第6話 洞窟入り口
「そんなわけで……やって来ました『エタール洞窟』!」
目的地に着くなり叫びだす愛依。
やけにテンション高いなぁ……
「人……多すぎじゃない?」
そんな愛依に対して、素直に思った事を口にしてみる。
そう、今ゲームプレイしてる全ユーザーが、この場所に集まってるんじゃないか、ってくらいに込み合っている。
「たぶんβ版からプレイしてる人達は、ほぼここに集まってるんじゃないかな?β版だとハンターランクⅮまでで、昇格ポイント貯まっててもランクCは解放されてなかったからね。製品版になって、ランクCへの昇格試験受けられるようになったから、それ待ちだった人で溢れかえってる状態だね」
愛依の補足説明が入る。
なるほどね。それで愛依も、その例に漏れずこの場所にやって来たのね。
「それで?ランクCの昇格試験って、どんな内容なの?」
思わず質問しちゃったけど、ランクSな私がランクCへの条件を知らないとか、やっぱり色々と問題あるんじゃないかな?いいのかな?
「……え!?ここに来るまでに説明したじゃん!?……何かボーっとしてるなぁ、とは思ったけど、本当に聞いてなかったの!?」
怒られた……
「あ……ごめん。歩きながらずっとスキル説明見てた……」
そうなのだ。
敵との戦いは、ただ持っている武器で叩くだけではなく、各職で覚えるスキルを活用しながら、より有利になるように立ち回りするものだ、という事を愛依に聞かされたため、自分にはどんなスキルがあるのかを、ステータスのスキル一覧から確認してみたところ、とんでもない量のスキルが目の前に飛び込んで来たのだ。
そして、スキル名を見ただけでは、効果がまったくわからない私。
いちおう、頭の中で指示すれば、スキルの効果が一つ一つ説明書きで表示されたので、初戦闘に備えて歩きながら色々と予習していたのである。
結果としては、愛依の発言をガン無視してしまっていたうえに、移動時間だけでは全てのスキル効果の説明を読み切れなかった、という現状である。
「まぁクロエが、このゲームに熱心になってくれてるならいいんだけどさぁ……」
そうは言いながらも、若干不満そうなのは何でなの愛依?
「ごめんアイ。悪いんだけど、もう一回教えてもらってもいい?」
愛依のご機嫌が戻るように、今度こそきちんと聞こうと、気合入れて尋ねてみる。
「はぁ……仕方ないなぁ……昇格試験の内容は納品クエだね。このエタール洞窟の最深部に生息してる『おばけカラハツキノコ』っていうモンスターがたまに落とす『猛毒の胞子』ってアイテムを5つ持ってこい、って内容ね」
え?そんなアッサリした感じな内容なの?昇格試験っていうから、凄い難解な手順を踏まなくちゃならないような面倒臭いヤツかと思って身構えてたよ。
「ドロップ率はそんなに高くないけど、こっちは2人だからね!周りの連中と比べて、単純計算しても効率は2倍だし!いいスタートきれそうだよ!」
確かに……今日ゲームを始めたばかりの人達は、まだこのマップまで来れないだろうから、ここにいる人達は全員がβ版からやってる、昇格目当ての人だけ。
つまりは、基本はソロでそのアイテムを入手しなくてはならないのだろう。
仮にパーティプレイしても、結局はそのパーティの人数分アイテムが必要になってくるから、効率的にはソロとほぼ一緒だ。
そこにきて私は、今日始めたばかりだけど、データがバグったせいで、このマップに来れるし、昇格に必要なアイテムも必要としてないから、私が入手した分は、全部愛依にプレゼントできる。
そう考えれば、愛依の言う通り、ここにいる人達よりも、愛依の方が早く昇格できる可能性が……ん?アレ?……ちょっと待って?『ここにいる人達』?
「ねぇアイ……ここって洞窟の入り口だよね?で、アイテムを落とす敵は最深部にいるんだよね?……何でここにいる大勢の人達は、入り口周辺で集まってるだけで、中に入ろうとしないの?」
「言われてみれば確かにそうだねぇ……んん?よく見ると、結構な人数『衰弱』マークが付いてるね。デスペナ付くほどの強い魔物ってここ出たっけ?」
えっと……通訳つけてくれないと、愛依の言ってる意味がわからないんだけど、どうしたらいいだろう?
