第7話 説明の重要性
「ねぇアイ……洞窟だからこんななんだよね?他のマップはもっと違うんだよね?」
正直、フルダイブ型のゲームを甘く見ていた。
洞窟内のジメジメとした空気が完全再現されており、若干の息苦しさまである。
おまけに出てくるモンスターは、コウモリみたいなヤツは100歩譲って、まぁ許してあげなくもないけれど、よりにもよって私の嫌いなカエルのモンスターは本気で許せない。
しかも、人間の子供くらいの大きさがあるときたもんだ……
そんなわけで先程から、コウモリは殴って攻撃してあげているけれど、カエルは触りたくないので、殺意をのせて蹴り飛ばしている。
「あ~……ここより先のマップに進んでないから何とも言えないけど、基本はマップに合った敵が出てくると思うよ…………っていうかクロエ、何で素手で攻撃できるの?」
え?何でって……だってカエル汁とか付いちゃった武器を今後使うのが嫌だから、かな?あと『素手』というか、メインは蹴りだし。
靴なら、洗えばまぁいいかな?くらいの感じなんだけど、ダメだったのかな?
私、他の人よりステータス高いんだろうから、武器使わなくてもそこそこの攻撃力あるだろうと思って、カエル蹴り飛ばしてみたら、一撃で倒せたから、そのままそのノリでやってるんだけど……
「このゲームね、ちゃんと武器を装備しないと、敵を攻撃できないようになってるんだよ……まぁフルダイブ型だから、殴ったり蹴ったりする動作はできるけど、武器で攻撃しないとダメージが通らない仕様になってる……ハズなんだけどね」
『?』状態の私を見て、愛依が説明してくれる。
でも、仕様とか言われても、出来ちゃってるものは出来ちゃってるから、理屈を説明するには私のゲーム知識が圧倒的に不足している。
「まぁ……クロエに聞いてもわからないか……そのへんは追々調べていくとして……クロエ、武器持ってないの?」
「ん?何か杖みたいの持ってるかな?武器の説明見たら『耐久値』とかあったから、ここぞという時以外は使わない方がいいのかな?と思って装備してない」
そう!武器名の隣に表示されている『耐久値:92%』という文字!見るからに「0%になったら壊れますよ」と言わんばかりだ。
ゲーム始まった時から私が装備していた、この『大導師の杖』とかいう、これまた見るからに強武器そうな物を、おいそれと壊すわけにはいかない。
ちょっとくらい慎重になるのは仕方がない事だと思う。
ちなみに、耐久値が100%じゃないのは、試しに洞窟の壁を思いっっきり叩いてみたところ減少した結果となっている。
ちょっとした奇行に走るのは、ゲームの仕様を理解するためには仕方がない行為だと思う。
私は悪くない。
「あ、それなら心配しなくていいよ。減った耐久値は鍛冶屋に行けば回復できるよ。まぁお金……ゲーム内通貨は多少必要だけど、普通にゲームやってれば何てことない金額だね。たぶん狩り場独占とかさせないための処置か何かだと思うよ……あ、ちなみに鍛冶屋は、どの町にも一軒はあったりするから安心していいよ」
それ、早く教えて欲しかった……まぁ、それでもカエルには武器使わなかっただろうけどね。
「っていうかクロエ。杖を持ってるって事は、クロエってマジシャン系の職業なんじゃないの?魔法使わないの?」
「え?だって……持ってるスキルが多すぎて、どれがどの程度の攻撃魔法なのかわからなくて」
スキル欄で分別されている『パッシブスキル』っていうのは常時発動っぽいっていうのはわかるから、効果説明は後でじっくり読めばいいとして、他には『技スキル』と『魔法スキル』がある。
『技スキル』っていうのはザックリと見た感じは、武器で直接相手を攻撃するスキルっぽいっていうのはわかった。
そして肝心の『魔法スキル』。これが曲者で、私が今持ってるスキルの中では一番使える数が多い。
そのせいで、どの魔法がどの程度の威力で、どれだけの効果があるのかがわからなくて戸惑ってしまっている。
いや、消費MPと魔法名で、何となくは予想できる。
予想できるんだけど……今、この場で使うのにふさわしい魔法がどれなのかがまったくもってわからないのだ。
例えばだけど、炎系の魔法と思われるものだけでも『ファイアボール』『フレイムボム』『ハイ・フレイムボム』『エクストリーム・フレイムボム』『フレイムバースト』『ハイ・フレイムバースト』『エクストリーム・フレイムバースト』『フレイムストーム』『ハイ・フレイムストーム』『エクストリーム・フレイムストーム』と、これだけでも選り取り見取りな上に、別属性っぽい魔法が同じ数だけ存在する。
それに加えて、バフ魔法っぽいもの、デバフ魔法っぽいもの、回復魔法っぽいものと、とんでもない数の魔法名が羅列されている状態なのだ。
「クロエはまじめだねぇ……そんなの適当に使ってみて効果確認してみればいいじゃん」
慎重派って言ってほしいものだ……というか、愛依の考え方が適当すぎなんじゃないのかな?
