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11 意外な対応

【平安】

 ならずもの四人組は、明確な殺意をもって式部と啓明に襲い掛かってきた。


 次の瞬間、啓明が手を横に振る。

 と、同時にほこりのようなものがを描いた。


 一瞬、灰でもいたように見えたが、オレンジっぽい色が混ざっている。


 一呼吸おいて、突然、四人組が目を押さえて、のたうち回る。

「あがっ!?」「うげえ!」

「目ぇえ!」「痛だだだ!」


 4人とも顔を押さえて、その場でジタバタする。


 パニくった一人が目をつぶったまま式部に特攻してくる。


 式部は冷静に突進をかわす。

 そして小槌こづちをふるう。


『ガコッ!』


 式部の小槌が男の後頭部を痛打つうだした。


 啓明が前方を指さしながら振り返る。

「道長様! 仲間の女が逃げます!」


 式部も叫ぶ。

「弓を! 仲間を呼ばれると面倒よ!」


 確かに前方には、見すぼらしい女が逃げていく後ろ姿。


 つまり、この四人組の仲間とみられる女を矢で仕留しとめろ、ということだ。


「む、無理! 人に向けて撃っちゃダメなんだよ……」


 中身は普通の女子高生である光にそんなことはできない。


 ガクガク震えながらミチナガ(光)は弓を持ったまま、その場にへたり込んでしまった。


 その間に、女の姿は見えなくなり、四人組も目を押さえ、わめきながら散り散りになった。


 何事もなかったかのように式部が肩をすくめる。

「あらら。逃がしちゃったわね」


 式部はさほど怒っている風ではない。


「道長様……どうして?」と、啓明は怪訝けげんな顔。


 ミチナガ(光)は涙声で訴える。

「だってぇ……怖かったんだもん」


 式部がそれを見て、ハッとする。

「そっか……あんたの時代は平和なんだね」


「うん。どうして式部ちゃんは、そんなに冷静なの?」


「ん。まあ、小さい頃から、じいじのとこに出入りしてたからかな?」


「じいじって、陰陽師おんみょうじの安倍さん?」


「そうよ。じいじは敵が多いからねえ。しょっちゅう、変な奴がお屋敷に殴りこんでくるのよ」


「そうなの?」


「危ないから、あたしも啓明も自分の身を守る方法を仕込しこまれてるんだ」


「ああ……だから全然、動じなかったんだね」


「そうね。例の一派に比べれば全然、大したことないわ」


 周囲を警戒していた啓明が牛車に戻ってきた。

 そして、疑いの目をミチナガ(光)に向ける。


「どうして討たなかったのでございますか? 道長様らしくもない」


 ミチナガ(光)が「だってぇ」と、言い訳しようとするのを式部が「だめ!」と、制する。


「あ、そうだった」と、ミチナガ(光)が手で口を覆う。


 光が藤原道長に憑依していることは秘密にしなければならない。


 式部がバンバンとミチナガ(光)の背中を叩く。

「もう! 女だから躊躇ちゅうちょしたんでしょ! あんた、本当に女好きなんだから!」


 啓明が「え?」と、怪訝そうな顔を見せる。


 式部は引きつった笑みを見せながら誤魔化ごまかす。


「も、もう! 女好きにも程があるわ! 女なら誰でもいいんでしょ。身分も年齢も見境なく口説くんだから! もう異常よ! この色狂い! 助平すけべ!」


 フォローのためとは分かっていても、酷い言われようだなぁ。


 ミチナガ(光)は少しゲンナリした。



【現代】

 社長の手配したホテルの部屋はファミリー・ルームだった。


 女社長はグラスを片手にくつろいでいる。


「ごめんね。予算的にスィートは無理だったわ」


 来道が申し訳なさそうに首を振る。

「いいえ、とんでもない。姉貴の為にありがとうございます。良い部屋でびっくりしてますよ」


 拓実も落ち着かない様子で同意する。

「うんうん。思ったより広いです。ベッドルームが分かれてるんですね」


 ミニスカートの社長が足を組み替えながら言う。

「そうよ。2、2ね。どっちが私と寝る?」


 拓実が即座に反応する。

「え、え、そ、それは!?」


 来道が拓実を揶揄からかう。

「じゃあ、俺の代わりに姉ちゃんと寝る?」


「そ、そ、それはいくら何でも!」と、今にも鼻血を噴出しそうな勢いで拓実が真っ赤になる。


「じゃあ、おれが姉ちゃんと寝るしかないか。拓実君は社長と同じベッドにお邪魔すれば?」


 そこで女社長がクスリと笑う。

「私はどっちでもいいわよ。貴方達、可愛いもの」


