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第34話 演技

 愛花さんと話した内容を思い出しながら、一つ大きく深呼吸をする。

 愛花さんは、ルーナさんの目的が『私の前世の記憶を戻す事』だと言っていた。


 ただ、何となくだけど確信がある。

 私が前世の記憶を完全に引き継ぐ事は、おそらくないだろう。


 たぶんだけど、記憶を取り戻しているのなら、前世での出来事の夢を見た時に戻っている。


 ルーナさんには悪いけど、私はあくまでも『丸井 和』であって、ルーナさんの知る『西野 ルカ』ではないのだ。

 私はただ、このクロエの身体に残った記憶を『覗き見る』事しかできないのだと思う。


 しかしそれでは、ルーナさんは目的を達成する事ができない。

 つまるところ、私はずっとこのまま『丸井 和』と『クロエ』の二重生活を続けていかなければならなくなる、という事になる。

 正直それはちょっと精神的に疲れるので勘弁願いたい。


 だったらどうするか?

 私なりに、無い頭振り絞って色々考えて一つの結論を出した。


 それは……

 『ルーナさんの前で、記憶が戻ったフリをして、今の生活を改善してもらう!』という、結構穴が大きい作戦だ。


 失敗するリスクは高いかもしれないけれど、このまま何もしないで、ずっと今のままでは埒が明かない。


 大丈夫!クロエ……いや、西野ルカの思考や、ルーナさんに対する口調や想いとかは、夢の中でだけど何となくだけど理解できたし!何と言っても『クロエの一生』を長々と夢で見てたんだし!やれる!私ならきっとルーナさんだって騙せるハズだ!!


 私はもう一度大きく深呼吸をして、意を決してルーナさんへとダイレクトチャットを送る。


「ルーナさん……話したい事があるんですけど、いいですか?」


「はいはい、今度はどうなさいましたか?私を殺す覚悟でもできましたか?」


 ダイレクトチャットで話しかけた瞬間、すぐに私の真後ろから返信がきて若干驚く。

 いきなり現れて即レスするのは心臓に悪いからやめてほしい。


「ルーナさん……いえ、この話し方はやめます…………ルーナ。私、色々思い出したの」


 前振りも何もなく、いきなり本題、といわんばかりに、ルーナさんに対する言葉遣いを、夢の中で見ていたソレに合わせてみる。


 ルーナさんにゆっくりと考える時間を与えては駄目だと思い、不意打ち気味に話し始めてみたものの、内心バレないか、私心臓バクバクなんだけど……


「…………ルカ?」


 表情には出ていないながらも、ルーナさんから返ってきたつぶやきは、若干動揺しているようにも感じられた。


「うん、『西野 ルカ』でもあるよ。なんて言うのかな?2人分の記憶が混載してる、って感じかな」


 いや、もちろん嘘なんだけどね。


「この辺りの風景もだいぶ変わっちゃってるね……私にとってはあんまり実感はないんだけど、久しぶり……なんだよね?ルーナ」


 嘘だと疑われないように、ちょっとした小ネタも挟み込んでおく。

 こういう地味な積み重ねって大事だよね?……たぶん。


「そうですね……数百年……随分と時間を費やしてきましたね……ルカ、貴女と再び出会う事を願っておりました」


 あれ?これって自白した感じ?


「って事は、やっぱり(なごみ)に言った『偶然こうなった』っていうのは嘘だったんだね」


「あらあら、気付いてらしたんですか?」


 まったく悪びれる様子もなく、シレっと言うなぁ……


「まぁ……『偶然、元々の魂を求めていた蘇生された身体があって……偶然、愛依に誘われたゲームの世界にその身体があって……偶然、私の魂がその『求められていた魂』だった』なんて出来すぎだよ。偶然が3つも重なれば、もうソレは必然だよ……そして、ソレを必然的にできる人物なんて、私が知る限りじゃルーナくらいしか思いつかないからね」


「『魂を求めていた身体』?ああ……そういえば、そういう設定でしたね」


 こ……この人は……せめて自分が考えた嘘設定くらい覚えておいてよ!


「やっぱりルーナの仕業だったんだね……って事は、魂がフラフラ出歩く現状を、ルーナなら元に戻せるんだよね?」


 ちょっと寄り道したけど、一番言いたかった本題をやっと口に出来た。

 『丸井 和』からではなく『西野 ルカ』からのお願いだ。これならルーナさんも……


「記憶が2つ混載しているのでしたら、あちらの世界とこちらの世界での二重生活する事に何も不都合はないのではないですか?」


 ダメだ……ルーナさんには響いてない。

 いや……それとも『記憶が戻ったフリをしているだけ』っていうのがバレているからの反応なのだろうか?


