第69話 奪われたエネルギー炉
グラナ中央倉庫へ向かう道には、土の匂いが残っていた。
広い畑。
低い防風林。
古い用水路。
収穫物を運ぶための石畳の道。
壊れかけた荷車置き場。
そこには、かつて農の街として生きていた記憶があった。
だが今、その道を歩く農民たちの顔には、明るさよりも緊張があった。
ラグナから届いた記録は、グラナの人々に希望を見せた。
水は戻せる。
記録は公開できる。
支配されていたものを、もう一度市民の前に戻せる。
しかし、希望を見たからといって、恐怖が消えるわけではない。
グラナでは、水ではなく、種が握られていた。
種子配給を止められれば、次の季節に作付けできない。
収穫物を中央倉庫へ出さなければ、反逆農区として封鎖される。
そして、黒晶隊がいる。
自然破壊型結晶を装甲に埋め込まれた兵士たち。
命令へのためらいを奪われ、農民たちを恐怖で従わせる部隊。
リリィたちは、ヨルク、カイ、ミラ、ファルコン、そして数人の農民たちと共に、中央倉庫へ向かっていた。
先ほど黒晶隊と衝突した広場は、まだ騒然としている。
だが、農民たちは完全には散らなかった。
収穫掲示板には、ラグナの水路記録と、グラナの古い種子会議の記録が映し出されたままだった。
一部の農民たちは、それを守るように広場に残っている。
ヨルクは言った。
「中央倉庫に、今の在庫記録がある。種子、穀物、保存食、肥料、農機部品。評議会が何をどれだけ持っているか分かれば、配給不足が本当かどうか確認できる」
カイは小さな端末を握りしめている。
「僕が倉庫の下働きをしていたから、補助端末の位置は知ってる。でも、主記録へ入るには、中央管理室まで行かないとだめだ」
ミラが尋ねる。
「中央管理室には、黒晶隊がいる?」
カイは頷いた。
「たぶん。あと、種子局の管理官もいる」
「種子局……」
リリィはその言葉を繰り返した。
ラグナには水資源管理局があった。
グラナには種子局がある。
名前は違っても、やっていることは同じだった。
命を支えるものを管理し、人々の選択を奪い、従わせる。
ファルコンが空から低く通信を入れる。
「前方、中央倉庫が見えた」
リリィは畑の間の低い丘へ登り、遠くを見た。
そこには巨大な建物群があった。
円筒形の穀物サイロ。
長い低温保存倉庫。
金属の種子保管棟。
輸送車両の発着場。
監視塔。
そして、その中央にある黒い塔のような施設。
塔の上部には、赤黒い光が脈打っていた。
リリィの胸元の自然回復型結晶が、また震える。
「何、あれ……」
ヨルクの顔が険しくなる。
「中央倉庫のエネルギー炉だ」
「エネルギー炉?」
ミラが尋ねる。
ヨルクは頷いた。
「昔は、農地全体のための分散エネルギー炉だった。収穫物の乾燥、種子の低温保存、用水ポンプ、農機の充電、加工場の動力。グラナの農業を支える心臓だった」
カイが悔しそうに言った。
「今は評議会が中央倉庫に集約している。農区ごとにあった小型炉や蓄電設備も、どんどん取り外されて、中央倉庫へ運ばれた」
リリィは塔を見つめた。
赤黒い光。
自然破壊型結晶の反応。
「もしかして、黒晶隊の装備にも使われてる?」
カイは唇を噛んだ。
「たぶん。黒晶隊の装甲は、中央倉庫の裏で充電されている。種子保管用の電力が、兵士の装備に回されてるって噂がある」
ヨルクの拳が震えた。
「種を守るための炉を、人を従わせるために使っているのか」
グラナの支配は、種だけではなかった。
種を保存するための電力。
農地へ水を送るためのポンプ。
作物を乾燥させる熱。
農機を動かすエネルギー。
それらを評議会が握っている。
種子倉庫を封鎖するだけではない。
