第31話 噂の真偽
第一回クラン戦。
その名の通り、各クラン同士がバトルロイヤル方式で戦うという、大乱戦イベントだ。
各クランのアジトに、手のひらサイズの水晶玉のような物が配布され、ソレを破壊されると、そのクランはゲームオーバーとなる。もちろん、落とした程度でも簡単に壊れる仕様となっているので、力の弱い魔法職でも破壊は可能となっている。
各クランは、クランアジトで自分達の水晶玉を守りつつ、他のクランを倒してポイントを稼ぐため出撃しなくてはならない。
そんな、攻守のバランスを考えたチームプレイが要求されるイベントだ。
もちろん、ランキング上位を目指そうとしている愛依や皆斗がいる時点で、私達のクランも参加が確定していた。
まぁ、私とルーナさんで攻守を振り分ける事が可能なので、その時点で負ける要素は皆無となっていた。
とりあえずクラン戦の結果だけを先に言おう。
……私達のクランは1ポイントも獲得できずに敗退した。
もちろん、少人数とはいえ、人員的に負ける要素のない私達のクランが、そんな残念な結果になったのには、やんごとなき理由がある。
このクランには、致命的な穴が存在していたのだ!
そう!……私、という穴が!!
えっと……配布された水晶玉を、さっそく手に取って見ていたら、うっかり手を滑らせて、地面へと落下させてしまった、というか何というか……
いや!もちろんワザとじゃないよ!
それなのに愛依も皆斗も凄い怒るし……ルーナさんはめちゃくちゃ笑ってたけど。
まさか、この歳になってガチ泣きするハメになるとは思わなかった。
そんなわけで、そんなクラン戦が行われた翌日。
通常通り学校へと登校した私は、自分の席にて絶賛落ち込み中となっているのだった。
「あれ?和、もしかして昨日の事まだ気にしてる?」
私のうな垂れっぷりを見て愛依が近づいてくる。
そりゃあアナタに、あれだけ怒られたんだから気にしてるに決まってるでしょうに……
「いやぁ……ちょっと小言言ってやろう、くらいな感じだったのに、泣き出しちゃったからどうしようかと思ったよ」
小言?アレが?……アレかな?いじめっ子はイジメてる自覚がない、ってのと同じ感覚なのかな?めちゃくちゃ怒ってたじゃん。
「そう睨まないでよ。ゴメンって……それに昨日も、ちょっと言い過ぎたって謝ったじゃん。そんなに根に持たないでよ」
残念ながら私は、色々と引きずる女なのだ。
まぁ表には出さないようにはしてるけどね……それに、正直この程度での事で、愛依と仲違いはしたくはない。
私は色々と健気な女なのだ。
「だって……クラン戦のために、色々と準備してた愛依や皆斗の努力を、私が一瞬で台無しにした、ってのは事実なんだし……愛依だって『少人数クランだけど、1位取れる!』って自信はあったんでしょ?」
まぁ私の場合、ルーナさんの性能がチートレベルだってのを知ってるから「楽勝だ!」って思ってたけど……いや『チートレベル』じゃないな。ルーナさんの口ぶりだと、ルーナさんは、自分を『神』だって言ってたから、それを運営サイドって考えるなら、実際にチートしているのかもしれない。
まぁともかく、私だって「勝てる」って思ってたくらいだから、綿密に計画を考えるような愛依は、勝つための作戦とか色々考えていて、勝利への流れはできており、私が思うよりも正確に「勝てる!」と思っていただろう。
「それはまぁ……勝てる自信がなきゃイベントなんて参加しないしね」
それはそれで極端だなぁ……勝てなくても遊び感覚で参加してもいいと思うんだけど……
「でもアレだ!思いっきり負けてよかったかもね!ほら、私達のクランって少数精鋭じゃん?これでクラン戦1位なんて取ったら、たいした実力も無いくせに『クラン入れてくれ』とか申請飛ばしてくる連中が大挙してやってくるだろうから、ソレを未然に防げたって考えれば、ね?」
さすがは愛依。すごいプラス思考だ……いや、たんに私を励ましてくれてるだけかな?