「はひぃいい……」と、拓実がキャパ・オーバーで卒倒そっとうしそうになる。


 そこで来道がダブルベッドの上で寝息を立てているヒカル(道長)をチラ見して言う。

「じゃあ、社長は姉ちゃんをお願いします」


「あら。貴方達二人、同時にお相手してもいいのに」


 冗談とも本気ともとれる色っぽい笑みを見せる女社長を来道は軽くかわす。

「俺は拓実君とあっちの部屋を使わせてもらいます」


 来道は拓実を連れて、別室になっているツインのベッドルームに移った。


 ベッドに腰かけながら来道が言う。

「社長は、すんなり理解してくれたみたいで良かった」


 拓実はペットボトルのお茶を飲みながら渋い顔をする。

「社長はオカルト好きなんでしょ? みんな大げさに考えすぎだよ」


「拓実君はまだ信じていないの? 姉ちゃんの中身が藤原道長だってこと」


「当たりまえでしょ! 僕は理系じゃないけど、物理的にあり得ない話だと思うよ」


「タイムリープのこと? それとも入れ替わりのこと?」


「両方だよ! どっちもSFの世界だね。フィクションだ」


 そのコメントに対して来道は含み笑いを浮かべただけで、ゴロンと仰向けになる。

「やれやれだね。長い一日だった」


 拓実は隣のベッドに腰かけながら頷く。

「それには同意するよ。なんなんだろ? あの軍隊みたいなのは何者なのかな? 殺されるかと思ったよ」


「あの連中は姉ちゃんのことを知ってて襲ってきたのかな……」

「え? どういうこと?」


「何者かが武装した連中を送り込んできた。ってことは、タイムリープは本物ってことにならない?」

「まさか! 漫画じゃあるまいし!」


 来道は天井を眺めながらズボンにしていた拳銃を取り出す。

「これの持ち主に聞けば分かるかもしれない」


「ちょちょ、来道君! まだそんなもの持ってたの!? 逮捕されちゃうよ!」


 しかし来道は拳銃を裏返したり、顔に近づけたりして気にも留めない。


「ニコラ・テスラ研究会……あの矢内原って医者、何者なんだろ?」


 時計は夜中の2時を回ったところだ。

 お互いに眠れそうにない。


 拓実はタブレットを操作して調べ物をしている。

 来道は仰向けで考えを巡らせている。その目は、らんらんとしている。


 しばらくして「あひいいいい」という悲鳴が隣室から聞こえた。


 拓実と来道が顔を見合わせる。


「姉貴? ……社長の声かな?」

「わ、分からない。まさかこんなところまで何者かが?」


「くそっ!」と、来道が拳銃を持って部屋を飛び出す。

 拓実もそれに続く。


 社長とヒカル(道長)が寝ているはずのベッドルームの様子を伺う。


「ああああ! そ、そんなの!」

 室内から聞こえてくる絶叫を耳にして来道と拓実が顔を見合わせる。


 一呼吸おいて来道が扉を開け放ち、「動くな!」と、拳銃を構えながら突入した。


「え?」「あ!」


 明かりは点いていた。


 ダブルベッドの上では女社長に乗っかるヒカル(道長)の姿があった。


「姉ちゃん……」と、脱力したように来道が銃口を下ろす。


 ヒカル(道長)と社長は服をはだけながら足の裏をこちらに向けている。


「はわわわ……」と、苦し気な甘い声を漏らしているのは女社長のようだ。


 来道達の侵入に気付いたヒカル(道長)が顔を上げる。

「これ! 邪魔をするでない」


 来道が頭を抱える。

「姉ちゃん、何やってんだよ……」


 拓実は天を仰ぐ。

「光……まずいよ。社長相手に」


 湿っぽい空気の室内に気まずい雰囲気。


 拓実が髪をかき上げて呆れる。

「まさかホントに藤原の道長? だとしたら最悪。さっき検索したけど……」


 来道が尋ねる。

「検索? なんて書いてあった?」


「女癖が最悪だって」と、拓実は答える。


「ああ、それは確かにまずいね。姉貴の身体に最強の女好きが宿ったとなると……」


 来道の言葉の意味を理解して拓実が焦る。

「ええっ!? そんなの困る! 光が! 光の身体が!」


「しかも集団アイドル。羊の群れにオオカミを放つようなもんだな」


「最悪だよ! なんで藤原道長なんだよう!」


「ま、まあ、それは俺達が制御するしかないんじゃ……」


「光源氏みたいな奴なんだよう! 女なら誰でもいいんだ! あの紫式部も愛人にしてたって説があるんだって!」


 そう言って拓実は頭をきむしるように悶絶もんぜつした。



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