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ともしび  作者: 口羽龍
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 そして、このキャンプ場で過ごす夜がやって来た。夜の日没は遅く、夜7時過ぎだ。夜はキャンプファイヤーをする。以前からそう決めていた。思えば10年前もそうだった。あの時は住民の多くが集まって、炎を見ていたな。


 5人は、キャンプファイヤーをする場所にやって来た。すでに準備はできていて、点火を待つのみだ。5人は、この時間を楽しみにしていた。


「いよいよキャンプファイヤーだね」

「うん」


 山崎が火を灯すと、火は大きくなっていく。そして、暗い宇藤原の夜を照らし出す。かつては多くの明かりがあったのに、今はとても少なくなった。全盛期にはどれぐらいの明かりが見られたんだろう。


「きれいな炎だね」

「うん」


 と、井川は何かを考えている。何なのか気になる。上田は井川の元にやって来た。


「どうしたの?」

「まるで、消えていく集落の灯のようで」


 それを聞いて、4人は思った。あの火は、朝までに消えてしまう。まるでそれは、消えていく宇藤原の灯に見えてしょうがない。そう思うと、とても寂しくなる。


「確かに・・・。もうここでキャンプファイヤーをする事はないだろう」

「だけど、今日の思い出はいつまでも消えずに、心に残り続けるだろう」


 20年後にやろうと思っていた約束が、閉鎖のために10年も早くなってしまった。利用客が少ないと、閉鎖は仕方ない事だが、やろうと思っていたのに、早まってしまった。


「そうだね。宇藤原の灯は近い将来消えようとしている。だけど、宇藤原での日々も、心の中に残り続けるだろう。この灯のように」

「そうだね」


 と、そこに有吉がやって来た。久々にここでキャンプファイヤーをする人が現れたようで、ここにやって来たようだ。


 それにつられるように、タエもやって来た。タエもその炎に反応したようだ。


「キャンプファイヤーかい?」

「タエさん!」


 山崎は驚いた。まさか、タエもやってくるとは。それに有吉もやって来た。


「明かりに誘われて、来ちゃった」

「そう。きれいでしょ?」

「うん」


 だが、タエの様子は寂しそうだ。昔はもっと多くの明かりが見えたのに、今はもう数件を残すのみだ。


「おっ、キャンプファイヤーだ」

「有吉さん!」


 なんと、有吉もやって来た。まさか、有吉も来るとは。


「ここでキャンプファイヤーなんて、何年ぶりだろう」

「そうだね」


 上田はキャンプファイヤーの炎に感動していた。だけど、これを見れるのもこれが最後だ。今年の秋にはこのキャンプ場の灯も消えてしまう。


「やっぱキャンプファイヤーって素敵だね」

「うん」


 神崎はキャンプファイヤーの炎を見て、感動していた。あまりにも感動していて、開いた口はふさがらない。


 と、神崎は何かを考えた。神崎の両親はすでにここにいない。神崎は消えゆく宇藤原の集落を知って、どう思うんだろう。


「どうしたんですか?」

「消えゆく明かりを考えて」


 7人はキャンプファイヤーの火をじっと見ていた。10年間と同じぐらいきれいだ。どうしてキャンプファイヤーは人々を虜にするんだろう。理由がわからない。


「そっか・・・。父さんも考えてるよ」


 井川は父の事を思い出した。父は宇藤原の事がとても好きだ。診療所をやめても、宇藤原で診療所をやっていた頃の思い出が、よく走馬灯のようによみがえるという。


「やっぱり、ここがいいのかな?」

「そうらしい。診療所を閉じる事になったの、今でも残念がっていたから」


 井川も残念でたまらなかったという。だが、人口が減少しては致し方ない事だ。避けられない現実だ。


「そうなんだ。あれがなくなってから、通院が大変になったんだ」

「その気持ち、わかるよ。だけど、住んでいる人が少ないと、こうなるんだね」

「うん」


 宇藤原から通院する人は、不満に思っている。なぜならば、今まで宇藤原に診療所があったのに、閉鎖されて増川まで行かなければならなかったからだ。


「寂しいけれど、これが現実なんだね」


 ふと、神崎は泣きそうになった。宇藤原が消えてほしくない。だけど、時代の流れには逆らえない。消えてほしくないけど、消えていくのだ。


「悲しい?」

「うん」


 有吉は炎を見つめている。それを見て、何を思っているんだろう。6人は思っていた。


「もう宇藤原に賑わいは戻ってこない。そして宇藤原の灯は消えてしまう。それが時代の流れ・・・」


 と、山崎は肩を叩いた。有吉は驚いた。


「有吉さん、その気持ち、わかりますよ。確かに都会はいい所。豊かさがあるし、夢がある。だから、人々は都会に行ってしまうのかなと」

「どうにかして、ここに戻す事ができなかったんだろうか?」


 だが、有吉は諦めていなかった。再び宇藤原が賑わってほしいな。そうすれば、再び村や町になるのに。


「うーん・・・。やっぱりできないのか・・・」

「残念だね」


 有吉は下を向いた。もうあの頃の賑わいは戻ってこない。そして、宇藤原は消えてしまう。


「ああ」

「暗い話をしちゃったね。じゃあ、歌おうか。『遠き山に陽は落ちて』を」

「うん」


 7人は『遠き山に陽は落ちて』を歌い出した。その歌声は、静かな宇藤原の夜によく響く。そして、その歌声はどこか寂しげだ。もうここに戻らない賑わいのようで、そして、近い将来消えていく宇藤原の灯のようで。

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