第33話 名探偵愛花さん
『古の幻林』。
一人になりたい時は、最近よくここにやってくる。
このマップだったら、他のプレイヤーはランク制限がかかっていてまだ入って来れないからだ。
……モンスターはちょっと厄介だけどね。
今はレベル上げをする気分ではない。
何かしたいわけではなく、現実世界の私の本体が爆睡しているせいで、魂がゲーム世界の身体に引き寄せられて、帰りたくても帰れないのだ。
先程のルーナさんとの会話を思い出してみる。
私が、このゲームを始める前の、普通の生活を送るためにはルーナさんを殺さなくてはならないらしい……
正直そんな事をしたくはない。
そもそもで、あのルーナさんを、私が倒せるとは思えない。
まぁルーナさんは「アナタがそれを望むなら、私は無抵抗のまま殺されてもかまいませんよ」とか言ってたけど、なおさらできないっての!
私はどうするべきなのだろう?
今の生活か、通常な生活どっちがいいのか?と聞かれれば、もちろん後者だ。
ただ、今の生活でも、そこまで害があるのか?と言われれば、何とも答えにくい。
ルーナさんの話では、本体はちゃんと寝ているので、睡眠不足や極度の疲労に襲われる事はないらしいし、この世界でのステータスを引き継いじゃってるんで、本来なら死んでしまうような事故に巻き込まれても何ともない……この前の『硬球&ガラス片直撃事件』みたいな感じに。
デメリットといえば、力加減を間違えると、簡単に器物破損をしてしまう事だろうか?
あと、今みたいに暇を持て余す事になったりとか?
まぁ多少のメリット・デメリットはあるにしても、それはルーナさんを殺してまで何とかしなくてはならない程のものなのだろうか……そんな事を考えている。
「あ~……そりゃあ完全にアンちゃんの術中にハマってるね西野」
そんな私の考えを一笑する愛花さんの一言。
古の幻林をフラフラしてたら偶然会ったので、何となくで相談してみたらコレである。
というか……何だろう……この人って、このマップに生息してるのかな?
「アンちゃんが死ねば解決する?『無抵抗のまま殺されてあげてもいい』?無い無い!アンちゃんも不老不死のスキル持ちだし、私が全力で攻撃してもノーダメージのアンちゃんをどう殺すっていうの?」
え?ステータスカンストの愛花さんでノーダメージ?……それってチート?いや、ルーナさんって運営側だからチートって扱いじゃないのかな?
「何て言うんだろう?アンちゃんってね、次元が違うのよ。文字通りね。身体が、人じゃなくて神の域になってる?説明が難しいんだけど、とにかく私達がどうこうできるような存在じゃないのよ」
あ~……『鑑定・改』のスキルでステータス見れなかったのってそういう事なのかな?何となくわかったかも。
「まぁアンちゃんって秘密主義……っていうか『無駄に情報を発信しない主義』っていうの?情報の価値を重視するタイプだから、今回の件に関しては、私にすらほとんど何も教えてくれないのよ」
それはわかるかも。ルーナさんって、聞かれなければ何も言わないし、言っても情報小出しする感じだし。
「ただ、今聞いた西野の話と、前にアンちゃんから聞いた話、それと昔の……西野が生きていた頃の出来事を統合すると、何となくだけどアンちゃんが何考えてるのかは予想できるかもしれないね」
前世の私が生きてた頃……か、つまりはアノ夢での出来事って事だよね?やっぱりその辺の事が関わってるのかぁ……
「向こうの世界での西野の身体の異変とか、昔の西野の記憶が戻りかけてるとか、その辺ひっくるめて『ちょっと想定外』とか言ってるアンちゃんの発言は信じない方がいいかもね……用意周到なアンちゃんに限って、そのあたりの事を想定してないわけない。たぶん『確証はないけど、ほぼそうなるだろう』くらいの確率だったと思うよ……私には『西野の魂がコッチの身体に馴染みすぎると、ゲーム世界で死ぬと魂ごと絶命する』みたいな事は言ってたから、魂に関してはある程度わかってたんだね」
……ん?今サラッととんでもない事言わなかった?
「え?ちょっと待ってください!ゲーム内で死ぬと現実でも死ぬってどういう事ですか!?っていうか、愛花さんと共闘した時、私一回死んで……」
「あ~うん、あの時はまだ魂が馴染みきってなかったんじゃない?だから、あの時私『衰弱付いただけで済んでよかったね』って言わなかったっけ?……まぁたぶん、今はもうアウトだろうね」
言われた!確かに言われた!!私あの時「衰弱付いたのに何がよかっただよ!」とか思ったから覚えてる!
っていうか、あの時点で色々知ってたなら教えてくれればいいのに!……いや、ダメか。あの時は身体に何の異変も起きてなかったから、いきなりそんなとんでも話をされても、絶対に信じなかった自信がある。
「そんなぁ……愛依と楽しむためだけに始めたゲームが、リアルでの生死がかかった逃げられないデスゲームになるなんて……」
「アハハハハ。もうこのゲーム、遊び感覚じゃプレイできないね。ドンマイ西野!」
笑い事じゃないっての!?
「まぁともかくアンちゃんの狙いだけど……たぶんだけど『西野の昔の記憶が戻る事』だと思う。アンちゃんが姿くらませて何か始めたのが、西野が殺された後からだからね……アンちゃんも凄い後悔してたんだと思う。だから、記憶を戻した西野に、何かしらをして気持ちに踏ん切りをつけようとしてるんだと思う」
その後小声で「私も西野を助けられなかった事、凄い後悔してるし……」とひとり言のようにつぶやいていた。
「……仮に前世の記憶が戻ったら……私、何されるんでしょうか?」
ちょっと……いや、かなり怖い。
「いやいや、そんな身構えなくても、悪い事はされないよ。何だかんだで、アンちゃん西野の事好きだったしね」
そうかな?夢で見た記憶だと、客観的に見て『いいようにおだてられて、滅茶苦茶やらされてた』って印象が強いんだけど……
「あと、今起こってる西野の身体の異変を治す方法だけど、アンちゃんを殺す以外の方法があると思うよ。そして、その事をアンちゃんは知ってる」
……え?本当に?
「アンちゃんの事だから、あくまでも『一番手っ取り早い方法』を言っただけで、その方法しか無いってわけじゃないと思うよ」
話を聞いてると、さすがは長年ルーナさんの親友をやっている愛花さんだ!と言いたくなる。ルーナさんの事をよくわかってる。
これで、また私にも平凡な日常生活が戻ってくる希望が……
「まぁ、今話してた事は、あくまでも私の想像だから、真に受けずに話半分くらいで心に留めといてくれればいいよ」
……希望、出てきたわけじゃないかもしれない。




