前を行く人
山の中の原生林を貫く遊歩道を歩いている。
舗装された道の中央に、センターラインのように手すりが設けられている。
先日の台風のせいか、左右から熊笹が倒れかかっている。
さて、左右のどちらを進んで行こうか。
「左側を歩くといいよ」
数メートル先を歩いているおっさんが言った。
「右のほうが倒れてる草が多いから」
見ると、おっさんのズボンは土と草の緑で汚れている。
では、何だかおっさんを実験台にしたようで恐縮だが、頂いた助言には従おう。
うん、確かに道の左側の方が歩き易かった。
そのまま数メートルほど進むと、日当たりがあまりない位置なのか、地面が濡れている。
「滑るから、気を付けなよ」
と、おっさんの声。おっさんのズボン、お尻に泥の染みがある。経験者は語る、か。
慎重に、濡れて滑りやすい道を進む。
おっさん、こちらに背を向けたまま、
「この辺りは‥‥」
今度は何だろう?
「熊が出るから、気を付けなよ」
振り返ったおっさんの首から上は‥‥。