エネルギー炉を奪うことで、農地そのものを動けなくしているのだ。
アルセリウスから短い通信が入った。
『リリィ、聞こえる?』
「アルセリウス?」
『グラナ中央部の高エネルギー反応を、こちらでも確認したわ。自然破壊型結晶反応と、旧式の農業エネルギー炉が重なっている』
ファルコンが上空から言う。
「つまり、炉が汚染されているのか」
アルセリウスは答えた。
『完全に汚染されているわけではない。でも、炉の出力の一部が黒晶装備の充電と、結晶制御装置へ流れている可能性が高い』
ミラの顔が曇る。
「止めればいいの?」
『簡単には止められないわ』
アルセリウスの声は慎重だった。
『中央倉庫の種子保管庫は、温度と湿度の管理が必要よ。炉を完全停止させれば、種子の保管環境が崩れる。下手をすれば、グラナの次の作付けに必要な種が傷む』
リリィは息をのんだ。
壊せない。
ラグナの水門と同じだ。
支配に使われているからといって、ただ破壊すればいいわけではない。
水門を壊せば水が暴れる。
エネルギー炉を壊せば種が傷む。
命を支える仕組みを、支配者が盾にしている。
「じゃあ、奪い返すしかないんだね」
リリィが言うと、アルセリウスは静かに答えた。
『ええ。炉を止めるのではなく、出力の流れを変える。種子保管と農地用ポンプを優先し、黒晶装備への供給を切る必要がある』
コピの声も通信に入る。
『しかし、現地で詳細な炉制御図が必要です。中央倉庫内部の記録を取得してください』
カイが小さく手を上げた。
「炉制御室の位置は知ってる。種子保管棟の奥、黒い塔の下。だけど、そこは一番警備が厳しい」
ファルコンは翼を折りたたみ、低い声で言った。
「空からは近づけない。監視塔が多すぎる」
ミラは記録ケースを抱え直した。
「中央倉庫の在庫記録と、炉の制御記録。両方が必要なんだね」
ヨルクが頷く。
「それがなければ、グラナの人々に示せない。食料は足りているのか。種はどこへ回されているのか。エネルギーは何に使われているのか」
リリィは中央倉庫を見た。
「行こう」
カイは驚いて振り返る。
「正面から?」
リリィは首を振った。
「ううん。中で働いていた人しか知らない道があるんでしょう?」
カイは少し迷い、それから頷いた。
「古い乾燥水路がある。収穫物を倉庫に運ぶ前に、風で湿気を抜くための地下通路。今は使われていないけど、種子保管棟の下へつながってる」
「案内して」
「分かった」
ヨルクが一歩前に出る。
「私も行く」
リリィは首を振ろうとしたが、ヨルクの目は強かった。
「私は元種子管理者だ。中央倉庫の古い構造を知っている。カイだけでは開けられない扉もある」
ファルコンが言う。
「危険だ」
「危険なのは承知している」
ヨルクは静かに答えた。
「種子台帳を隠していた時から、危険はずっとあった。今さら引き返す理由にはならない」
リリィは頷いた。
「分かりました。でも、無理はしないでください」
ヨルクは少し笑った。
「それは君たちにも言える」
一行は、畑の影を伝って中央倉庫の外縁へ近づいた。
ファルコンは空から監視の死角を確認し、低く小さな合図を送る。
カイは古い農道を選び、監視塔から見えにくい畝の間を進んだ。
やがて、半分土に埋もれた低い入口へ着いた。
鉄格子は錆び、扉には古い鍵がかかっている。
カイが鍵穴を調べる。
「これは昔の農区鍵だ。今の評議会の鍵じゃない」
ヨルクが腰の袋から古びた金属片を取り出した。
「まだ使えるか分からんが」
彼が鍵を差し込むと、ぎしりと音がした。
扉は少し抵抗したが、ゆっくり開いた。
中から、乾いた草と古い穀物の匂いが流れてくる。
「行くぞ」
地下通路は狭く、低かった。
