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7 世界を変える技術?

【現代】

 医師の矢内原やないはらが、なぜヒカル(道長)を軟禁しようとしているのか?


 来道らいどうが吐き捨てる。

「先生、勿体もったいぶるなよ。世界を変える科学者だと?」


 矢内原は、軽く息を吸ってドヤ顔を見せる。

「そうだ。世界を変える技術を百年以上前に発明していた天才科学者」


 来道は、矢内原の言葉を待つ。


 そして矢内原が、満を持してその名を口にした。

「ニコラ・テスラ。電気の魔術師だ」


 ニコラ・テスラ。

 矢内原やないはらが所属する組織は、その科学者の功績を再検証しているという。


 来道らいどうは、拍子抜けしたように首を傾げる。

「なに言ってんだ? 銃を突き付けられて、おかしくなっちゃったのか?」


 矢内原は首を振る。

「いいや。事実だ。君が考えているよりも、ずっと巨大で強力な組織だ」


 来道は拳銃を矢内原に向けたまま言い放つ。

「そうかよ。けど、姉貴は渡さない」


「そう言うな。彼女の存在は世界のパワーバランスを左右する」


 来道がフッと笑みを漏らす。

「大げさな、と言いたいとこだけど……タイムリープか」


 ちょうどそこで鼻血でダウンしていた拓実が復帰する。

 拓実は、ヒカル(道長)の恥部を見せつけられて気絶していたのだ。


 来道が、矢内原に銃口を向けたままで尋ねる。

「拓実君、大丈夫?」


 拓実は眼をしばたたかせながら答える。

「う、うん何とか……」


「相変わらずウブだな。姉貴の下腹部を見たぐらいで」


 その場面を思い出しそうになったのか、拓実が鼻を押さえる。

「ちょ、やめてよ、マジで死ぬ。出血多量で」


 来道は呆れたように言う。

「大丈夫。ちょうど目の前に医者がいるから」


 両手を挙げた状態の矢内原は、ヒカル(道長)をチラ見しながら言う。


「彼女、九条光くじょうひかるの意識は飛んだ。時間をさかのぼって。そこまではいい。だが、それと入れ替わりに過去の意識が飛んできた。信じられない現象だ! 我々の組織にとって、こんな重要なことは他にない!」


