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14 隠し扉と謎の文字

 ミチナガ(光)と阿倍啓明あべのけいめいは、互いに恥じらいながら、相手の反応をチラ見している。


 意識しあっている者どうし特有の

 そして、同時に赤面する。


 その時、壁の中から声がした。

「ちょっと、あんた達。あたしの心配はしないの?」


 式部の言葉に二人が、はっとする。


 啓明は「そ、そうだ! 明かり、明かりを」と、火を点けようとする。

 だが、動揺して手元がおぼつかない。


 ミチナガ(光)も「あ、あわわ」と、せわしなく自らの顔を撫でたり頭を掻いたりする。


 ようやく行灯あんどんの火が入り、啓明が壁に出現した隠し扉のような穴の中に足を踏み入れる。

「し、式部ちゃん、大丈夫?」


 そういった啓明の後頭部を『スパーン』と式部が張り倒した。


「いだぁい!」と、ギャルのような悲鳴をあげる啓明。


「遅いわよ! というか、何、ミッチーと見つめ合っちゃってんの?」


 式部の突っ込みに啓明が取り乱す。

「あえええ、その、そういうんじゃなくって!」


 ミチナガ(光)が穴の中に入ってくる。

「ごめんね、式部ちゃん。遅くなっちゃって」


 式部はミチナガ(光)と啓明を見比べてから、ツンとそっぽ向く。

「いいわよ。別に」


 啓明が内部を照らしながら気付く。

「これ、石室じゃないですかね?」


 式部が指示する。

「啓明、あれ使いなよ。明るくして!」


「ああ、そうですね」

 そう言って啓明が何か小さな筒を取り出す。


 そして行灯の火に近づける。


『シュゥゥ!』と、点火された筒から花火のように火花が飛び出した。


「花火?」と、ミチナガ(光)が、この時代にそんなものがあるのかと驚く。


 だが、式部と啓明は、それを明かりに周囲を見回す。


 式部が「本当だわ。これ、石室ね」と、納得する。


 啓明も冷静に室内を観察する。

「隠し部屋だったんですね。けど、内部に通じるような箇所は見当たりませんよ?」


 式部が左側の壁で何かを発見した。

「この文字……ひょっとして!」


 急いで書を取り出してページをめくる式部。


 その間も火花の照明は安定している。

 ミチナガ(光)は「結構、長持ちするんだ」と、感心する。


 式部は啓明の腕を引き寄せて興奮気味に言う。

「ほら! この文字。この4つを順番に辿たどるのよ!」


 啓明が書を覗き込みながら頷く。

「確かに。壁のあちこちに刻まれてる文字は、この書のものと一致してるね」


 式部が大きく頷く。

「ええ。手分けして探すわよ!」


 訳が分からないまま、ミチナガ(光)は4つの文字を探す。


 石室のような部屋は、畳6畳程度で天井の低い小部屋だった。

 壁のところどころにランダムで刻まれたな記号の中から式部が指定するものを探す。


 しばらくして、ミチナガ(光)が「これかな?」と、ノルマの文字を発見した。


 文字というよりは象形文字だ。

 鳥を図形化したもののようにしか見えない。


 啓明が「こっちもあったよ。ここと……そこだね」と、式部に報告する。


 式部も「こっちもあったわ」と、お目当ての文字を見つけたらしい。


 ミチナガ(光)が式部に尋ねる。

「ね、それでどうするの?」


 部屋の真ん中に置かれた筒の明かりは、まだ火花を噴いている。

 ずいぶん長持ちするんだなとミチナガ(光)は改めて感心した。


 式部は「順番に手をかざすのよ」という。

「素早く押さないと駄目って書いてあるわ。だからみんな、手を添えて準備して」


 啓明が「え?」と、素っ頓狂とんきょうな声を出す。

「ボクひとりで2箇所は、ちょっと無理かも?」


 そこで式部がピシャリと一言。

「やりなさい!」


「えええ。ぎりぎり届くかな……うううん」


 啓明は部屋の隅っこに立って、無理な姿勢で左右の手を伸ばす。

 左手は高く、右手は膝の高さに。しかも背中が随分、反っている。


 それぞれが目的の文字に手を添えてスタンバイ。


 式部が号令をかける。

「みんな準備はいい? じゃあ、アタシが最初にいくわ。啓明は左、右の順で押してね」


 そう言って式部は文字の刻まれた石に「えい!」と、手を付ける。


 続いて啓明が左の壁、正面の壁にポン、ポンと触れる。

「ぎぎぎぎ……腕がちぎれそうですぅ」


「最後に、ミッチー! 早く!」


