エピローグ
「くっそ!クロエどこ行きやがった!!」
「もう4キルもされてんだぞ!?まだやんのかよ!!?」
「ここまでやられてんだ!もう意地でも一矢報いてぇだろ!!……っつうか誰だよ集団でかかればクロエ倒せるって言った馬鹿は!?」
「『きのこ様』だろ?ランキング2位の」
「は?言った当人も3キルぐらいされてたじゃん?前回のクラン戦でクロエ倒したって噂はガセかよ?」
「いや、アイツも4キルされてたぞ。しかも最後の一回はクロエの金魚のフンしてる女にやられてたぞ……だからアイツ、もうランキング2位じゃなくなってるぞ」
「きのこヤローただの雑魚じゃねぇかよ!!?」
「ランキング戦、組み合わせ運がよかっただけだったんじゃね?大方クロエ倒したって噂流したのも、きのこ本人なんじゃね?」
「そりゃ可能性高いな……いや、とりあえず今はそんな事はどうでもいい!とにかくクロエ探せ!もう時間がねぇよ!」
…………物陰に隠れて、騒がしい連中をやり過ごす。
数十人の男性に追われる、というモテ期がいきなりやって来たような状況ではあるのだけれど、こういう追われ方は遠慮したかった。
あ、ちなみに只今『ランキング入れ替え戦』というイベントの真っ最中である。
2時間限定のイベントで、ゲームにログインしているユーザー全てが参加できるイベントであり、この2時間の間だけは、対人戦で敗北してもデスペナを受けない仕様になっており、いくらでもPvPし放題なのだ。
そしてPvPして勝った相手が、自分よりもランキングが上だった場合、その相手とランキング順位が入れ替わる、というイベントである。
あ、さすがにHPが0になった場合、その場で再行動できるようなゾンビ仕様ではなく、ランダムでフィールドのどこかで復活するようになっている。
いたるところでPvPが発生するようなイベントではあるのだが、実際はそうはなっていない。
何故ならば……ランキングが表示されてるわけではないので、誰が自分よりも上の順位なのかわからないのである。
自分よりランキング下のヤツに喧嘩吹っ掛けて、勝っても何も変わらない。
それどころか、無駄に体力を消耗してしまって、次戦でうっかり自分より下のランクのヤツに負けて、順位が下がってしまう危険性まででてくるのだ。
そうなってくると、確実に自分よりも上のランキングである、有名な上位ランカーが狙われる事になる。
まぁそれはそうだよね……だって負けてもデスペナ無いんだから、何度もやってればそのうち倒せるだろう、って思考になる。
そして……そんな上位ランカーでも、顔まで割れているくらいに悪目立ちしている人は少ない。
と、いうか……何故か私以上に悪目立ちしている人はそうそういないのだ。
そんなわけでこのイベントは、その辺の事情も全て考慮したうえで仕組まれた、私に対する嫌がらせとしか思えない、運営の……っていうか、ルーナの思いつきで始まったイベントなのである。
「ルーーーナァーー!!!」
無駄なのはわかっているけど、とりあえず叫んでみる。
どうせ私がこうやって叫んでいるのもわかってて、今頃大笑いしているだろう。
あ、そういえば。
私の身体に起こっていた異常についてなのだけれど……
『丸井 和』の身体が、魂を通じて『クロエ』の能力を手に入れてしまった事に関しては予想外だったらしく、こちらに関してはどうにもならないと言われてしまった。
まぁ力加減を間違えないようにすれば、あとは簡単にはケガしない身体になっただけって思えば、ギリギリ許せるかな?という感じになった。
そして、魂が勝手に身体を移動する現象は、『丸井 和』の身体に簡易的な結界を作って、魂が勝手に外に出ないように固定してもらった。
結界が簡易的なのは、ゲーム機を媒体にした時のみ、結界が解けるような仕組みになっているらしい。
まぁつまるところ、普通にゲームを起動しない限りは、勝手に魂が移動できないようにしてくれたのだった。
……そう、そういうハズだった。
何と言うか……結局、魂ごとゲームにログインする仕組みは変えられなかったので、ゲーム内で死ぬとリアルでも死ぬ、というヤバイ状況に変化はなかったのだ。
なので私は「じゃあログインしなきゃ安全じゃない?」という結論に達して、数日ログインするのをやめたのだ。
しかし、それをルーナは許してくれなかった……
私がログインしないと、簡易結界を解いて、勝手に『オルメヴァスタ』の世界へとログインさせられてしまうようになってしまい、このゲームからは逃げられない状態にされてしまった。
それは、まさに今もそう!
