39 その後のこと
ウィリアム目線
――芝居だ。
わたしは会議室の端に立ちながら、内心でうなずく。
兄上、うまい。
アレク兄上が一歩前に出る。
肩を落とし、ほんの少しだけ視線を伏せる。やりすぎない。だが弱さを見せる。
絶妙だ。
「わたしは……父上と公爵閣下を救えませんでした」
声の震え、三分の一。
喉の詰まり、二分の一。
涙は、出さない。出したら芝居臭くなる。
さすがだ。
重臣たちの呼吸が揃って重くなる。
はい、ここで同情してもらう。
わたしは心の中で拍手する。
兄上は続ける。
「ゆえに、次の王にはネルソン殿下が相応しいと考えます」
きた。自己否定からの推薦。
王道だ。潔い長男。かたくなまでの潔癖さ。
責任を負って退く王太子を誰が否定できる。
わたしは内心でつぶやく。
――兄上、それ、自分で考えたのか?
昨日、三人で決めた台本を改良してある。
だが表情は真剣そのもの。演技派だな、本当に。
次はマイク兄上。
銀の髪が揺れる。あの顔は反則だ。
「兄上は、すぐに状況を判断なさった」
おっと、称賛に入った。
「ガルシアが漏らした一言で、異変に気づいた」
おや、さりげなく正解を言ったよ。
「その上、わたしを危険にさらさぬために、一人で父上のもとへ走った」
そこで拳を握る。うまい。完璧だ。
兄を敬い、自分を下げる。
「比べて、わたしは何もしていない」
はい、自虐。
だが声の奥に誇りを混ぜている。兄上を立てるための自己否定だ。
マイク兄上、あんた本当に性格悪いな。
いや、いい意味でだ。
わたしは視線を伏せながら、内心でつっこむ。
――何もしていない? 嘘だろう!
ちゃんと仕事してただろう。
だが、それを言わない。
言わないから美しい。
アレク兄上が首を振る。
「違う。お前は必要だ」
仲の良い兄弟が、お互いをかばいあう。完璧だ。
これで重臣の半分は落ちたな。
わたしの番が来る。
……さて、どうする?
わたしは一歩出る。
「わたしは」
ほんの少し、間を置く。注目を集める。
「王妃のもとで、うたた寝をしておりました」
はい、道化の役。
「兄上が戦っておられる時、わたしは眠っていた」
事実でもあり、嘘でもある。
猫で活動していた。本体は安全な所で目を閉じていた。
「王に相応しいのは、ネルソン殿下でしょう」
涙を一滴、絞り出す。
わたしはうつむきながら、内心でため息をつく。
――全員、名優だな。
三人とも、自分が王に向いていないと言いながら、誰が一番王に向いているか、わかっている顔をしている。
清く正しく責任を取る長男。
兄を敬い自分を下げる次男。
何もできなかったと泣く三男。
三様の無欲。
だが実際は全員、腹の底では冷静だ。
ネルソンを推す流れに、宰相が複雑な顔をしている。
そうだよな、銀灰妃がいなければ、ネルソンだもんね。
お前がママを見つけたのが悪い! お前が悪い!
重臣の視線が、わたしたち三人とネルソンを往復している。
わたしは横目で兄上たちを見る。
清く正しい存在では、この混乱を乗り切れない。そう、重臣の気持ちがかたまった。
闇の部分を持っていると思われているネルソンこそ、この混乱を乗り越えられる。
ネルソンに王になってもらう。
それで終わりではない。残っている邪魔者をネルソンが排除するのだ。
よし、ダメ押しだ。
「兄上が救えなかったとおっしゃるなら、わたしこそ何もしていない」
涙ぐむ。少しだけ、父の顔を思い出せばいい。
「だからこそ、ネルソン殿下を」
言い切った。室内が静まった。
重臣たちはうなずき始めた。
三人とも、少しだけ本音が混じっている。
父を救わなかったことが、少し辛い。
ママの不幸はこいつが原因だとわかっているが……
怨念よ、怨霊よ。恨みが薄れていないか?
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