 拓実がおののく。

「ら、ら、来道君。この人、ヤバくない?」


 来道はしばらく考えてから、じっと矢内原の目を覗き込んだ。

「ニコラ・テスラ。聞いたことはある。直流方式を主張したエジソンに対抗して交流を提唱した天才……」


 拓実が口を挟む。

「こうりゅう……不純異性交流?」


「違うって、不純異性交遊じゃない」


 そこで拓実が「わわっ!」と、今更ながら来道の拳銃に気が付いた。

「ら、ら来道くん! 銃に触るのは法律違反なんだよ!?」


 来道が大きくため息をつく。そして拓実に指示を出す。

「もういいから、姉貴を連れて病院を出るよ!」 


「駄目だ!」と、矢内原が動こうとする。


「動くな! 本当に撃つぞ!」


「止めたまえ。彼女を保護することは人類にとっても……」

『パンッ!』 


 銃声とほぼ同時に矢内原の後方にあったホワイトボードに破裂音が生じた。

 さすがに矢内原の顔が引きつる。


 発砲したにもかかわらず来道は冷静だ。

「先生。おとなしくIDカードを出してくれ」


 拓実が腰を抜かしながら来道と矢内原の顔を交互に見る。

「な、なな、何これ……やばいよ。やばいよ!」


 来道は縛るものを探す。

「こいつを縛ったらここを出るよ!」


 矢内原は冷たい目で警告する。

「せいぜい気を付けるんだな。タイムリープを狙っているのは我々だけじゃないぞ」


 その言葉に来道が一寸、手を止める。

 そして「フン」と、渋い顔をして、脱出準備に取り掛かった。


     *    *    *


【平安】

 次の日、予告通りに式部は、ミチナガ(光)の屋敷にやってきた。


 式部は笑顔で「約束通り持ってきたよ!」と言うと、従者に運ばせた大きな葛篭つづらから次々と本を取り出して畳の上に広げた。


「じいじのとこから持ってきたの」と、説明する式部。


 ミチナガ(光)が首を傾げる。

「じいじ?」


「うん。阿倍あべののじいじ。陰陽師おんみょうじだから、変なしょをいっぱい持ってるのよ」


「陰陽師……阿倍の? どこかで聞いたことあるような……」


 式部は本の山の中から適当に一冊を手にする。

「ほら見て。ほとんどは大陸からの書物なんだけど」


 どうやら漢字で書かれているようだ。

 しかし、文字が崩れていて原形を留めていない。


 ミチナガ(光)が、おばあちゃんみたいに目を細める。

「ほとんど読めない……」


 式部が得意そうに言う。

「勉強不足。漢文の勉強してる割には、まだまだ、だもんね」


「それ、漢字なの?」

「漢字というか唐の文字ね。でも、時々、どこの書か分からないものが混じってるの。変な形の字で、じいじでも読めないのよ」


 ミチナガ(光)はパラパラと幾つかの本をめくってみた。

 そう言われてみれば漢字のようにも見える。


「あれ? イラスト……絵も描いてるんだね」


「そうよ。意味不明の物も結構あるわ。誰が書いたんだろって首を傾げたくなるものも」


 ミチナガ(光)は、逆さまの壺を描いた図を見つけた。

「これ……見たことある。大仙陵古墳だいせんりょうこふんじゃないかな。教科書で見たことある」


「キョウカショ?」


「うん。おっきな古墳。大阪のどこだっけなあ……」


 式部は光の手にしていた書のイラストをじっと見る。

「それ、逆さまだよ?」


「え? そうなの? ああ、でもどっちが上だっけ?」


「ねえ、それって、千年後も残ってるの?」


「うん。仁徳にんとく天皇陵っていってね。誰も立ち入れないみたいよ」


 式部が尋ねる。

「仁徳天皇て言った? なんでその絵が仁徳天皇の古墳だって分かったの?」


「だって上空から見た写真、いっぱい見たもん」


「しゃしん?」

 写真と言う言葉は勿論、式部には分からない。


 式部は、将棋の駒に逆さまの壺が描かれたような図を見て信じられない様子だ。

「なんで空から見えるのよ! どうやって?」


「あ、そっか……この時代には飛行機もドローンもないもんね」


「屁こき? 泥んこ? なにそれ?」


 ミチナガ(光)は写真、飛行機、ドローンについて、説明しようと試みた。

 特にドローンが難しい。


 そこで式部から筆と紙を借りて絵を描いてみた。

 絵なら少しは伝わるかと期待したのだ。


 だが、光には絵心があるわけではないのでドローンの絵はUFOみたいに怪しい形になってしまう。


「それが空を飛ぶの?」と、式部が絵を覗き込む。


「うん。静かに、すぅっと上昇する感じ」


 それを聞いて式部が頷く。

「ああ、浮舟うきふねみたいなやつ?」


「うきふね?」

 はじめてミチナガ(光)の方が聞き慣れない単語に戸惑った。


 ミチナガ(光)が首を傾げているのをよそに式部は考え事をした。


 そして何か思いつたようだ。

「千年先でも誰も立ち入れない場所……何かあるわね!」


 式部は、逆さ壺の絵が他の書に無いか探した。

 すると3冊ほど該当するものがあった。


「どれどれ……」と、式部は書の解読に熱中する。


 だが、ミチナガ(光)には漢文が読めない。

「ごめんね。手伝えなくて……」と、申し訳なさそうに見守るだけだ。


 書を読み進めるうちに式部の表情が険しくなっていく。


 そしてバッと顔を上げる。

「行くしかないわね!」


「え? 行くってどこに?」


「『さかい』よ!」


「さかい?」


「そうよ。摂津・河内・和泉の堺! 『いしづ(土佐日記)』に出てくるところよ」


 大阪の地理にうとい光にはピンとこない。

「地理的なことは分かんないけど、ここから遠いの?」


「そりゃ、それなりに遠いわよ。淀川よどがわに沿って、ずっと下っていくかんじね」


「だよね。歩いていくんだろうし……でも、ごめん。なんでそんな遠くまで行くの?」


「何言ってんの? あんたを元に戻すためでしょ」と、式部は呆れる。


「そ、そうなの?」と、ミチナガ(光)が目を丸くする。


「もしかしたら命の壺があるかもしれないわ」


「命? 壺?」


「そうよ。生き物のすべてを知りたければ、この壺に触れるべしってさ」


 ミチナガ(光)は、大きな壺に触る科学者を想像して変な顔をした。

「ホントかなぁ……」


信憑性しんぴょうせいはあるわ。言い方は違うけど、どの書にも同じことが書いてあるもの」


「うーん。なんで、こんなになっちゃったかの原因が判明すればいいんだけど」


 式部は確信しているらしい。

「大丈夫! きっと魂の出し入れのやり方が分かるはず!」


「た、魂って出し入れ出来るものなのかなぁ……」


 ミチナガ(光)は、大いに不安になりながらも式部の提案に乗ることにした。


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