【超短編小説】新宿福袋天国
それは密室でのことだ。
息の詰まるような空間を照らす眩い蛍光灯。
おれはスカートに手を差し込む。
誰も何も言わない。それはおれの労働だ。
山と積まれたスカートに手を突っ込み、値札タグを切ってはまた積み直す。
ひとつ積んでは銭の為。
ふたつ積んでも銭の為。
何時間分の賃労働に相当するのか知れない紙袋が、赤と白のストライプになって澄まし顔をしている。
資本主義の残りカスが赤と白と言う社会主義の善悪を象徴する色なのは何かの冗談か?
スカートに手を差し込む。
値札を剥がされたスカートたちに新たな価値が与えられる。
おれも来年からは時給じゃなくなる。
黒いスカートの山を超えたら次は茶色いスカートの山が待っている。
おれもこの仕事を終えたら……それは何を暗喩してるんだ?
スカートに手をいれる。
タグを引き出す。
ハサミで切り取る。
スカートから手を出す。
繰り返す。
売れ残りの詰め合わせを処分したい線Aと何でもいいから得した気になりたい線Bが点Pで交わる。
クソの消失点。
叶えられた点Pを支える賃労働はスカートの中に手を突っ込む事で成立している。
お前がコレを欲しいのなら構わない。
おれはお前のスカートに手を突っ込んだりしないし、紐みたいなショーツを鋏で切ったりもしない。
お前はコレが欲しいのか?
別に欲しくもないものを安く買うのは楽しいか?
おれはスカートの中に手を突っ込むのが苦痛になってきている。
マネキンにスカートを履かせて手を差し込む。何も無い苦痛が冷たい手触りでそこにある。
仕方が無い。終わりにしよう。
白い煙草に赤い火をつける。
燃え移った赤い火を煙とスプリンクラーの白が包む。
でもそれは夢で、おれはマネキンの冷たい胸で目を覚ます。
スカートに手を差し込む。
何もない。
何も無いんだ。