壁には、かつて風を通すための細い穴が並んでいる。
今はほとんど塞がれていたが、わずかに外気が入り込み、埃を揺らしていた。
リリィは前方を警戒しながら進む。
ミラは記録ケースを胸に抱え、カイは端末を片手に道を示す。
ヨルクは壁に残る古い印を読みながら、どの通路がどの倉庫へつながるかを確認していた。
ファルコンは翼を畳み、低い姿勢で後方を守る。
通路の奥へ進むにつれ、振動が強くなった。
低い唸り。
エネルギー炉の音だった。
ミラが小さく言う。
「この音……不安定」
リリィも同じように感じていた。
一定の機械音の中に、時々、赤黒い脈動のような震えが混じる。
まるで、炉が本来の働きとは違うものに引っ張られているようだった。
コピの通信が微かに入る。
『音声解析を受信。炉の出力が周期的に揺れています。通常の農業用出力ではありません』
アルセリウスが続ける。
『黒晶装備への充電パルスと一致する可能性があるわ。注意して』
通路の先に、金属の床が見えてきた。
種子保管棟の下部だった。
カイは端末を使い、古い点検口のロックを外す。
「ここから上がれば、補助記録室に出る」
「補助記録室?」
ミラが尋ねる。
「収穫物の搬入量、乾燥量、種子保管量を一時的に記録する部屋。主記録は中央管理室だけど、補助記録にも一部コピーが残る」
リリィは頷く。
「まずはそこから記録を取ろう」
点検口を開けると、薄暗い部屋に出た。
壁一面に古い端末が並び、その一部だけが生きている。
中央には、埃をかぶった作業机。
床には、古い穀物袋の破片が落ちていた。
カイは端末へ駆け寄り、手早く操作する。
「まだ生きてる……でも権限が足りない」
ヨルクが横に立つ。
「私の旧認証を重ねる」
彼が端末に手をかざすと、画面が一度赤く点滅した。
拒否。
だが、ヨルクは別の古いコードを入力する。
「種子会議時代の緊急確認番号だ。評議会が消していなければ……」
画面が黄色へ変わる。
そして、青に変わった。
補助記録が開く。
ミラが息をのむ。
「出た……」
画面には、グラナ中央倉庫の在庫記録が表示された。
穀物。
豆類。
保存野菜。
種子。
肥料。
農機部品。
乾燥燃料。
浄化資材。
カイは数値を見て、顔を歪めた。
「こんなに……あるの?」
ヨルクも画面を見つめたまま、声を失っていた。
公表されている配給不足の説明では、グラナの倉庫にはほとんど余裕がないことになっていた。
だが、実際の補助記録には、かなりの在庫が残っている。
もちろん無限ではない。
無計画に配れば危険だ。
だが、少なくとも農民たちが飢えかけるほど絞る必要はない。
さらに、種子保管量は公表値の三倍近かった。
ミラが震える声で言う。
「種も、隠していたの……?」
カイは拳を握る。
「来季の種が足りないから従えって言われてた。みんな、畑を守るために作物を中央倉庫へ出してたのに」
ヨルクは歯を食いしばった。
「配給不足ではない。配給統制だ」
ファルコンは周囲を警戒しながら言った。
「記録を保存しろ。長く留まれない」
ミラは記録ケースの端末へデータを転送する。
「コピ、受け取れる?」
コピの声が返る。
『断片受信可能です。通信時間を短くしてください』
「送ります」
データが圧縮され、ラグナ側へ断片送信される。
コピが確認する。
『受信しました。グラナ在庫記録、補助コピー確保。これは重要証拠です』
その時、端末の奥に別の項目が表示された。
**エネルギー炉出力配分。**
カイが指を止める。
「これ……」
ミラが画面を拡大する。
そこには、中央エネルギー炉の出力配分が記録されていた。
本来の項目。
種子保管庫。
乾燥設備。
用水ポンプ。
農機充電。
加工場。
