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遊牧史 I 匈奴敗走す  作者: 神箭花飛麟


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2/5

西雄、飛躍す

紀元前1850年-河東の地・蒲阪

中原の要衝として古来から知られている地である。


西方は無限の大地が広がっているらしい。

そこを見ると実際にそう思える。

「舜帝、ご用件は何でしょうか」

伯益がしびれを切らしたのか、用件を聞いてきた。

「伯益よ」

「はっ」

「姓を与えよう。嬴と名乗れ」

「ありがたく」

舜は一切表情を動かさない伯益を不思議に思った。

「領地も与えよう」

わずかに伯益の表情が動いた。

「西を与えよう」

「御意に」

舜は西を眺め続けていた。

ここに、秦が生まれた。


紀元前260年-長平

「趙軍を退くと見せかけ誘い、伏兵をもって退路を断ち、遮断せよ」

白起は命じた。

趙軍は今まで籠城していた廉頗の手腕に敵ながら感心していたが、やはり軍人は命令で動く。

兵力で勝る秦軍に籠城を続ける廉頗に上層部は業を煮やした。

将軍は交代し、名将・趙奢の息子である趙恬になったが、廉頗よりも格段に劣ると白起は思っていた。

若気の至りで力押ししてきたので、兵を分断すれば楽に勝てる。

さっさと勝って趙を陥さねば。

「殿」

「何だ」

副官が聞いてきた。

「もし趙が降伏したらどうされるんですか?」

「多分逃げ帰るのではないか」

「おそらくだと、この大量の兵が趙に逃げ帰ると将来に相当な禍根を残すと思われます」

「なら、捕虜として働かす」

「それを持ち帰れるだけの兵力があればいいのですが」

「あるだろう。大王はやってくれるはずだ」

不安そうな顔をなおも見せる副官に、言葉を続けた。

「昭王なら、大丈夫だ」


愚かな兄だった。

昭王はいつも思い出す。

洛陽に行った時、大力の持ち主と力比べをし、そのまま膝を折って死んだ。

その時燕に人質としていた昭王は、趙王の計らいで秦に送られた。

即位に反対する者は多かったが、ずっと宰相として使うことになる魏冄たちの支援で、兄弟たちを出し抜いて王になることができた。

咸陽の都は大きい。

王として気付けば40年以上いる。

何かを考える時、よく兄を思い出す。

20代で強者と力比べなどして自由だった。

国の体制は凝り固まり、王が変わるくらいのことがないと、秦は飛躍できない。

子供や孫にも、あまり王として考えた時、めぼしいものはいない。

昭王は首を振った。

「大王!白起より伝令です」

「何だ」

「趙軍四十万は長平城に敗走し、白起軍はそれを包囲したようです」

まとめて勝って包囲か。白起に賭けて良かった。

昭王は右手を挙げた。

「丞相に伝令」

「はっ」

「国内全ての15歳以上の男子を動員し、長平に送る。私も行く」

「大王自らですか」

従者が思わず声を上げた。

「ここで、趙を潰す」


「白起よ、趙軍が降伏したらどうする」

副官と同じ質問を昭王が聞いた。

「それは悩むところです。捕虜引率部隊でも作って帰るべきですが、今の秦軍はそんな状況ではありませんし」

白起は悩んでいた。

今の兵力でも包囲が持つかかなり怪しかったが、なんと昭王が秦の全ての動ける男を率いて現れたのである。

兵力として大きくはなったが、趙軍がこのまま自壊して逃げられるにしても、降伏されるとしても、どちらも良くない。

「白起、視野が狭いぞ」

昭王が笑った。

「視野、ですか」

昭王が去った。

白起は全軍を眺め、趙軍が降伏した時のことを、彼にしては珍しく思案し続けていた。


「趙軍の一部が出てきました。彼らなりの精鋭のようです」

「白起に迎え撃たせろ」

趙軍は負けだ。

昭王は悩む白起に決断をさせたかった。

できれば昭王が責めを負わない形での。


「趙軍が降伏しました、殿」

「わかった」

白起は決断した。

「趙兵は今、何人いる」

「四十万足らずかと」

「巨大な穴を作れ。できるだけ早く」

「はっ」

副官は思案しつつ陣を出た。


鎖で繋がれた趙兵が恐怖に怯えている。

白起は右手を挙げた。

「全軍、趙兵を下に落とせ」

地が蠢いているように見えた。

これは仕方のない犠牲だと、そう思おうとした。

これからの趙攻略作戦に、捕虜に足止めされている時間などなかった。

それに、こんな大軍を捕虜にする兵力などもはやなかった。

大量の趙兵が、見つめてくる。

白起は踵を返した。


この戦いにより、趙は大きく国力を落とし、また秦が怨まれる源流を生した。

秦は、急ぎすぎたのである。


長平の戦いから、45年後。

紀元前215年-咸陽。

秦は、六年前、他国を全て滅ぼし、秦王嬴政は始皇帝と名乗った。

嬴政は預言書を見ていた。

「盧生よ、これは真か」

「おそらく真実であろうと思われます」

方士の盧生が差し出した預言書「録図書」をもう一度見る。

”秦を滅ぼす者は胡なり“

胡は匈奴以外にない。

嬴政は右手を挙げた。

「北方の蒙恬に伝令」

「はっ」

従者が答えた。

「匈奴を大軍を興して討て。黄河の向こうまで追い散らせ」

「御意」

「その後、各国が残した北への防壁をもって連結、修築し、長城と名付けよ」

「はっ」

嬴政は北を眺めた。

「胡、か」


紀元前215年-上郡。

蒙恬の現在の対匈奴本拠地である。

蒙恬は命を受け、進発した。

30万。

秦が天下を統一してなお、これほどの大軍を動かせるのは、始皇帝の絶対的な権力があればこそだ。

兵站、糧秣、武器。全てを整えるのに1ヶ月を要した。

「将軍、準備が整いました」

副官の声に、蒙恬は頷いた。

北へ向かう。

匈奴を討つ。

それは李牧がかつて成し遂げたことだ。しかし李牧は趙のため、限られた兵で戦った。

蒙恬には秦、いや中華の威光がある。

「出陣する」

30万の軍勢が、北へ動き出した。

地平線まで続く軍列。これを見れば、どんな敵も恐れをなすだろう。

匈奴など、すぐ殲滅できる。

蒙恬はそう確信していた。

旗が風にはためく。

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