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41 王の名のもとに

 王立裁定院の大法廷。

 灰色の大理石の柱が並び、天井には王家の紋章を刻んだ黄金のレリーフが輝く。

 朝の光が高窓から差し込み、法壇の上の燭台が静かに揺れている。

 その中央、王家の旗の前に座るのは、上席裁定官ベイリス卿。

 その右手には法務官――エドガー・レイブンズ。

 左手には記録官が筆を走らせていた。


 鐘が三度鳴る。

 書記官の声が法廷に響いた。


「これより、王立裁定院におけるモートン家人身売買事件の審理を開始します――被告入廷」


 鉄の扉が開き、足枷の音が床に鳴る。

 レイモンド・モートンとリチャード・モートンが兵に囲まれて入ってきた。

 傍聴席では貴族たちが息を呑み、記者たちがペンを構える。


 ベイリス卿の声が低く響く。

「法務官レイブンズ、起訴理由を述べなさい」


 エドガーが立ち上がる。

 黒い法務官服の裾が静かに揺れた。

「王立裁定院法第三条に基づき、被告レイモンド・モートン、並びにリチャード・モートンを“国外人身売買の罪”により起訴いたします」


 淡々とした声。

 だが、その一語一語に重みがある。


 書記官が証拠番号を読み上げる。

 ――ノルドレア公国からの奴隷輸送記録。

 ――娼館帳簿。

 ――王国内貴族ハドリー伯爵との取引書簡。

 ――押収された金貨、署名。


 それらが次々と提示されるたび、法廷の空気が凍っていく。


 エドガーは視線を被告に向けた。

「あなた方が行ったのは、人を“品目”として扱う行為です。

 それは王国法第十七条――“生命の商取引を禁ずる”に明確に抵触いたします」


 モートン当主が杖を突いて立ち上がる。

「馬鹿げている! それは取引ではない! 慈善事業だ!」

 傍聴席がざわめく。

 ベイリス卿が杖で床を叩く。

「静粛に」


 リチャードが小声で呟く。

「父上、もうやめてくれ……」

 その言葉が拾われ、筆が走る音がやけに響いた。


 エドガーは短く頷き、背後にいた二人を呼び出した。

「では、証人を。――治安監察局第六部、アーサー・グレイ」

 アーサーが前に進み、敬礼する。

 続けてルシアン・ヴェイルも証言席に立った。


 アーサーが調査経緯を淡々と報告する。

「押収した帳簿には、国外から不法に搬送された者の氏名・年齢・売却価格が細かく記されていました。

 被告の指示で動いていた証拠として十分です」

 ルシアンが補足する。

「加えて、王都北区の娼館には被告家の紋章が刻印された帳簿が見つかっています。

 彼らは“商品管理”という名目で人を扱っていた」


 ベイリス卿が頷く。

「十分です。――レイブンズ法務官、総括を」


 エドガーは書類を閉じ、静かに言葉を紡いだ。

「陛下の名のもとに、私は王国の法を代弁します。

 彼らの行為は“商取引”ではなく、“罪”です。

 正義とは、言葉よりも先に秩序を示すもの。

 ゆえに、私は本件を有罪と見做すよう進言いたします」


 重い沈黙。

 ベイリス卿が立ち上がり、判決文を読み上げる。


「レイモンド・モートン、およびリチャード・モートン。

人身売買の罪により、爵位剥奪の上、財産の没収、終身幽閉を命ずる」



 鐘が鳴り響く。

 被告席でレイモンドが吠え、兵が押さえ込む。

 リチャードは崩れ落ちたまま何も言わなかった。


 エドガーはゆっくりと立ち上がり、筆を置いた。


 鐘の音が鳴り響く。

 裁定院の鐘が三度、冷たく響き――

 その余韻に重なるように、遠くセイブルの丘から柔らかな音が届いた。

 王都の朝を包む祈りの音。

 群青の瞳に残る光を、エドガーは静かに閉じた。



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