「ほらほら、前方から大量にモンスターが来たよ。何かそれっぽい魔法適当に使ってみなよ……ちなみに、魔法使う時は、頭の中でもいいし口に出してもいいから、使いたい魔法をセットするんだよ」
いきなりすぎでしょ愛依!?説明も雑だし!?
ええと……それっぽい魔法を適当に……
(『エクスプロージョン』セット!)
とりあえず頭の中で『効果説明は読んでないけど、たぶん攻撃魔法だろう』ってのをチョイスしてみる。
すると私の視界の隅に、ゲージっぽい物が表示され、3秒弱でゲージが満タンになる。
「アイ!セットしたら変なゲージが出現して、即貯まったんだけど、どうすればいい!?」
「はやっ!?もう貯まったの?って事は、そんなに強い魔法じゃないのかな?……まぁともかく、ゲージが貯まったら発動可能だから、使いたいタイミングで魔法名を口にすれば、その魔法使えるよ」
私の質問に即レスしてくれる愛依が一緒にいてくれて良かったよ……私一人だったら、魔法も使えずにあたふたしてたかもしれない。
とりあえず、愛依に感謝しながら、私は魔法名を口にする。
「エクスプロージョン!」
その瞬間に、私を中心にして広がっていく灼熱の炎。
「ちょ!?まっ……!!?クロエ!?何その魔法!!?」
そして、私の使った魔法は、敵のみならず愛依も巻き込んでいき、全てを消し炭にしていく。
「ねぇクロエ……私、ファイターのレベル29で、最大HP500くらいだったんだけど、今クロエの魔法で、ダメージ表記が『11,497』って出たんだけど……チャージタイム短い魔法なのに、何でこんなに威力でかいの?っていうか、何でパーティ組んでる私も巻き込まれたの?」
全てを消し炭にした空間で、そこに残ったのは『衰弱マーク』を付けて、不機嫌そうにしている愛依だけだった。
そんな愛依に、「チャージタイム短いのは、たぶんパッシブスキルにある『高速詠唱』っていうのが影響していると思う」という言葉を言えずにいた。
「あ、今『レベル29』って言ったけど、デスペナのせいで1レベル低下して、レベル28になってるんだけどね……」
かなり不機嫌になっている愛依に、今更読んだ『エクスプロージョン』の効果説明に『敵・味方問わず自身を中心に半径5m以内にいる者全てを巻き込む範囲攻撃魔法』という事が書かれていた事は、尚更言えずにいた。
だって……だって愛依が「何でもいいから適当に使ってみろ」って言うから使っただけだもん!
効果説明すら読んでない魔法を使っちゃったとしても、私のせいじゃないもん!
私悪くないもん!!
……とりあえず、愛依といる時、この魔法は絶対に使わないようにしておこう。