「そういうわけにはいかないよルーナ……記憶が戻ったっていっても、私には今の生活もあるんだし……」


 駄目だ!こんな言い訳じゃ『丸井 和』の願望丸出しじゃないか!記憶が戻ってない事を露呈するだけで、何の効果もない。

 何か……何かないだろうか?

 記憶が完全に戻っていないと知り得ない情報とか……

 思い出せ!夢の内容を細部まで思い出すんだ私!


「もう……もう、西野ルカ(わたし)は死んだんだよ…………沙川さん」


 咄嗟に口が動く。

 本当にこの身体の記憶なのだろうか?それとも私が、夢の細部を記憶していて咄嗟に出たのか?


 『鑑定・改』のスキルでも見れなかった、ルーナさんの本名……


「……その名前を耳にするのは実に数百年ぶりですね……色々と思い出してしまいます……」


 効果……あったのかな?


「私はね……ルカに謝罪できなかった事がずっと心残りでした。私の都合で色々と振り回してしまって……それでも私を慕ってくれていたのに、私の慢心から命を奪われてしまい……」


「それでも……私はルーナと一緒にいられて幸せだったよ。後悔なんてしてない……あ、唯一の後悔は、私も『不老不死』のスキルを手に入れて、ずっとルーナと一緒にいる、っていう約束を守れなかった事かな?」


 ルーナさんの喋りが一瞬途切れた隙をついて、すかさずフォローを入れておく。

 これは夢の中の私がずっと想っていた事なので、嘘偽りない『西野 ルカ』の本心だ。


「それは、貴女が勝手に言っていた事で、約束までした覚えはありませんよ……私は」


 ルーナさんは、そう言いながら両手で顔を覆い、表情が見えないようにしていたが、声が若干震えており、泣いているのがバレバレになっていた。


 これは、説得成功できるかな?


 それから1分弱、無言の時間が流れる。

 2人しかいない空間での、片方は泣いている状況……微妙に気まずくて、凄く長い時間に思えた。


「失礼……随分とみっともない姿を見せてしまいましたね。ともかく、伝えたい事を言えて、聞きたかった返答も聞けたので、だいぶスッキリしました」


 そう言って顔を上げたルーナさんは、もういつものルーナさんだった。


「それにしても誤算でした……記憶の完全定着は無理なんですね。一つ勉強になりました……ナゴミさんにも、下手くそな演技をさせてしまって申し訳ありませんでした」


 ……ん?アレ?


「バ……バレてた、んですか?」


「ルカを演じるなら、もっとオドオドした感じを出さないとダメですよ。私が何年ルカと一緒にいたと思っているんですか?ちょっとやそっとじゃ違和感に気付いてしまいますよ」


 いや、夢の中だとこんな感じだったよ!?

 そりゃあ十数年一緒にいただろうけど、その後のブランクは数百年でしょ?『ルカは常にオドオドしている』ってイメージが先行しすぎて、実物よりもオドオドしている虚像を、実物イメージで固定化してない?どんだけ西野ルカに失礼なんだコノ人!?


「ルーナさん……気付いてたなら言ってくれれば……」

「敬語も『さん』付けも結構です」


 言葉を途中で遮られる。

 でも待って……敬語も『さん』付けも結構です、って……ルーナさん自分の口調ちゃんと自覚してる?


「魂を認識できる私にとっては、貴女は『西野 ルカ』以外の何者でもありませんからね……私を騙そうとした罪悪感が少しでもあるなら、私の前では先程のように『西野 ルカ』であってください」


 ちょっと待って……『騙そうとした罪悪感』って……私も今までルーナさんに騙されてたような気がするんだけど、その辺に罪悪感はないのかな?


「まぁ私もアナタを騙していたわけですし、そちらに関しては謝罪の意味を込めて、魂がフラフラ出歩く現象を何とかしてさしあげましょうか……」


 あ、こっちからツッコミ入れる前に気付いてくれた……って!今何て言った!!?


「え……と、いいんですか……じゃない!いいの?随分と引っ張ってたのに、そんなにあっさりと……」


 敬語で喋りそうになったのを咄嗟に引っ込めて言い直す。

 ルーナさんに対しては、敬語よりもコッチの方が楽に喋れる気がする。


「先程も言ったでしょう?私にとって貴女は『ルカ』なんですよ。その貴女と過去の清算をできたので、私の目的はほぼほぼ完了してますからね」


「え!?ちょっと待って……ルーナの狙いって、その程度の……?」


「私にとっては重要な事だったのですよ……まぁ所詮は私の自己満足なんですがね。『きちんとルカに謝って許してもらいたい』と……」


 ああ……うん、わかるよ。自己満足にしかならないけど謝りたい、って気持ち。

 でもさ……謝罪文の中に『私の都合で色々と振り回してしまって……』って一文がなかったっけ?


 ……今、まさにソレじゃん!!!!?


 大丈夫!?ねぇ!!この人本当に反省してるの!?


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