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第30話 身体と魂

 クランアジトに設置されている椅子に、テーブルをはさんで向き合いながら、ルーナさんと座る。

 愛依と皆斗は普通にゲームを進めているようでここにはいない。


 まぁ愛依は、今日の学校での一幕を目の当たりにしているので、何かしらを聞きたそうにはしていたのだけれど、私の沈んだ表情を見て何かを察したのか、一言「何か話したくなったらいつでも聞くからね」とだけ言って放っておいてくれている。

 空気読める良い友達を持ったなぁ……私。


 それはともかく、今はルーナさんだ。

 相変わらず、トレードマークとも思えるような、綺麗な銀髪に、よくわからない貴族服みたいな格好をしている。

 ……今日、現実世界で見た格好とまったく同じだ。


「さて……『聞きたい事があるのだけれど、ソレが多すぎて何から聞いていいのかわからない』といった表情をなさっていますね」


 この人はエスパーか何かかな?

 いや、現状を考えれば、誰しもが同じような思考になるだろうから、そこまで特別ってわけでもないのかな?


 ん?そういえばルーナさんの口調、いつも通りだ。

 現実世界で聞いた、あの砕けたような口調はいったい何だったのだろうか?

 いちいち口調を変える意味がわからない……どっちがルーナさんの本性なのだろう?


「とりあえずは、色々と順番に話していきましょうか……」


 確かにわからなすぎて、何がわからないのかがわからにような状態なので、順を追って話してもらえるとありがたい。


「まず一番重要な部分としましては……この世界の神様は私です!」


 ……は?いきなり何を言い出すんだこの人は?


「途端に、胡散臭い人を見る目になりましたね……まぁ予想はしておりましたけど……とりあえずは、まずこの世界は私が創った、という事だけ理解しておいて頂ければけっこうです」


 『この世界』っていうのは、今のこのゲーム内の世界って事だよね?

 って事は……


「えっと……ルーナさんが、このゲームを管理してる運営さん?って事ですか?」


「まぁ、そうでもありますね」


 何だろう?何か微妙に含みのある言い方だなぁ……


「さて、そこでクロエさんに質問です。このゲームのNPCは、やけに自立してると思った事はありませんか?」


 んん?どうだろう?『たぶんNPCだろう』って人から話しかけられたりはしてるけど……それが普通なのかと思ったんだけど、他のゲームだと違うのかな?


「ああ、そういえばクロエさんは、このゲーム以外はプレイ経験無いのでしたね……イベント事でもない限り、通常時は自分から話しかけなければ、相手からくるような事は無い仕様になっているのですが……質問が悪かったですね。では、クロエさんはプレイヤーキャラとノンプレイヤーキャラの区別は簡単に判別できますか?」


 違い?えっと……武器・防具の装備品で身を固めてるのがプレイヤーキャラ、程度には判断してたけど……プレイヤーキャラが装備品外してたりしたら、ぱっと見わからないかもしれない。

 どっちも普通に話しかけてくるし、動作も決まった動きするわけでもないしね。


「……ちょっと難しいかもしれないです」


 正直に答えると、ルーナさんは少しニヤッと笑みを浮かべる。


「そうでしょう。だって、アナタ達がNPCだと思っている人達は、この世界で生きている、実在する人間なんですからね」


 え……?それってどういう……


「ああ……いちいち答えてたら時間がいくらあっても足りなくなるので、質問は受け付けませんので、ただ『そういうものだ』と理解だけしてもらえればけっこうです」


 私が口を開こうとした瞬間、有無を言わさずに質問は拒否される。


「アナタ方の世界の、フルダイブ型VRゲームは、ざっくり説明すると、意識をゲーム世界に移して、別世界を体感するような仕組みになっているので、ソレを利用して、プレイヤーの皆さんの意識を、実在するこの世界に誘導したのが『オルメヴァスタ』というゲームの正体です」


 何かだんだん凄い事言い出してような気がするけど、ルーナさん正気なの!?


