狼男と教会の娘
あるとき、狼男が夜の草原を歩いていると、祭りへ向かう若い娘たちの集団に出くわしました。しめしめと思った狼男は、娘たちの前に躍り出ると、
「今日はとてもいい日だね?諸君。夢見心地のまま、頭からばりばりと食べられて、みんなして俺の腹の中で暮らせるんだから」と言いました。
娘たちは恐怖で叫び声をあげて、ある娘は泣き出し、ある娘は逃げ出そうとしましたが、狼男は夜目がきき、鼻も耳も、足の速さも、月のでている晩は人間よりもずっとずっと優れているので、すぐに回り込まれて捕まってしまいました。
娘たちは必死に命乞いをしますが、狼男はしばらく面白そうに眺めた後、「だめだだめだ、お前たちは全員丸呑みだ。今日は狼の丸呑みのお祭りなんだ」と言ってあんぐり口を開けました。大きな口からは、鋭い牙から涎がしたたります。娘たちは震え上がってしまいました。
すると、娘たちの中から、一人の娘が歩み出ます。
「私たち全員を捧げるお祭りならば、祝詞を唱える必要があるでしょう。命を差し出さなければならないのなら、どうか私にお役目をください。私は教会で育てられた娘です。この中で一番上手に唱えられるでしょう。そして一番の贄になるでしょう。ですから、私を一番に召し上がってください」
狼男はふんふんと聞き届けると、
「よしわかった。ずいぶん俺にも箔がついたものだ。よしお前、祝詞とお祈りの役目を与えよう。その間、俺はここで存分に、偉ぶっていることにする」と言いました。
「いいえ、狼男様、いや、主よ。偉ぶる必要はありません。偉大なものは、偉大だからこそ、そこに在らせられるのです。主は、ただ捧げられるがままに、そこに在らせられます。ですから、目を閉じて、どんと構えて、お寛ぎなさっていてください」
「そういうものなのか、わかった、わかった」
狼男は目を瞑って、どんと構えて座り込みました。娘が、跪き両手を合わせ、祈りの口上を述べ始めます。娘が習った教会の祝詞は、形式ばっていて、長ったらしく、うんざりするほど婉曲に、遠回りを繰り返して主への礼賛を続けます。いつの間にか、狼男は退屈して、そのまま眠りについてしまいました。娘たちはこっそり逃げ去って、教会の娘だけが滔々と、お祈りを続けていました。
狼男がハッと目を覚ますと、いつの間にか夜明けが来て、日が登っていました。
「なんということだ!」
狼男は太陽の光を浴びて、ぐんぐん犬っころへと縮んでいきます。
「ああ!ああ!騙された!」
嘆く狼に、娘が答えました。
「いいえ主よ。あなたは騙されてなどおりません。今やっと、祈りが終わりました。それでは主に、私を一番に捧げましょう」
狼に跪き、娘が首をたれ、それから優しくキスをして、狼の頭を優しく撫でました。狼はそれが嬉しくて、アオーンとなくと、娘を妻にもらい、結婚しました。
おわり