番外編 エピソード0
「アンちゃん……最近、この世界の住民とは雰囲気が違う人達を見るような気がするんだけど……何か企んでる?っていうか、既に何かやってる?」
「おや?気付きましたか?……そうですね、この世界は元々私が、ゲームの世界として創ったものですので、この辺でひとつ初心に戻って、ゲーム世界として利用してみようかと思いましてね」
「初心に、って……私達がこの世界に転生してきて、もう何百年経ったと思ってんの?何で今更?」
「ああ、その辺は大丈夫ですよ。この世界の時間軸を歪ませておいたので、ここでは数百年経過してますが、私達が元いた世界では数十年しか経っておりませんから」
「いや、そういう事じゃなくてさ……」
「あ、もしかしてゲームバランスの事気にしています?それも大丈夫ですよ。数百年かけて、じっくりとバランス調整はしておりますからね。抜かりはありませんよ」
「まぁそれは、この世界に住む人達に気付かれないように、ゆっくりとジワジワ世界の仕様を変えてるなぁ~ってのは気が付いてはいたけど……って、そうでもなくて!」
「……ルカの魂を見つけました」
「……マジで?」
「私だって数百年、なにも遊んでいたわけではありませんよ……魂の識別が出来るようになりましたし、知識も増やしました。やる気のないどっかの世界の神と違って、私は努力家なのですよ」
「それはもちろん知ってるよ……私が今こうしていられるのは、そんなアンちゃんのおかげだってわかってるしね」
「魂というのは摩耗しますからね。ずっと同じ肉体にいると、見た目ではわかりませんがボロボロになります。だからこそ、死んで転生する度に魂は浄化されるわけですが……」
「私の場合『不老不死』スキルのせいで、浄化されずに数百年経過してボロボロになった……と。日に日に自分の意識が無くなっていくのが実感できて恐怖だったなぁ」
「感謝してくださいね。転生する事なく魂を浄化させる方法を私が会得したからよかったものの、あのままでしたら、未来永劫生きる屍としての人生でしたよ」
「だから感謝してるって言ってるじゃん……それはそうと、どういう理屈で私は2人になったの?」
「受肉中の魂は、いくら私でもいじくれないのですよ。なので一度、レイナさんの身体を完膚なきまでに殺しつくして、『不老不死』スキルで復活する一瞬の隙、魂が無防備になる瞬間を狙って魂をゲット!」
「……聞かなきゃよかった、かな?私としては……」
「魂の無い肉体……側だけでしたら作れるようになっていたので、浄化した魂をその身体に、劣化しすぎてどうにもならない部分は、元のレイナさんの肉体に移して完成です」
「あ~……作られたばっかの身体だったから、私のレベル1に戻ってたのね?納得いったわ」
「その時点で不思議に思わなかったのですか?」
「いや……意識失って、目が覚めたら、何百年も探してたアンちゃんが目の前にいたんだよ!そっちの方が嬉しくて、それどころじゃなかったっての!」
「嬉しい事言ってくれますね……それにしても、よくそこから再度全職レベル最大にしましたね」
「まぁ……暇だったしね。あと、経験値10倍っていうチートアイテムが健在だったってのがでかいかな?」
「それはそうと、私はアナタを何と呼べばいいのですか?今まで呼んでいた『レイナ・ベレージナ』は向こうの身体ですし……いい加減、何かしら名前を付けてもらえないと不便なのですが……」
「んん~……別に『レイナ』って名前に未練はないしなぁ……魂の名前は変わらずに『飯島愛花』なんだから、ソッチで呼んでもらっていいよ」
「ある意味『愛花』は前世の前世な名前なんですが……まぁ本人がそれでいいのでしたら構いませんが……」
「っと!?話が逸れて昔話になっちゃってたよ……話を戻すとして、西野の魂を見つけたとして、どうするつもりなのアンちゃん?」
「ルカの……『クロエ』の身体に魂を引っ張ってきます……愛花の魂を使って、魂の取り扱いはある程度は心得ています」
「人の魂をモルモット扱いしないでほしいんだけどなぁ……それで?西野の魂を、あの身体に入れて……どうするつもりなの?西野の魂っていっても、もう私達が知ってる西野じゃないんだよ?西野の魂には、今の生活があるんだよ?」
「わかっておりますよ……だからこその『ゲーム世界』なんですよ。ゲームにログインしている間だけ、あの身体を使ってもらおうかと思っているんですよ」
「……それだけ?」
「ええ。私はただ、あのルカの身体が元気に動き回っている姿が見たいだけなのですよ」
「本当に?……アンちゃんが?……そんな程度の理由で動くとも思えないんだけど……今の西野に害がないなら、まぁ……私も西野と一緒にまた冒険とかしたい、とは思うけど」
「信用無いですね……まぁ肉体に魂が馴染みすぎると、ゲームの仕様を無視して、HPが0になったらデスペナ通り越して本当に死んでしまう可能性はありますけどね」
「ちょ!?それヤバイんじゃ!!?」
「そこは愛花が守ってあげてください。まぁ『レイナ』は古の幻林の2層から出ないように設定をいじっているんで、そこに近づかなければ大丈夫でしょう」
「勝手だなぁ……あれ?でもちょっと待って?西野がこのゲームやる保障はあるの?ゲームなんてそれこそ星の数ほどあるんでしょ?ピンポイントでこのゲーム選んでくれるの?そもそもゲームとかやるの?」
「その辺はたぶん大丈夫でしょう」
「……どっからその自信が出てくんの?」
「愛花さんの魂をいじった時、コッソリと一部いただいておりました」
「……は?」
「大丈夫です。記憶も引き継いでいないほどの、ほんの一部分ですから。ただ、その魂に情報を刻みつけております『ルカと親しくなれ』『ルカをこのゲームに誘え』とね……」
「待って!アンちゃん、私の魂を何だと思ってるの!?」
「そして、その魂をルカの同級生の魂に同化させたので、何があろうと魂に刻まれた命令は実行するでしょう。当人が意識しなくても、ね」
「西野が、偶然このゲームをやってくれるのを待つ、って選択肢はなかったのね……」
「そんな宝くじを当てるような確率をあてにはしませんよ……偶然を装うようにはしますが、それだけです」
「偶然がいくつも重なれば、それは必然ってわけね……西野に不審がられないかねぇ?」
「ルカはそういうところ鈍いですからね。何度転生したところで、魂に刻まれた、そういう抜けてるところは変わらないでしょうね」
「西野……不憫だな……」




