02 第二妃
翌週、また偉い人が来た。今日は一人だ。
「いやぁ、前回お嬢様と話しましたが、しっかりしたお嬢様ですね」と言うところから話が始まった。
「エミリーお部屋に行ってなさい」と母に言われてわたしは席を外した。
わたしは第二妃となることになった。貧乏貴族の娘には思いがけない幸運だ。借金もなくなった。そしてあの陛下の横に立てるのだ。わたしは嬉しかった。
やがて家族揃って国王夫妻と会う日がやって来た。わたしたちがお城に行くのだ。
ごく内輪の顔合わせだということだが、家族全員の服を用意して貰った。
わたしのドレスは灰色でアクセサリーは銀に透明な石が使われていた。
そこで偉い人は宰相とその補佐の一人で、ピーターと言う名前だとわかった。
わたしと話をしたのは、補佐のピーターだった。そんな人たちがわたしの為に家に来たのだと思うと感激した。でもこれから会うのはあの御夫妻だ。御夫妻って言い方はだめよね。陛下と王妃殿下だ。嬉しいながら緊張した。
本当に身が引き締まったみたいだった。
だが、顔合わせはすぐに終わった。一生懸命練習したカーテシーもしなかった。と言うのも王妃殿下の体調が悪いとかで、わたしたちが部屋に入るとすぐに陛下が
「悪いが、王妃の体調が悪い。手短にすませたい」と仰ったのだ。
時間が止まり、誰もなにも言わなかったが、すぐに宰相が、
「それは心配ですね・・・王妃殿下の顔色が・・・どうぞお大事になさって下さい」と、やっと言うと
「さっ無理することない」と国王は王妃の肩を抱いて出て行った。御夫妻はわたしに目もくれなかった。
宰相が
「今日は単なる顔合わせだ。婚姻の準備はこちらでするゆえ、心配はない・・・ドレスもこちらで用意する。連絡するから心配せずに待っていてくれ・・・ほんとに王妃殿下は昨日から具合が悪くて、今日は会いたいからと無理なさって・・・次は親しくお話できるから安心して欲しい」と言うと父が
「無理をしていただいたとはありがたいことです。それでは我々はこれでお暇致します」と返事をした。
帰りに馬車では誰もなにも言えなかった。もう引き返せないのだ。両親のために明るく振舞いたかったが、出来なかった。
その日の夕飯はわたしの好物を並べた祝いのテーブルで、家族が無理して明るく振舞って食べていた。そこに王宮からの使いがやって来た。
祝いの乾杯にと葡萄酒。金色のバターソースに沈むチキン。新鮮な果物のパイが、テーブルに追加された。それと恭しく差し出されたのは陛下と王妃殿下からの書状だった。
手紙は今日時間が取れなかった詫びと次回会うのを楽しみしていると書いてあった。
葡萄酒は美味しかった。チキンも美味しかったが、母の心づくしのポークソテーの後ではあまり食べられなかった。バターソースも重かった。
新鮮な果物のパイは美味しそうだったが、明日のお楽しみになった。
家族で
「明日の楽しみだ」と言い合ったが、残すことはちょっとだけ痛快な気分だった。
やがて、婚姻式がやって来た。わたしはもうこの家に帰って来ることはない。
家族で一緒に王城へ向かった。
わたしの支度が済むと別室で待っていた両親と弟のウィルがやって来た。
自分のドレスなのにわたしも今日、初めて見た。白銀の髪を飾るのは銀と透明な石で作られた飾りだった。
白いドレスには灰色の糸で鈴蘭の刺繍が入っていた。なにか青い色の物が欲しかった。
だが、分かっている。陛下の黒と青、妃殿下の金と紫をわたしが着ることはない。
わたしだって紫の目なのに、許されないのだ。
「姉様、綺麗だ」とウィルが抱きついてきた。わたしもしっかりとウィルを抱きしめた。
両親も「綺麗だ。幸せになるんだよ」とわたしを抱きしめた。
参列者はわたしの家族三人と王妃殿下の実家の方、宰相と補佐のピーターだった。
父と一緒に祭壇に向かった。陛下が待っていた。せめて微笑んでくれたらいいのに、望んでないならどうしてわたしを迎えようとするの?
あのお誘いの言葉は、うそだったのよね。
「誓います」と言ったわたしの声はかすれていた。
侯爵一家がわざとらしく拍手を始めた。わたしの家族も遅れて拍手をした。母は泣いていた。ウィルも泣いていた。わたしも涙をこらえられなかった。
式が終わると陛下はわたしと一緒にわたしの離宮にやって来た。
「ここが、君の住まいだ。銀灰宮と名付けた。この主の君は銀灰妃と呼ばれる」
「はい、ありがとうございます」
「疲れたであろう。茶でも一緒に」と言うと居間の椅子にわたしを座らせた。
侍女は二人の前にお茶を置くと、壁ぎわに下がって行った。
「君に頼みたいのだが、君の名前はエミリーと言うんだって?」
「はい、陛下。エミリーでございます」
「そうか、それが不愉快なんだよね。エミリーって言うのは僕の最愛の名前なんだ。だから君は名前を変えて欲しいんだ。なににする?好きな名前を選んでいいよ。君の名前が決まったらその名前で婚姻届けを作るから。名前が決まったら連絡して」
そう言うと国王はお茶に手をつけずに出て行った。
後に残されたわたしは声を出して泣いた。
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