「なぁ?昨日のイベントでクロエいた?」
「いや……なんでも、課金装備で固めたランキング2位の『きのこ様』が、真っ先にクロエのクラン潰したって噂だぞ」
ふと教室の片隅から、聞きなれた単語が聞こえたため、そちらに視線を向ける。
「ふーん……小林と菊池も『オルメヴァスタ』やってたのか。ここに、その噂のクロエさんがいるってのにねぇ」
愛依も気付いたようで、私と同じ方向へ視線を向けたままつぶやく。
当の小林君と菊池君の会話は、まだ続いているようだったので、何となくそちらに耳を傾けてみる。
「俺、イベント後に、きのこ様に『クラン入れてくれ』ってメッセ送ったんだけどダメだったんだよな」
「マジで?俺はイベント終了と同時に、同じようなメッセ送ったら、きのこ様さんのクラン入れたぜ!」
「うわ、マジかよ……俺もお前もステ同じくらいなのによぉ……タイミングミスかぁ…………もうダメ元でクロエのクランにでも申請送ってみっかな?」
なんだろう?会話の流れを聞いてると、私って嫌われてるのかな?
それにしても……
「愛依がさっき言ってた『たいした実力も無いくせに『クラン入れてくれ』とか申請飛ばしてくる連中が大挙してやってくる』って、もしかしてああいう事?」
「まぁ……そんな感じかな?……っていうか、小林も菊池も完全に寄生目的じゃん……ダメだなアイツ等」
会話が盛り上がり、大声で話している二人。そんな二人には聞こえないような音量で会話をする私達。
「クロエのクランは無理じゃね?クランマスターはクロエじゃなくて、寄生目的の雑魚らしいから、クロエに言ってもクラン入れねぇらしいぞ。しかも誰がマスターかは誰も知らないときたもんだ」
「うわ……最悪だな、その寄生君」
凄いなぁ……本当に噂って一人歩きするんだなぁ……
「『寄生目的の雑魚』かぁ~……ふ~ん、へぇ~……お前等にだけは言われたくないんだけどなぁ……」
あ……見なくてもわかるレベルで愛依が怒ってらっしゃる。
「それに、もうクロエの時代は終わりだぞ。アイツ一銭も課金できない、時間だけしか持ってない貧乏ニートらしいから、コッチが課金装備で固めれば、もう何もできないらしいから」
「まぁたしかにな……課金無い状態で強いって事は、それだけの時間をゲームにつぎ込んだダメ人間って事だもんな」
あ、どうしよう。愛依だけじゃなくて、私もちょっとイラっとしてきたんだけど……
「どうするよ和?アイツ等のキャラ名聞き出しといて、ゲーム内でボコる?」
確かにそれも有りかもしれない。
現実世界ならともかく『オルメヴァスタ』内だったら、絶対にあの二人には負けないだろうし。
……いや、待てよ?
この前ルーナさんから聞いた話を考えると、私……現実世界でも、あの二人をボコれるんじゃない?
『クロエ』のステータスがどれくらい、現実世界の私に反映されてるのかはわからないけど、硬球直撃でもノーダメージだった私なら……ってそっちは防御力か。じゃあ攻撃力は?
試しに、椅子に座った状態のまま、腕を軽く上にあげて、そのまま勢いよく机を叩いてみる。
バギャっ!!
今まで聞いた事もないような音を立てて、私の机は粉砕された。
うん……『割れた』とかのレベルじゃなくて『粉砕』したのだった。
「え?和?……コレ……」
目の前にいた愛依をはじめとして、クラス中が一斉に静まり返る。
「あ……え……っと、手ついたら……机壊れちゃった……何だろう?今まで酷使してたから、机の耐久値が限界ギリギリだったのかな?」
苦笑いしながら、適当な言い訳をしてみる。
誤魔化せてる気はしないけど、現実的に考えて、女子高生が机粉砕させるような芸当なんてできないだろうから、理解不能だけど頭では納得するしかないだろう……たぶん。
とりあえず、現実世界での暴力はいけないよね。
勝負で白黒つけるならゲーム内が一番だよね。うん!!




