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16 共犯者たち

 エドガーは軽く目を伏せ、深く息を整えると、再び琥珀の瞳を見た。

「エルザが誘拐されかけた。モートン家に恨みを持つ貴族の仕業だ」

「……やはりか」

「エルザの母親が、彼女は“モートンの娘”だなどと嘘を吹聴していたらしい。それを真に受けた連中の動きだ」


 エドガーは無言で紙を一枚抜き取り、ペン先をインク壺に浸した。

「――わかった。事が落ち着くまで、エルザを匿ってもらおう」

「……どこに?」


 サラサラと、ペンが紙を滑る音が部屋に落ちる。

 やがてエドガーは書きかけの用紙を持ち上げ、ルシアンに示した。

 王立裁定院の紋章入り、急報便専用の書式だ。


――


【セント・アシュウェル修道院 院長閣下】

差出人:王立裁定院 法務官 エドガー・レイブンズ

件名:少女エルザの一時保護のお願い


――


「セント・アシュウェル修道院か」

「そう。女子修道院だ。身を隠すには最適だよ」


 エドガーが顔を上げた瞬間、扉の方から微かな音がした。

 戻ってきたピップが、カップを持ったまま立ち尽くしていた。

「ピップ……」

 エドガーの視線を追って振り向いたルシアンは、青ざめた少年の顔を見て言葉を失う。


「エルザが……また襲われたの?」

 エドガーは小さく頷き、再びペンを走らせた。

 時計の針が静かに進む音だけが、室内に響く。


 書き終えた手紙を一読し、封蝋を押す。

 群青の瞳が光を受け、彼の横顔を照らした。

 エドガーは静かに立ち上がり、ピップからカップを受け取ると、それをルシアンに渡した。

 ルシアンは反射的に受け取りながら、エドガーの手元を見つめる。


 そして、封を施した封筒をピップに差し出した。

「ピップ。僕たち法務官は、軍人や調査官のように悪人を殴り倒すことはできない。

 だけど、法と理と人脈を使って、人を守ることはできる。――これが僕らの戦い方だ。

 よく見ておきなさい」


「……はい」

 少年の手がわずかに震えながらも、しっかりと封筒を受け取る。

「急報便窓口へ。急いで」

「かしこまりました」


 ピップが廊下に消え、扉が閉まる。

 静寂の中、エドガーがルシアンへと視線を戻した。


「――まだ続きがあるんだろう?」

 ルシアンは苦く笑った。

「なんでもお見通しだな」


 エドガーは席に戻り、手で続きを促した。

 ルシアンは一息ついてから口を開く。


「アランは、あの婚約破棄騒動でセレーナ嬢の名を守ろうとした。

 そして、彼にはもう一人――妹のイザベルを守りたいという理由がある。

 イザベルを救うために、あんな回りくどいやり方を選んだんだ。

 ……知恵を貸してほしい」


 エドガーは調書をめくり、指先で一行をなぞった。

「イザベル嬢は十二歳、か。――ぎりぎり、いけそうだな」


 その瞬間、群青の瞳が火を宿した。

 それを見て、ルシアンは思わず笑みを漏らす。


「――ルシアン、まずはモートン家の悪事の証拠をつかんでくれ」

「了解」

「ただし、深入りはしなくていい。“専門家”を動かす。本格的な調査はそちらに委ねよう」

「……俺はお前を信じる」


 エドガーはふっと笑い、立ち上がった。

「君の期待に添えるよう、頑張るよ」


 彼が手を差し出すと、ルシアンはその手を強く握った。

 次の瞬間、エドガーがもう片方の手を重ねる。


「これで君も共犯だ」

「……え? は?」


 ルシアンの間抜けな声が響き、エドガーの笑みが深まる。

 外の窓には淡い霧が漂い、時計の針がまた一つ、静かに時を刻んだ。

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