「基本的には他のゲームと同じような感覚ではありますね。ただ意識を飛ばした先が、電脳空間ではなく実在する世界、というだけの違いです……まぁ簡易的に異世界転移モノを体感している、とでも思ってもらって結構です」


 宣言通り、私に質問させる気がまったく無いようで、ルーナさんの説明は、息つく間もなく続けられる。


「ただクロエさん……アナタだけは特殊で、意識だけではなく、魂ごとこちらの世界にきております。そして、アナタがこの世界で使っているそのキャラは、この世界で実在していた人の実際の身体です……なので、アナタのステータス値は、元々その身体に保存されていたステータス値、という事になります」


「ちょ!?ま……待ってください!魂?実際の身体?色々とツッコミどころはあるんですけど、なんで私だけ特殊なんですか!?」


 聞き捨てならない単語の羅列だったため、さすがに我慢できずにルーナさんの言葉をいったん遮り、質問をする。


「ああ、大丈夫ですよ。こちらに魂は来ておりますが、あちらの世界に残してきたナゴミさん本体が死んでるわけではないですから……魂が抜けて人形の様な状態にはなってますが、ちゃんと生きてます」


 違う!一番聞きたい事はそうじゃなくて……いや、ソレも重要な事ではあるんだけど!?


「おや?もしかして、何で特殊なのか、という方が重要ですか?」


 ん?私、顔に出てたかな?

 とりあえずルーナさんの質問に、黙ってうなずく。


「理由は簡単です……その身体は、元々はその魂が使用していた身体だからです」


 ……どういう事だろう?

 私にそんな記憶は無い…………あ……もしかして、昨晩見た夢って……


「人が死ぬと、身体から魂が抜けだします。その魂は浄化され、そこに刻まれた情報をリセットされて次の肉体へと転生します。もちろん、必ずしも同じ世界の人間に転生するとは限りません」


 つまり、この身体は……私の前世の……?


「アナタの魂が、その身体を抜けてから、どれだけの転生を繰り返してきたのかはわかりません……が、偶然にもアナタは、ゲームのプレイヤーとしてこの世界に戻ってきた……そして、この世界には偶然にも、再び魂が戻る事を望んでいた身体があった……」


「まっ……待ってください!死んでしまったから魂が抜けたんですよね!?この身体、生きてるじゃないですか!!?」


 そうだ!死んでしまったからこその『前世』なのであって、ルーナさんの説明が正しいなら、生きている状態で転生はしないはずである。


「私が最初に言った事を覚えておりますか?私はこの世界の神です。各々の意思がある魂の生成は、どの世界の神にも不可能ですが、肉体……器の蘇生だけでしたら、さほど難しい事ではないのですよ」


 ……蘇生?

 え?じゃあ何?この人って、本当に神様か何かなの?……にわかには信じがたいけど。


「その身体の人物は私の友人でした。あの頃は私も若かったんですよ……友人の死を認めたくなくて、肉体を蘇生はしたのですが、魂が戻ってくる事はありませんでした」


 ルーナさんが友人?

 ……じゃあ、やっぱりあの夢って、この身体の過去の記憶を見ていたって事なの?


「おそらくですが……魂を求めていたその身体が、自らの魂を近くに感じ、本来なら意識だけをコチラの世界に来させるだけのところを、魂ごと引っ張ってしまったのでしょう」


 つまり……偶然、元々の魂を求めていた蘇生された身体があって……偶然、愛依に誘われたゲームの世界にその身体があって……偶然、私の魂がその『求められていた魂』だった、と…………

 完全に貰い事故みたいな状態じゃない私!!?


「そして、その身体の情報は魂にも伝達される……その情報を持ったまま魂はナゴミさんの身体に戻る……結果、魂に刻まれた情報は、ナゴミさんの身体にも伝達される……つまり、あちらの世界のナゴミさんは、その身体と同じステータスを得ていた……と、いうのがアナタが求めていた答えです」


 うわ……何か、凄く納得できる回答に思える……

 そりゃあ、刃物で斬られても、ほとんどダメージくらわない身体だもんね。飛び散ったガラス片や、ボールぶつけられた程度じゃ何ともないよね……自動回復のスキルまで持ってるし。


 ただ、何だろう……突拍子が無さすぎて、いまいち理解が追いつかない……


 今なら私、新興宗教の勧誘にも騙される自信があるかもしれない。


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