公共掲示網。
だが、現在の配分は大きく変わっていた。
黒晶装備充電。
治安隊兵站。
中央倉庫防衛システム。
評議会専用輸送車両。
種子局管理棟。
農民区画への供給、最小限。
ヨルクの手が震えた。
「やはり……奪われていた」
ミラは画面を見つめる。
「種を守るための炉が、兵士の装備を動かしてる」
リリィの胸元の結晶が、強く反応した。
赤黒い流れ。
自然破壊型結晶に汚染されたエネルギーの流れが、中央炉から黒晶隊へ送られている。
「これを切れば、黒晶隊の力を弱められる?」
リリィが尋ねると、アルセリウスがすぐに答えた。
『可能性はあるわ。ただし、出力配分を誤ると種子保管庫も影響を受ける。安全に切るには、炉制御図が必要よ』
カイが別の画面を探す。
「炉制御図は、ここにはない。中央制御室だ」
ファルコンが険しい声で言う。
「近いか?」
「この上の通路を抜けて、黒い塔の基部。でも警備がいる」
その時、部屋の外で足音が響いた。
黒晶隊の巡回だ。
ファルコンが翼を広げる。
リリィは剣に手をかける。
足音は近づいてくる。
カイが慌てて端末を閉じようとしたが、ヨルクが止めた。
「待て。記録を消すな。開いたままにしておけ」
「でも、見つかったら……」
「見せるために来たのだろう」
ヨルクは端末の画面を、部屋の外から見える位置へ切り替えた。
黒晶隊の兵士が扉を開ける。
二人。
装甲には黒い結晶が埋め込まれている。
その後ろに、先ほど広場で結晶を外された隊長がいた。
彼はまだ完全には回復していないようで、肩の装甲は片方外れたままだった。
目の濁りは薄い。
リリィは剣を抜かず、彼を見た。
隊長は部屋の中を見回し、端末の画面に目を止めた。
エネルギー炉出力配分。
黒晶装備充電。
治安隊兵站。
種子保管の削減。
彼の表情がわずかに変わる。
「これは……」
後ろの兵士が叫ぶ。
「反逆者を確認。拘束します」
黒い結晶が光る。
兵士たちが動こうとした瞬間、隊長が片手を上げた。
「待て」
兵士たちは一瞬止まる。
しかし、結晶がまた赤黒く光り、命令を促すように震えた。
「隊長、命令は拘束です」
隊長は画面を見たまま言った。
「この記録は、何だ」
ヨルクが前へ出る。
「グラナ中央倉庫の補助記録だ。種子と食料は不足していない。少なくとも、農民を飢えさせるほどではない」
ミラが続けた。
「エネルギー炉も、本来は種子保管と農地のためのものです。でも今は、黒晶装備に多く回されています」
隊長の拳が震えた。
「黒晶装備は、農地を守るために必要だと聞いていた」
カイが叫んだ。
「誰から守るの? 農民から?」
隊長は答えられなかった。
彼の背後の兵士たちの結晶がさらに強く光る。
片方の兵士が、隊長を無視してリリィへ踏み込んだ。
「反逆者を拘束する」
リリィは剣を抜き、攻撃を受け止めた。
「ファルコン、結晶接続部!」
「了解」
ファルコンのフェザーシャードが狭い部屋の中を正確に飛び、兵士の肩装甲の固定具を切る。
リリィは同時にフェイズナイフを投げ、胸部装甲の制御線だけを断つ。
黒い結晶が不安定に点滅し、兵士の動きが鈍る。
ミラは思わず叫んだ。
「傷つけないで!」
「分かってる!」
リリィは兵士の武器だけを弾き飛ばし、ファルコンが翼で押さえ込む。
もう一人の兵士も動こうとしたが、隊長がその前に立った。
「待てと言った」
「隊長……」
隊長の目に、強い葛藤があった。
結晶の命令。
評議会の訓練。
農地を守るという名目。
だが、目の前には記録がある。
種が隠されていた。
炉が奪われていた。
黒晶装備は、農地のためではなく農民を従わせるために使われていた。
隊長はゆっくりと自分の残った肩装甲に手をかけた。
