06 銀灰宮 第三者目線
エミリーがデイジーになったとき、まわりは思った。陛下はそんなにも第二妃が嫌だったのか・・・デイジーと言う名前を与えるほど、嫌だったのかと・・・
デイジーにはなにをしてもいい。王宮の者はそう思った。
国王は医師の決めた日に銀灰妃のもとを訪れる。
早めの夕食を一緒に取り二人で部屋にこもる。それから真夜中過ぎに陛下は、最愛のエミリーのもとへ帰る。
一度デイジーは侍女の助言通り、泊まって行ってくれと頼んだが返事は
「思い上がるな」だった。怒りの感情もなくただあっさりとその言葉を出した。
デイジーはそれからは自分から話しかけることはなくなった。陛下は毎回
「元気にしていると聞いている。なによりだ」と話を始め
「おかげさまで」と返事をすると
「家族も会いに来ているそうだな」と続け
「はい」と答えると
「そうか」
「図書館通いは楽しいようだな」
「はい」
「そろそろ・・・」
「・・・はい」
こういった夜はおよそ月に一度、二・三日続いた。
宰相は約束通り教師を派遣したが、教師は二ヶ月で忙しいからと来なくなった。
そのことは宰相に報告されなかった。デイジーは騙されたと宰相を恨んだが、仕方ないと教師のことは諦めた。
その代わり毎日図書館まで散歩して本を借りてさらに知識を深めて行った。
ただし、男爵一家は約束通り二ヶ月に一度ほどは離宮を訪ねて娘に会うことが出来た。
娘は笑うことはなかったが、清潔にきちんと整えられた部屋で家族を待っていた。
陛下が、部屋を訪れて一緒に夕食を取ると聞いて、安心していた。
そして、婚姻してそろそろ半年になる頃、銀灰妃は懐妊した。
宰相は胸をなで下ろした。
懐妊したとき、銀灰妃は、ほっとした。これで当分、国王と顔を合わせる必要がないからだ。
銀灰妃の家族は懐妊を素直に喜び、妃が笑顔を見せたことをもっと喜んだ。
銀灰妃は出産が済んだら、離縁して家に帰れると笑顔だったのだ。
妃が笑顔だと聞いた国王は、エミリーを差し置いて妊娠した妃の勝利の笑顔だと思い、自分とエミリーの苦しみも知らずに、憎たらしいと思った。
だから、嫌だったんだ。と思った。
銀灰宮の侍女はデイジーは、妊娠してからますますいい気になっていると言いふらした。
そして、恒例の狩猟の季節がやって来た。北の領地から大型の狼を連れてきて狩るのだ。今年、連れて来られた二頭は例年になく大きかった。別々の檻に入れられて静かに横になっていた。
キース・サンダースと取り巻きが檻に入った狼を見ていた。長い棒を持ってこさせるとそれでつついた。
「こいつらこれで狩りの獲物になるのか?ほら、走れるのか?」
「これなら、この場で仕留めたりして」
「勘弁して下さいよ。苦労して連れてきたんですよ」と飼育員が言うと
「こんなに腑抜けなのに? ほら根性出せ」とキースは剣を抜いて檻に突っ込んだ。
狼はちらりと見たがすぐに知らんふり。反応しなかった。
そこで肩口を軽く剣を刺した。
すると狼は立ち上がり、唸り声をあげた。キースは思わず後ろに下がろうとして尻餅をついた。
取り巻きの一人が吹き出したがすぐに収まった。キースは槍を持ってこさせると檻のなかの狼を攻撃した。
「どんなもんだ。生意気な!」
狼は唸り声を上げた。唸り声を上げたのは両方の狼だ。
無傷の狼は唸りながら檻に体をぶつけた。キースは慌てて檻から離れた。
檻が破れ、一頭が外に出た。その狼はもう一つの檻にも体をぶつけた。
二頭の唸り声はあたりの空気を震わせた。
檻から出た二頭はちらりとキースたちを見たが、走り去った。
「どうせ、放すんですよ。ちょっとばかし予定より早かったけどいいでしょう」と役人が言ったが、声が震えていた。
この狩猟は社交も兼ねていて、貴族は上から下まで、少し無理してでも参加する行事だが、貧しい暮らしのスコット家は長年欠席だった。
スコット家は今年も欠席のつもりだったが、宰相は自ら手紙を書いて来るように誘った。
親切のつもりだった。娘が側妃になり懐妊したのだ。今後は貴族として交際していくだろう、その手始めにと思ったのだ。
馬車と衣装の手配もした。それで一家はやって来たが、目立たないように隅で静かにしていた。
「銀灰妃のご家族がいらしてますが」と宰相が知らせると国王は不快そうに
「あの薄汚いネズミ一家が来たのか?不愉快だから近寄らせるな」と言った。
「陛下、それは」と宰相がその言葉を遮ると
「なに?あの薄汚い連中に会えと言うのか?」と更に大声で国王は言うと、ある貴族が王妃の実家におもねるように
「宰相閣下、わざわざ汚いものを見る必要はないですよ」と言い出し
「そうですよ。ネズミのように隅にいればいいんですよ」と皆でわはははと笑いだした。
「みなさん、いけません。そんな言い方は」と王妃が諌めると
「そうだな、お前の耳が汚れるな」と国王は言うと王妃の肩を抱いた。
それから
「もう、追い返せ。あいつらが目に入らぬようにしてくれ」と言った。
すると侍従が一人心得顔で出て行った。
宰相は銀灰妃に、その家族に心のなかで詫びた。
「さっさと帰るように国王陛下が仰せだ」と侍従に言われて
「まだ、挨拶もしておりませんが」と男爵が答えると
「必要ない」
「そういうわけには」
「くどい。必要ない」
「承知しました」と男爵が答えると母の肩を抱いたウィルが扉を開けて馬車に乗り込んだ。
馭者は馬車を出した。しばらく走った時、予定より早く放された狼が馬車のまえに飛び出した。
馬が驚いて馬車が傾いた。馭者は異常を察知してすぐに逃げ出した。
馬車のなかで体をあちこちぶつけた男爵一家がやっと馬車から出てくるのを狼は待ち構えていた。
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