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不食

作者: 明日朝明日
掲載日:2025/12/21

きっかけは、いつだっただろうか。

つい昨日のことかもしれないし、大昔のことかもしれない。

思い出すことはできないが、とにかく自分を司る根幹の部分に、深く刻まれることになった出来事がある。


それは、誰かに「太っている」と笑われたこと。

醜いと蔑まれたこと。


きっとその人は、何も考えていない。

何も気にしてなどいない。


でも僕は、僕自身は、その言葉が、その表情が、脳裏にこびりついて離れずに、その日、その週を過ごした。


その後、不思議な変化が訪れた。


ご飯を食べなくなった。

食べたとしても、原因不明の吐き気と気持ち悪さが襲った。


あんなにも食べるのが好きで、楽しかった行為が、いつしか「意地汚い」「最悪の行為」だと考えるようになった。


僕は給食にも、ほとんど手をつけずに残した。

先生からは叱られた。


どうでもよかった。

また笑われるのなら、蔑まれるのなら、怒鳴られる方が幾分かましだ。


そしてそのまま成長していき、一日に数回ほどしか咀嚼をしなくなった。


鏡を見た。

なぜか、まだ太っているように見える。

豚のように見える。


おかしい。

体重は平均の遥か下を指しているのに。


でも、そう見えてしまったら、まだやめるわけにはいかない。

ご飯を食べるに値しない。

苦しまなくてはいけない。


そう分かっているのに、身体は音を鳴らして食にありつこうとする。


苦しい。

ずっと苦しい。


空腹の苦しみ。

好きなことができない苦しみ。

ありのままの自分を愛せない苦しみ。

どうでもいい奴の馬鹿な言葉を受け流せない弱さへの苦しみ。


結局、ずっと蝕まれている。

僕の心を腐食が覆い、何もかもに影響を与えている。



ある日、夢を見た。


大きな食卓に載るご馳走。

僕は一心不乱に食べた。


なぜか身体のことなど、少しも考えなかった。

食卓を囲む人は、怒らない。

笑わない。

共にご飯を食べていた。


ただひたすらに、幸せだった。

何も気にせずに笑っていた。


ずっと、ずっと、このままがいいと、

心から思った。


後ろから声が聞こえた。


「お前はなぜ食べる。

また醜くなってもいいのか。

穢らわしく生きるていいのか」


僕は振り返らずに、即答した。




「いいよ」


目が覚めた。


何の夢を見ていたのだろう。

思い出せない。



でも、なぜか理由もなく、

僕は大粒の涙を流していた。

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