そこには、まだ小さな黒い結晶が残っていた。
彼は歯を食いしばり、自分で固定具を外した。
結晶が床に落ちる。
その瞬間、彼の体が大きく揺れた。
リリィが支えようとしたが、隊長は手で制した。
「触るな……まだ、自分で立てる」
彼は荒い息を吐きながら、画面を見た。
「俺たちは、農地を守っていると思っていた」
ヨルクは静かに言った。
「守る相手を間違えさせられていたのだ」
隊長はしばらく黙った。
そして、低く言った。
「名はガレス。元グラナ農区警備隊。黒晶隊に編入された」
リリィは彼を見る。
「ガレスさん。あなたは、これからどうしますか」
ガレスは答えられなかった。
だが、彼は武器を下ろした。
それが、今の答えだった。
カイが端末を操作しながら叫ぶ。
「炉制御室の警報が上がった! 補助記録室に侵入がばれた!」
ファルコンが翼を広げる。
「時間切れだ」
コピの通信が入る。
『リリィ。倉庫外部から増援が接近しています。黒晶隊、および種子局管理官。脱出を推奨します』
リリィは画面を見る。
在庫記録は確保した。
エネルギー炉出力配分も確保した。
だが、炉制御図はまだない。
このまま撤退すれば、黒晶装備への供給は続く。
種子保管と農地ポンプの出力も、評議会に握られたままだ。
「中央制御室へ行く」
リリィが言うと、ファルコンが振り返った。
「危険だ」
「でも、炉の流れを変えないと、グラナは動けない」
ミラも頷いた。
「種があっても、保管とポンプを握られたままなら、また従わされる」
ヨルクは端末から取得した記録を保存し、ケースへ入れる。
「私も行く」
ガレスが低く言った。
「中央制御室への正規通路は封鎖される。だが、黒晶隊用の充電路なら塔の基部へ行ける」
全員が彼を見る。
ガレスは苦しそうに息を整えながら続けた。
「俺は、そこを知っている」
カイは驚いた。
「案内してくれるの?」
ガレスは目を伏せた。
「まだ信じるな。ただ……確認したい」
「何を?」
ミラが尋ねる。
ガレスは床に落ちた黒い結晶を見た。
「俺が守っていたものが、本当に農地だったのか。それとも、農地を縛る鎖だったのか」
リリィは静かに頷いた。
「一緒に確認しましょう」
外では警報が激しく鳴り始めていた。
中央倉庫全体が封鎖態勢に入っている。
食料在庫。
種子記録。
奪われたエネルギー炉。
黒晶装備の充電路。
グラナの支配構造が、少しずつ見え始めていた。
水を奪われたラグナ。
種を奪われたグラナ。
そして、エネルギーを奪われた農地。
命を支えるものは、それぞれ別に見えて、実は一つにつながっている。
水がなければ種は芽吹かない。
種がなければ食料は生まれない。
エネルギーがなければ保存も灌漑も続かない。
評議会は、その流れの要を一つずつ握っていた。
だからこそ、取り戻す時も一つずつでは足りない。
流れとして取り戻さなければならない。
リリィは双剣を握り直した。
「行こう。炉を壊すんじゃなくて、流れを戻す」
ファルコンが頷く。
「空ではなく、今度は炉の中の道だな」
ミラは記録ケースを抱えた。
「グラナの灯火は、種だけじゃなくてエネルギーも必要なんだね」
ヨルクが静かに言った。
「農の街の火を、評議会から取り戻す」
ガレスは無言で扉の先へ進んだ。
その背中には、まだ迷いがあった。
だが、黒い結晶の光はもうなかった。
リリィたちは、彼の案内で中央倉庫の奥へ向かう。
赤黒く脈打つエネルギー炉の下へ。
グラナの種を守るために作られた炉は、今、黒晶隊を動かす力に変えられている。
奪われた火を、どう取り戻すのか。
その答えを探すため、リリィたちは炉制御室へ踏み込んでいった。




