44 金色の別れ
汽笛が鳴った。
その響きに振り返った青年の髪は、かつて肩まであったミルクティー色を失い、短く刈られている。
――アラン・モートン。
廃嫡され、今はただの平民。だがその顔には、不思議なほど晴れやかな光があった。
隣には、彼の婚約者アンナが寄り添っている。
「アラン兄ちゃん、元気でね!」
エルザはアラン、アンナと順に抱き合った。
「気が変わったら、いつでも来ていいんだからね」
アンナが言うと、エルザは笑って首を振った。
「行かないよ」
アランはエルザの背後――少し離れた場所に立つエドガーとルシアンへ目をやった。
ルシアンが前に出て、無骨な手を差し出す。
「アラン、しっかりやれよ」
「はい」
手を握り返すアランの笑顔は、少年のように明るかった。
エドガーも静かに手を差し出す。
「アランさん、ご達者で」
アランは一瞬ためらい、それから言葉を絞った。
「あの……えっと、エ……エドガー、俺の友達になって!」
「……え?」
思わず手を引こうとしたエドガーだったが、アランはその手を両手で握りしめた。
「友達になって!!」
「……はは」
エドガーは困ったように笑みをこぼす。
「いいよ。アラン。僕たちは共に死線をくぐり抜けた戦友だ。――友達だね」
アランの顔が一気に明るくなる。その笑顔につられて、アンナも、エルザも笑った。
「住所が決まったら、裁定院宛てでいいから、僕に手紙を出して。電報でもいい」
「返事、くれる?」
「もちろんさ」
「あぁ……、アラン、俺は?」
ルシアンが頭をかきながら言う。
アランがきょとんと見上げた。
「あ、じゃあ、ルシアンさんもお友達になってください」
「“じゃあ”って言ったな? 俺はついでかよ」
周囲に笑いが広がる。
――その時。
「ちょっと、わたくしに挨拶もせずに行ってしまうなんて、薄情なのではなくて?」
澄んだ声に振り向くと、平民服に身を包んだセレーナ・ウィンダムが立っていた。
夕陽に照らされた金の髪が、風に揺れる。
「え……来てくれたの?」
「ええ。わたくし、平民服も似合うと思いませんこと?」
「はは。君は何を着ても美しいよ」
セレーナは優雅に微笑み、軽くスカートの裾を摘んだ。
「幸せになりなさい」
「うん。君もね」
汽笛がもう一度鳴り、ホームの空気が震えた。
「時間だ。――俺たちは行くよ。みんな、ありがとう。さようなら」
大きな鞄を肩にかけ、アランとアンナは汽車に乗り込む。
汽車が走り出す。
白い蒸気が流れ、風が一瞬だけ皆の頬を撫でていった。
汽車が見えなくなり、煙が空へ溶けても、
彼らはしばらくその場に立ち尽くしていた。
「いい人だったね」
エルザがぽつりと言う。
「お騒がせな男でしたわ」
セレーナが少し微笑みながら言う。
「面白いやつだった」
ルシアンが肩を竦める。
エドガーはしばらく黙っていたが、やがて低く呟いた。
「彼は――誠実な人なんだ」
セレーナが「そうね」と静かに頷いた。
オルドンの街は金色に染まり、雲は橙にほどけ、霧の都の輪郭が淡く浮かび上がっていく。
その光は、誰の未来もまだ定まらないまま、けれど確かに、新しい時を照らしていた。