こんな、私だけが集中して狙われるであろうイベントになんて参加するつもりは微塵も無かった。
ゲームにログインしているユーザー全員が対象のイベントだったので、私はログインすらしなかった。「イベント終わったくらいにログインすれば、『なんで今日ゲーム来なかった?』ってルーナに怒られる事もないだろう」とか思っていたのだが、あろう事か、ルーナは謎の瞬間移動で私の部屋までやって来て、怪しい魔法で私を眠らせて、強制ログインさせられてしまったのである。
そんなわけで、私は現在、絶賛ルーナのおもちゃと化しているのである。
憂さ晴らしに、ちょっとくらい叫んだって罰はあたらないだろう。
「ちょっ……!?クロエ!?叫んだりしたら居場所バレるって!?」
罰はあたらないかもしれないけど、一緒に隠れている愛依からは怒られた……
どさくさに紛れて、愛依もランキング2位になっているため、私と同じで追われる立場となっている。
「っていうかさ……クロエ一回、わざと負けてランキング1位を誰かに譲っちゃえば?」
……え?愛依さん?アナタは突然何を言い出すのですか?
「クロエってさ、ランキングにあんまりこだわり無さそうだしさ……毎回毎回色々な人にケンカ売られるのって『ランキング1位』ってのが原因なわけでしょ?追われまくるのが嫌なんだったら、そういうのもアリなんじゃないかな、って」
愛依さん……アナタは知らなでしょうけどね、私ね、一回でも負けたら死んでしまうんですよ?リアルに!
「ほら、所詮はゲームなんて遊びなんだし……苦痛を感じてまで称号にこだわる必要もないでしょ?ゲームや遊びは楽しくやらなきゃ!」
……いやいや、このゲームは……このゲームだけは……
「ゲームは遊びじゃできません!!」
「いつの間にそんなガチ勢になったのクロエ!!?」
二人して叫ぶ。
「いたぞ!!クロエこっちにいやがったぞ!!」
そして見つかる私達。
「逃げるよアイ!」
愛依の手を握って走り出す。
「ねぇクロエ……クロエだったら追って来てる連中普通に倒せるんじゃないの?逃げないで戦っちゃえば?」
「……疲れるからいいの!」
そう、魂が肉体に馴染んでしまったからなのか、強力な魔法とか使いまくると、普通に疲れるようになってきたのだ。
なので無駄な戦いはあまりしたくない。隠れてやり過ごせるなら、それに越したことはない。
このイベント自体は、後2・3分で終わる。それまで逃げきれば何も問題はない。
問題があるとすればルーナだ。
次はどんな無茶苦茶なイベントを仕組んでくるのかが、まったく読めない。
そして、そんなルーナからは、私は逃げる事ができない。
ただ、なんだろう……若干ウンザリする気持ちはあるのだけれど、ルーナに振り回される事に慣れてるこの身体のせいなのか、不思議と嫌な気分にはならない。
ルーナとはたぶん、今後もずっと付き合っていく事になるのだろうが、それが嬉しいとさえ感じてしまうのは、この身体と魂にしみ込んでいる記憶のせいなのか、それとも私の本心なのか、それはわからない。
まぁ先の事は何もわからない。
なので今はただ、このゲームを死なない程度に楽しもうと思う。
もちろん、遊び感覚ではなく、真剣に!
このゲームは遊びじゃできないのだから……
ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。
本来考えていたのは、ここまでが序章みたいな感じで、ここから、運営サイドのルーナによる無茶ぶりイベントを乗り越えたり、現実世界でもひと騒動あったり、と色々考えてはいたのですが、それだと長くなりすぎる上に、終わり方がまったく思いつかなかったので、とりあえず区切りの良いここまでで終わりにする事にしました。
先の事はわかりませんが、この作品は書いていて楽しかったので、先の展開がうまくまとまったら、もしかしたら続きを書き始めるかもしれません。
とはいえ、私の脳はあまりスペックがよろしくないので、こんな事を書いておいて、まったく続き書かない可能性もあるのですが……
ともかく、もし書き始めたとして「別に読んでやってもいいよ」という方がおりましたら、その時はよろしくお願い致します。




