09 怨念と悪意
[おい、デイジー。聞こえるか?]
[・・・・・・]
[おい、デイジー。呑気に寝てるんじゃない。聞け]
[なによ、うるさいわね。このままこの悪魔を流産して死ぬんだから、静かにして]
[おやおや、悪魔とは酷い言われようだな]
[なによ・・・あいつの子よ・・・悪魔だわ]
[いやーー種はあいつだけど、血肉を与えたのはデイジーだろ。確かにこのままじゃおまえは死ぬけど・・・俺に手伝わせろ]
[助かる。すぐに殺して。先ずこいつを!それからわたしを]
[いやいや、そうじゃない。手伝いたいのは復讐だ。滅ぼしたいだろ]
[滅ぼす?]
[あぁ滅ぼすんだ。この国を・・・]
[滅ぼしたいけど・・・あなたは誰?]
[怨念が集まったもの。城なんてところは恨み辛みがたくさんあるんだ。それが集まったのが俺。それでな、その腹の子の体をくれ。俺はそのなかに入る。そしたら、デイジーがそれを育ててくれ。二人で復讐しようぜ。ただ死ぬなんて勿体無い]
[なるほどね。そうね、あいつは種だけ・・・怨念をつくり育てるのはわたしか]
[いいね。じつにいい。そうとなればとりあえず、元気になれ。そのうち俺が指示を出すから・・・いや、好きに動け・・・とりあえず、もう一回寝ろ]
「銀灰妃はお休みですか?」と宰相が声をひそめて医者に尋ねると
「はい、よくお休みです。夜中にかなりうなされて心配いたしました・・・ですが、強いお子様です。持ちこたえられました。これは妃殿下というよりお子様の力でございますね。生まれたときから重い責任を要求されるに値する強いお子様でございます」と医者が言うと宰相は
「一安心ということでよろしいのでしょうか?」と更なる肯定の言葉を求める。
「はい。お子様も妃殿下もお体は安心です。できれば妃殿下のお心の心配をしていただきたいですね」と医者が言うと
「はい、進言いたします」と言うと宰相は歩み去った。
[おい、起きろ。デイジー。デイジーは変か。ママ]
[あっ夢?]
[そう思ってろ・・・でも起きてなにか食べろ。怨念と悪意だけでは腹は膨れん]
「もう・・・」と言う自分の声でデイジーは目が覚めた。
「お寝覚めですね。妃殿下」と言いながら医者は背中に手を当ててデイジーの体を起こした。
「しばらくは安静にして下さい。でもお食事はきちんと」
「えぇわかったわ。家族の葬式はいつ?」
「まだ、知らせがありません」
「確認して下さい」とデイジーが言うと
「そうですね」と言うと医者は侍女に目で合図した。侍女は部屋を出て行った。
「お食事をどうぞ」と医者はスプーンを渡した。
スープを食べているとお腹の子供が喜んでいると感じた。自分の腹の中の存在が心強かった。
戻って来た侍女は医者を外に呼び出した。しばらくして戻って来た医者は
「もう少し眠ったほうがいいですね」と薬湯を差し出した。
横になったデイジーに掛ふとんをかけると医者はそっと部屋を出た。
[おい、予想しているだろうが、適当に葬式して埋めたみたいだぞ。さすがに墓はあるがな・・・復讐はたっぷり、盛りだくさんに決定だな]
[えぇもちろんよ。誰も逃さない]
[そうだ。デイジー。ママ。一人じゃないからな]
[ママね]
[そうだ。ママ。葬式はあきらめろ。そして庭に墓を作ればいい]
[・・・・]
[泣けばいい。家族を殺されたんだ。泣くに決まってる]
夢の中でエミリーは母にしがみついて泣いた。父にすがって泣いた。ウィルを抱きしめて泣いた。エミリーとウィルを父と母が抱きしめた。泣きながら復讐すると言った。優しい両親に咎められるかとビクビクしながらの誓いだったが、三人ともこう言った。
「いいじゃないか。わたしもエミリーのために復讐するぞ」
「もちろんだとも、娘を泣かせたやつらに仕返しするよ」
「姉さま、やるよ復讐。あいつら許さない。姉さまを泣かした。僕から姉さまを盗った」
「そうだよね。わたしから家族を盗った。やつらだわ」
[ママ、勇ましいな]
[・・・・・]
明るくて目が覚めた。
朝?ふっ!どれくらい寝た?家族とたくさん話せる程度の時間かな?
起き上がるとベッドから降りてお腹に向かって
「おはよう」と声をかけた。
朝食が済むと庭に出た。手入れの行き届かない庭だ。隅には石が転がっている。それを三つ並べた。父を真ん中に母とウィルだ。花を摘むとそれぞれのまえに置いた。
石を優しく撫でながら
「楽しみね。楽しみね。楽しみね」と何度も呟いた。
それから、デイジーは家族のことを口にしなかった。いつものように図書館へ行き部屋で本を読んだ。
借りて来た本を声を出して読み始めた。大人が読むような外国の地理の本だったり、釣りの本だったり、読む本はいろいろだった。
それからお腹を撫でながら
「楽しみね。もうすぐね」と囁いた。
ある明け方、雨が降り出した。デイジーの陣痛が始まった。
雨はやまず、医者はずぶ濡れで銀灰宮にやって来た。雨は一晩中続いた。
そして雨の音と雷のなか王子が生まれた。
デイジーの隣りに寝かされた王子の金髪を朝日が照らしていた。
王子は金髪と国王と同じ青い目を持っていた。
金髪は王妃の色だ。
[俺はあの二人のそばに行くからな。応援してくれ]
[そばに?いいけど・・・えぇ期待してる。楽しみにしてる]
「なるほど、やはり我が子は正妃が育てるほうがいいな」と言う国王の声にデイジーは目を覚ました。
「今、なんとおっしゃいましたか?」とデイジーが言うと
「二度、言えと言うのか?」
「・・・・」
「ネズミに子育ては無理だろうから、王妃が育てると言ったのだ」
「・・・・」
その間に王子を乳母が大事に抱き上げた。乳母は護衛に守られて無言で部屋を出て行った。
「ありがとう、銀灰妃。おまえは役立つネズミだ」と王は言って部屋を出て行った。
[ママ。待ってろ]の声を聞いたデイジーは口元に笑みを浮かべたままもう一度眠った。
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