45 最終話 霧の街の朝に
朝の街に、黒いブーツの音が軽やかに響く。
霧はまだ低く漂い、石畳の上を白く覆っていた。
ダークブルーのコートの裾が揺れ、黒い髪が朝の風にゆったりと流れる。
新聞売りの少年が角を曲がって声を張り上げる。
「今朝の新聞だよ! ウィンダム嬢の新しい婚約者の記事もあるよ!」
エドガーは微笑んで新聞を受け取り、銅貨をひとつ渡した。
少年が去ると、通りのざわめきの中に、馬車の車輪の音とパン屋のベルの音が混ざる。
朝のオルドンはいつも通り、静かに目を覚ましていた。
白亜の石造りの建物――王立裁定院。
重厚な扉を押し開けると、磨き込まれた大理石の床に足音が響く。
階段を上り、廊下を進む。
窓から差し込む朝の光が、彼の青いフロックコートを淡く照らした。
執務室の扉を開けると、ピップが湯気の立つティーカップを手にこちらを向く。
「おはようございます、サー!」
エドガーは穏やかに頷き、デスクに新聞を置いた。
書類棚の前ではルシアンが椅子に座って足を組み、書類の束を掲げている。
「調べたぞ。例の件、ようやく繋がった」
エドガーは「そう」と小さく返し、彼の差し出す書類を受け取る。
紙の音が静かに部屋に落ちる。
窓の外では、朝靄の中を鳩が群れをなして飛び立っていた。
霧がゆっくりと晴れ、オルドンの街並みが姿を現していく。
――変わらない日が、今日も始まる。
エドガー・レイブンズは椅子に腰を下ろし、新聞の見出しに軽く目を通してから、窓の外に視線を向けた。
その群青の瞳は、今日もまた、霧の街オルドンを静かに見つめている。




