第5話 奇妙なイベント
『冒険者ギルド』または『ハンターギルド』とも呼ばれている。
それは、このゲームのもっとも重要なファクターであり、基本となっているものである。
このゲームのモンスターは倒すと、経験値と稀にアイテムを落としてくれるが、お金を落とす事はない。
まぁモンスターが、その世界の人々の間で流通してる通貨を普段から持ち歩いてるっていう事自体が普通に考えればおかしいし、そもそもで、モンスターがどうやってお金を手に入れたんだ、ってツッコミ入れたくもなるよね?
閑話休題……
そんなわけで、この冒険者ギルドは、この世界のゲーム内通貨を手に入れるための貴重な収入源となっているわけである。
このゲームのプレイヤーは、まずはこの冒険者ギルドにハンターとして登録するところから始まる。
ハンターランクというものが設定されており、ランクに合った依頼を受ける事ができ、その依頼を達成する事で、お金とハンターポイントが加算されていく仕組みになっている。
高ランク者がランクの低い依頼を受ける事はできるが、その逆で、低ランク者がランクの高い依頼は受ける事ができない。
ただ、高ランク者が低ランクの依頼を受けた場合、達成しても貰えるものはお金だけで、ハンターポイントは加算されなくなっている。
当然かもしれないが、高ランク依頼の方が、より多くのお金が手に入るようになっている。
あ、ちなみにコレ全部、愛依からの受け売り情報です。
そんなわけで、やって来ました冒険者ギルド。
ギルド内は大きな酒場のような感じになっており、たくさんの椅子とテーブルが並んでいる。
入って左手側の壁に、何かよくわからない紙が張り出された掲示板があり、その奥にギルドの受付カウンターが設置されていた。
また、入って右手側には酒場用のカウンターがある。
何とも不思議な空間だ。
左手側は、窓も開け放たれて、明るく澄んだ感じなのに、右手側は薄暗くなっており、奥に行くにつれて瘴気でも漂っているようなドヨッとした空気になっている。
こんな真昼間なのに、数人テーブルに酒をのせて椅子に座っている人達がいるが、それがNPCなのかプレイヤーなのかは、見た目ではまったくわからない。
そんな冒険者ギルドに入ってきた私達2人。
愛依は右側には一切目もくれず、左側に設置されている掲示板の前に立つ。
「やっぱり、こんな田舎町っぽいギルドじゃ、そんなに良い依頼はないかぁ……っていうか、依頼書たったの3件しか貼り紙されてないとか、どれだけド田舎なんだか」
掲示板を見ながら愚痴をこぼす愛依。
それに釣られるように、私も掲示板へと視線を向ける。
……ん?今、愛依『貼り紙3件』って言った?
「ねぇアイ……少なくとも10枚以上紙貼ってあるように見えるんだけど……」
そう、掲示板の大きさからしてみたら、少ないかもしれないが、パッと見ただけでも10数枚の依頼書らしき紙が貼ってある。
「え?……あ、もしかして、ほとんどがCランク以上の依頼だから、Ⅾランクの私じゃ、依頼受けられないように見えなくなってるのかも」
この10数枚の依頼書を、愛依が見えない理由を口にする。
たしかに、愛依の言う通り、ほとんどの依頼書の『依頼ランク』と書かれている欄にBとかAとかの英字が書きこまれている、んだけど……
なんか『SSランク』って書かれてる依頼書が1枚見えるんだけど……
これって、どう考えても、私のSランクよりも上のランクだよね?
自分のランクよりも上のランクの依頼書が見えちゃってるんだけど……コレって見えていいやつなの?それとも本来は見えちゃマズイやつなの!?
今までゲーム類を一切やってこなかった弊害なのか、こういったパターンの疑問の答えがまったくわからない。
とりあえず、その辺の事は見なかった事にしておこう。
触らぬ神に祟りなし、だ。
おそらくゲームをプレイしていれば、そのうちわかる事なのだろう……たぶん。それまでは、私は余計な心配はせずに、愛依にくっついて行動していよう!
そんなわけで、愛依にならって掲示板をマジマジと眺めてみる。
ふと、依頼書が貼ってある場所とは別に、端の方の一角に、手配書コーナーのようなものがある事に気が付き近づいてみる。
そこには、凶悪そうな魔物や、凶悪そうな顔をした人の写真?リアルなイラスト?とにかく、姿形がわかるような状態で描かれており、下の方に討伐した時の報酬金額が書きこまれていた。
「あ、ソッチのやつは手配書だね。レアエンカで極稀に遭遇するんだよ。通常とはちょっと違うから見たらわかるとは思うよ……んで、通常よりも結構強めに設定されてる分、倒して報告すれば、そこに書かれてる褒賞金が貰えるって仕組みになってるってわけよ」
すかさず入る愛依の説明を聞きつつ、私はある一枚の手配書に手を伸ばす。
それは、周りの手配書に比べてあまりにも浮いていた。
凶悪そうな魔物や、一目で犯罪者とわかるような人相の人に混じって、幼さの残る長い髪の少女の手配書。
そして、他と比べて高すぎる褒賞金の額。桁が違いすぎて冗談としか思えないような金額になっている。
「ルーナ・ルイス……懸賞金10億?」
私が手に取った手配書を覗き込みながら、愛依が書かれている事を読み上げる。
「こりゃたぶん、このゲームの雰囲気を出すためだけの飾りみたいなもんだね。所持できる金額のカンスト値超えてるし……そもそもで、どんな悪さしたらこんな額がつくんだか」
そうだよね。いくらゲームとはいえ、さすがにこの額はないよね。
何で私は手に取ってまで見たりしたんだろう?
「ルーナ・ルイスは実在するぞ」
突然後ろから声をかけられて振り返ると、そこにはモブっぽい顔をしたオジサンが立っていた。
何だろう?ガタイはよさそうだから、ハンターギルドに所属してる人なのかな?
「この辺に住んでる奴なら誰でも知ってる昔話に出てくるぜ『悪さが過ぎるとルーナ・ルイスに消されるぞ』ってな。俺もガキの頃は悪ガキだったからな、よく話を聞かされてビビらされたもんだ」
「昔話って……それってもう、この子老衰で亡くなってるんじゃないの?」
すかさず愛依が反応を返す。
コミュ力高いなぁ愛依……
でも『実在する』って言ってたよね?『実在した』じゃなくて?
「そう思うだろ?だが、何百年も前から目撃例が絶えない上に、死んだって話は一向に聞こえてこねぇんだよ……まぁお嬢ちゃん達もルーナ・ルイスに遭遇しねぇように気を付けな」
それだけを言い残して、酒場の方へと去って行くオジサン。
一体何だったんだろう?
「NPCが話しかけてくる事とかってあるんだね?」
「ん~……普通は無いんだけどね。何だろう?この手配書を調べる事がスイッチになってたのかな?」
何気なしにつぶやいた私の言葉に、愛依がすぐさま答えてくれる。
っていうか何?普通は無いの!?じゃあ今の何なの!?
「アハハハ。何かヤバ目なイベントのフラグが立っちゃってたりしてね。良かったじゃんクロエ」
いや、良くないし!?
せめて、このゲームに慣れるまでは、何事もなく普通にプレイしたいんだけど!?
どうしよう、本当に先行き不安になってきた。