37 王子たちの動き
その日の王城は、いつも通りだった。
ガルシーナ公爵が甥の国王を気遣って訪れたが、お忍びだ。
護衛も整い、儀礼も整い、なにも不自然な点はなかった。
ただ一つを除いて。
公爵の護衛の列に、見慣れぬ男たちが混じっていた。
溶け込んでいるのが不自然だった。
それが、ネルソンの手配した傭兵だ。
計画は単純だ。
公爵が国王クリフの私室を訪れる。
混乱を装った襲撃を起こす。
混戦の中で二人を討つ。
そして——襲撃の知らせでやって来たアレクも討つ。
そしてすみやかに撤退。単純な計画だから、失敗しない。
◇◆◇◆◇
刃が閃いた。
「陛下を守れ!」
叫び声とともに護衛が動くが、遅い。
公爵の背後にいた傭兵が、最初に刃を向けたのは国王だった。
護衛が振り向いた瞬間、別の刃が公爵を貫く。
裏切りは一瞬で決まる。
狭い室内での乱戦。
味方と敵が入り乱れ、誰が裏切ったのか判別がつかない。
公爵が崩れ落ちる。
国王が血を吐く。
傭兵は退路を確保しながら、確実に息の根を止めた。
計画通りだった。
死ぬのは、国王と公爵とアレク。
傭兵はアレクの到着を待っていた。
その頃。銀灰宮では、ガルシアが落ち着かぬ様子で歩いていた。
ネルソンは姿を見せない。なにか手違いが?ガルシアは不安だった。
マイクはガルシアのそばで本を読んでいた。
それは王子たちの計画の一部だ。マイクは、わざとガルシアにへばりついていた。
「あまり本ばかり読んでは、いけませんよ」とガルシアが言ったその時、アレクが姿を現した。
「大叔父様、部屋で本を読んでいました。挨拶が遅れてしまいました」
ガルシアが驚いた。思わず、口をついて出た。
「何故、おまえがここにいる」
アレクは、ゆっくりと息を吸う。
ガルシアは気づいていない。
自分が、決定的な言葉を落としたことに。
アレクは、黙って部屋を出た。
護衛が三人、後ろに控えている。
アレクは振り返った。
「一人残れ。あとは来い」
命令は短い。
護衛は普段落ち着いているアレクが、慌てているのを不吉だと感じながら走った。
回廊を進む足音は静かだった。
その天井裏を、小さな影が走る。
黒猫。
ウィリアムだ。
昼の光の中でも、誰も気づかない。
猫は梁を渡り、王の私室へ近づく。
倒れた兵。
呻き声。
待っていた傭兵が、振り向いた。
王太子。最後の獲物がやって来た。
すぐさま、アレクが剣を抜いて傭兵に切りつける。
後ろからアレクに切りかかろうとした傭兵が、猫に足をすくわれる。
バランスを崩した傭兵をアレクの護衛が切り捨てる。
倒れた国王クリフ。
その傍に、ガルシーナ公爵。
二人とも、息がなかった。
アレクは膝をつく。
「遅かった」
声は静かだった。
本当に遅かったのか。
それを問う者はいない。
アレクの護衛が倒れた者を確認していく。
息のある者はいなかった。
銀灰宮では、ガルシアとマイクが話している。
そばでメリーベルが笑顔で相槌を打っている。
マイクは窓辺に立って外を見る。
振り返ってガルシアに言った。
「兄上はどこに行かれたのでしょうか?急に様子が変わりましたね」
「そうですか?」とメリーベルが首を傾げた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
誤字、脱字を教えていただくのもありがとうございます。
とても助かっております。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。
それからもう一つ、ページの下部にあります、「ポイントを入れて作者を応援しよう」より、ポイントを入れていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