「あ、そだね」と、ミチナガ(光)が4番目の文字にタッチする。


 すると、一瞬、周囲が青白くボワッと光ったような気がした。


 式部が「え? 今の何?」と、眼を瞬かせる。

 啓明が「もう無理でひゅ!」と、仰向けに倒れる。


「こら! だらしないわよ! しっかりしなさい」と、式部はげきを飛ばす。


 だが、啓明はべそをかく。

「だって、痛いんだもの。腕がちぎれそう」


 と、その時、3人がほぼ同時に揺れに気付いた。


 ミチナガ(光)は、これが慣性であることを認識する。

「この感覚は……エレベーター?」


 式部が「な、なんか変な感じ」と、顔を顰める。


 啓明は、そわそわする。

「気持ち悪いというか落ち着かないです」


 式部と啓明にとっては経験したことが無い感覚なのだろう。


 ミチナガ(光)は感覚を研ぎ澄ます。

「下がってる? まさか……この部屋全体がエレベーター?」


 下がっていくような感覚が1分ほど続いた。


 そしてピタリと止まる。


 ちょうどそこで筒の花火の明かりが急速に弱まった。


 式部が慌てる。

「やだ、真っ暗になっちゃう! いったん出よ!」


 式部がここに入ってきた時の壁を押す。

 だが、びくともしない。


「ええ!? 嘘? なんで? さっきは簡単に開いたのに」


 啓明が「手前に開くんじゃない?」と、式部に手を貸す。


 だが、石の開き扉を内側に引っ張っろうとしても、そこには壁があるだけだ。


 啓明が「あれ? 出入り口じゃない?」と、青ざめる。

「やだ! 閉じ込められたの!?」と、さすがに式部もパニックになる。


 ミチナガ(光)だけは、その原因に見当がついていた。

「下がっちゃったせいだ……」


 最初に入った所から下がってきたので別な層に来てしまったのだ。


 式部と啓明は絶望的な声を出す。

「嫌だわ! こんなとこで死ぬなんて!」

「こんなとこ来なきゃ良かったです! 道長様ぁ!」


「落ち着いて。二人とも。もしかしたら別な出口があるかも?」


 ミチナガ(光)の言葉に式部と啓明が振り返る。

「え? ミッチー?」

「道長様?」


「後で説明するけど、たぶん、ここって地下なんだと思う。しかも、だいぶ深いわ」


 そこで、ちょうど筒花火が消えた。


 式部が騒ぐ。

「きゃああ! 啓明! 明かりを出しなさいよ!」

「も、もう無いですよ!」


 微かな感覚があった。

「あれ? まだ動いてる?」

 それは縦方向ではない。前方に向かって運ばれている感覚?


 そして『ブゥン』という機械音がした。


 ミチナガ(光)が「え? 今のは?」と、戸惑っていると、前方で『ズズズ』と、何かが動く音がした。


 まるで積み上げた石が一斉に震えているような音だ。

 それに併せて、眩い光がその方向から差し込んできた。


 式部が仰天する。

「ひぇえええ! か、壁が動いた!?」


 啓明も「あわわわわ!」と、後ずさりする。


 無理もない。この時代に自動ドアなんて存在しないのだ。


 壁が半分沈んだところで目も眩しさに慣れてきた。

 よく見るとそれは、やや青みがかった室内灯の明かりではないかと思われた。


「照明?」と、ミチナガ(光)は前方を凝視する。


 式部と啓明は抱き合って、陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクさせている。


 ミチナガ(光)は、じっと前方の様子を伺う。

「通路……みたいね。どこかに通じてる? にしてもこの明かりは……」


 前へ進もうとするミチナガ(光)の背中に向かって、式部が声を張り上げる。

「駄目よ! 帰ってこれなくなっちゃう!」


「道長様、行かないで!」と、啓明も絶叫する。 


 そこでミチナガ(光)が振り返る。

「大丈夫。先に行くから付いてきて」


 にっこり笑うミチナガ(光)を見て式部が、はっとして目を潤ませる。

 そして、ゆっくり立ち上がって付いていこうとする。


 一方の啓明は、腰が抜けているのか立ち上がることすらできずに、ハイハイで「待ってよぅ」と、二人を追いかける。


 石壁が下がり切った所で、前方への視界が開けた。


 やはりこの先は通路。それも現代風の造りだ。


 ミチナガ(光)はいぶかる。

「何でこの時代に……どうやって作ったんだろ? ここって何なの?」


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