました!


「すごい! 貴方の能力で『やくそう』が効率的に使えるように!」


 ははは……、単に今まで道具屋が価値に気づいてなかっただけでは?


 この世界には、こういうものがたくさんありそうですわね。


 まあ、大聖女の力と思っていただけたのなら良しとします。


 詐欺はこちらの特技ですもの。


◆◇◆


 『やくそう』は煎じて傷口に塗る方が回復に必要な量をもっと減らせて、何度も使えるのでは?


 私は回復量を増やすための研究をまだ続けています。


 王子やパーティーの面々が腕が鈍ると軽く城外のスライム退治などをして怪我をして帰ってくるので、被験者には困りません。


 ……。


「出来ました!」


 私はついに『やくそう』一束から百倍の回復量を引き出すことに成功しました!


「ついに、やりましたね!」


 隣で王子がしっぽを全力で振っている。


 ポチ〜!


 つい王子に抱き付いて頬擦りしてしまいます。


 ギュッと、王子に強く抱き返されて、我に返ります。


「ポ、王子……! 嬉しくて、つい抱き付いてしまって、すみません!」


 しかし王子の腕がもっと強く私の身体に絡みつく。


「やっと貴方が僕を見てくれたのに離せません。僕のために、毎日遅くまで、ありがとうございます」


 そ、そう言えば、毎日遅くまで無給のブラック労働をしてしまいましたわ!


 いえ、お父様がお金を持ち逃げしたので、無給ではないのですが……。


 むしろ、薬草十個を百倍の千個分にしても全然足りない額ですわ。


「王子のためなら、私、何だってできますの」


 騙されてる王子が可哀想になって、ギュッと抱きしめながら、つい本音が漏れてしまいました。


「それは……! 貴方がこんなに素直になってくれるなんて、ご両親に温泉旅行を薦めた甲斐があります」


 ん?


「王子、私の両親の行方をご存知で?」


「はい、流石にご両親の前で貴方とイチャイチャするのは気が引けたので」


 んん!?


 そう言って真っ赤になっている王子の目はやっぱり鋭く私を見つめていて……。


 あ、これ、逃げられないわ。


「貴方の買った『やくそう』は、全部高品質で通常より二倍から十倍の回復量がありました。あなたは聖女の力を使った、目利きの達人なんですね」


 え? そう言われてみれば、目利きのたびに魔力が少し減っていました。


 え? これが私の大聖女としての力だったんですか?


 なんて地味な、縛りプレイ向きの能力……。


「私の事も、貴方は目利きしていましたよね? 貴方の忠実な僕であってますよ。一生、貴方をお守りさせて下さい」


「そ、それは……」


 確かに、王子の事は可愛くて従順なワンコだと思っていましたけど、見誤りましたわ。


 獣の目を持つ王子は、私を鋭く見つめて支配する。


「私には、聖女のいない未来はもう考えられないんです。側にいてくれますよね?」


 ゾクっと、幸せな束縛が私を包む。


 なんでもしてあげたくなってしまう王子ですから、ホワイトな働き方は自分で選ばなければいけませんわ。

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