「あ、衰弱っていうのは、戦闘に負けた時に付くやつで、一定時間ステータスが半減するっていうペナルティ受ける事ね……私はまだデスペナ受けた事ないから詳しくはわからないけど、あの人達の頭の上に変なマーク付いてるでしょ?ソレね」
『?』状態だった私に気付いて、愛依から説明が入る。
言われてみれば確かに、ここに居る人達の半数以上の頭の上に、下矢印みたいなマークがくっついている。
「んで、ここに来れるような人だったら、普通に倒せるような魔物しか出ないハズのマップなんだけど、あれだけ大勢の人が衰弱付けてるのは不思議だね~って感じかな?」
私でもわかるような説明ありがとう愛依……
「β版から製品版になって、敵の強さが変わった……とか?」
「う~ん……多少のバランス調整はあるかもしれないけど、ここまで極端に強さ変えるってのは考えにくいかなぁ……」
私の考えは即却下される。
まぁゲーム初心者が思いつくような考えなんて、そんなもんだよね。
「……聞いてみるか」
一言そうつぶやくと、衰弱マークを付けている人の方へと歩いていく愛依。
やっぱりコミュ力高いなぁ……私一人じゃ、絶対にその思考にはならないだろうな。
「ねぇねぇ、ちょっと聞いていい?皆、何で洞窟の入り口に集まってんの?衰弱付けてる人も結構いるけど、モンスターの強さ調整でもされて、超強くなってんの?」
私達と同じで、友達同士でプレイしているのだろうか?愛依は、そんな男性3人組に声をかける。
「いや、モンスターの強さは変わってねぇよ」
「ここに居るのは、洞窟内でPvPに負けた連中だよ」
「この洞窟の敵がそんなに強くないって言っても、さすがに衰弱状態じゃかなり苦戦するからな」
愛依の質問に、一斉に回答する3人組。
「PvP?そういや製品版になって解禁されたんだったね……ここにいる連中は、さっそく試した結果こんな状況になってるって事?」
「やりたくてやったわけじゃねぇよ……」
「そうそう。仕掛けられたんだよ……たぶん、ここにいる連中のほとんどが、そうなんじゃないかな?」
「ったく……ステータス高い連中ってのはホント傲慢だよ」
この人達、今はやる事がなくて暇なのかな?愛依ちょっと質問すると、全員で喋り出してるし……
「何となく想像はできるんだけど……洞窟の中で何が起こってるの?」
愛依も愛依でしっかりと会話に付いていってるし……私なんて傍で聞いてて、話の半分くらいしか理解できてないよ。
まぁとりあえず、愛依が3人組から聞いた内容はこんな感じだ……
β版からのプレイヤーは、私達と同じように、解放されたランクCになるために、さっそくこの洞窟にやって来た。
ただ、対象のモンスターはかなり多くいてリポップスピードも速くなってはいるものの、さすがにこの人数全員で、特定のアイテムを5つ集めるまで狩るには全然足りていなかった。
当然ながら発生する、モンスターの奪い合い合戦。
負けて衰弱マーク付いた状態では効率良い狩りができずに一旦洞窟から逃げなければならなくなる。
結果、狩り場を占領したのは、ステータスの高い上位プレイヤー陣。
そして、その場で出来上がってしまった『強い奴が狩り場を独占する』という暗黙のルール。
そんな事になっているとも知らずに、ホイホイと洞窟に入っていく、少し遅れて到着した大勢の人達。
「……ってわけで、ここに居る連中のほとんどが、その他大勢の人達ってわけよ」
「まぁウチ等もその一部なんだけどな」
「最深部入った瞬間にいきなりPvP仕掛けられてマジでビビったよ」
そんなわけで、ここにいる人達は『衰弱』が消えるまで何もできないでいる暇な人達って事らしい。
「なるほどね……んじゃあクロエ、さっそく行ってみようか!」
え?何でそういう結論になってるの!?
「待ってアイ!?話聞いてなかったの?今、狩りしてる強い人達が終わるまで待ってた方がいいんじゃないの!?」
「ん?だってクロエ。ハンターランク以外にステータスもバグったような数値になってるんでしょ?」
何やら邪悪な笑みを浮かべる愛依。
……何だろう。凄く嫌な予感がする。