表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

狼男と教会の娘

作者: 安身 侑

 あるとき、狼男が夜の草原を歩いていると、祭りへ向かう若い娘たちの集団に出くわしました。しめしめと思った狼男は、娘たちの前に躍り出ると、

「今日はとてもいい日だね?諸君。夢見心地のまま、頭からばりばりと食べられて、みんなして俺の腹の中で暮らせるんだから」と言いました。


 娘たちは恐怖で叫び声をあげて、ある娘は泣き出し、ある娘は逃げ出そうとしましたが、狼男は夜目がきき、鼻も耳も、足の速さも、月のでている晩は人間よりもずっとずっと優れているので、すぐに回り込まれて捕まってしまいました。


 娘たちは必死に命乞いをしますが、狼男はしばらく面白そうに眺めた後、「だめだだめだ、お前たちは全員丸呑みだ。今日は狼の丸呑みのお祭りなんだ」と言ってあんぐり口を開けました。大きな口からは、鋭い牙から涎がしたたります。娘たちは震え上がってしまいました。


 すると、娘たちの中から、一人の娘が歩み出ます。


「私たち全員を捧げるお祭りならば、祝詞を唱える必要があるでしょう。命を差し出さなければならないのなら、どうか私にお役目をください。私は教会で育てられた娘です。この中で一番上手に唱えられるでしょう。そして一番の贄になるでしょう。ですから、私を一番に召し上がってください」


 狼男はふんふんと聞き届けると、

「よしわかった。ずいぶん俺にも箔がついたものだ。よしお前、祝詞とお祈りの役目を与えよう。その間、俺はここで存分に、偉ぶっていることにする」と言いました。


「いいえ、狼男様、いや、主よ。偉ぶる必要はありません。偉大なものは、偉大だからこそ、そこに在らせられるのです。主は、ただ捧げられるがままに、そこに在らせられます。ですから、目を閉じて、どんと構えて、お寛ぎなさっていてください」

「そういうものなのか、わかった、わかった」


 狼男は目を瞑って、どんと構えて座り込みました。娘が、跪き両手を合わせ、祈りの口上を述べ始めます。娘が習った教会の祝詞は、形式ばっていて、長ったらしく、うんざりするほど婉曲に、遠回りを繰り返して主への礼賛を続けます。いつの間にか、狼男は退屈して、そのまま眠りについてしまいました。娘たちはこっそり逃げ去って、教会の娘だけが滔々と、お祈りを続けていました。


 狼男がハッと目を覚ますと、いつの間にか夜明けが来て、日が登っていました。


「なんということだ!」


 狼男は太陽の光を浴びて、ぐんぐん犬っころへと縮んでいきます。


「ああ!ああ!騙された!」


嘆く狼に、娘が答えました。


「いいえ主よ。あなたは騙されてなどおりません。今やっと、祈りが終わりました。それでは主に、私を一番に捧げましょう」


狼に跪き、娘が首をたれ、それから優しくキスをして、狼の頭を優しく撫でました。狼はそれが嬉しくて、アオーンとなくと、娘を妻にもらい、結婚しました。



おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