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第29話 ナゴミちゃん

 私の目の前で、ほうきとちりとりを持った男子生徒数人が、割れたガラス片の片づけをしている。

 教師にしこたま怒られたのだろう。「べつにワザとやったわけじゃねぇのに……」とか「ケガ人いなかったのに大げさに言いすぎなんだよ……」とブツブツ言いながら作業をしていた。


 ケガ人……愛依が、少しだけどケガしてたんだけどな……話を大事にしないように黙っていたのだろうか?

 たしかに、よく見なければわからないような小さなキズだし、その程度で事情聴取されて時間を無駄にするくらいなら黙ってた方が利口なのかもしれない。


 ともかく愛依はケガをした。

 飛び散ったガラス片が当たった事によって……


 飛んで来た硬球ボール直撃と、飛び散ったガラス片をほぼ一身に受けた私が無傷なのに。


 おかしい……絶対におかしいでしょ!?何で無傷でいられるの私!?


 飛び散るガラス片を浴びてるんだよ!?普通血まみれになっててもおかしくないでしょ!?っていうか、凄い勢いで飛んで来た硬球を、無防備でこめかみに受けてるんだよ!下手したら命に係わるんじゃないの!?……たぶん。


 愛依も何か言いたそうな表情をしていたが、なんて言っていいのかわからずにいるような感じだった。


 まぁそれはそうだろう。

 教室にいた他の人達は『窓ガラスが割れて、近くで転んでいる私』しか見ていない。見ようによっては『ガラス片から身を守るために、地面に伏している』ようにも見えただろう。

 でも愛依は、一部始終をしっかりと目撃している。

 だからこそ、あの瞬間、私の身を案じて、私の名前を叫んだのだろう。

 場合によっては救急車呼ぶような場面なのに、結果としては無傷でケロッとしている私。

 そりゃあ何が起こったのかわからず、何をどう聞いていいのかわからなくもなるだろう。


 実際、当の私自身がわかっていないのだから。


 そんな愛依は今は私の近くにはいない。

 既に授業中であるため、自分の席に着席している。


 いや、授業中というのは語弊があるかもしれない。

 あくまでも授業時間中というだけで、授業はまだ行われていない。


 窓ガラスを割った男子生徒達の掃除終了待ち状態だ。


 ガラス片が飛び散っている私の席、及びその周辺の席の数人は、離れた位置で教師と一緒に立って待たされており、ガラス片の影響がなさそうな位置に座席がある愛依達は、自分の席で作業終わりを待っている。


 もっとも、普通に授業が行われていたとしても、自分の身に起こった不可思議な事で頭がいっぱいになって、まともに授業を受けられる自信はない。


「先生……気分が悪くなってしまったんで保健室に行ってきていいですか?」


 近くに立っている教師にそっと声をかける。


「ん?ああ……丸井の席は一番被害の大きい位置だしな。もし窓が割れた時あの場に居たら、と思えば気分も悪くなるよな……気にせず保健室行っていいぞ。一人で大丈夫か?」


 何か色々と深読みして、保健室行きを許可される。仮病なのにちょっと気が引けてきたな……

 それに私、窓が割れた時その場にいましたよ。


 ともかく、許可が出たのでサボりに向かう事にする。


 行先は保健室ではなく屋上だ。

 ここなら授業中だったら誰もいないだろう。


 とにかく誰にも邪魔されずに、一人になって考え事に没頭したかった。


「……鍵、かかってる?」


 屋上へと出る扉をノブを回そうとしたが、しっかりとロックされていた。


 それもそうか……教員達だってバカじゃない。

 サボり場所にうってつけである屋上の鍵を、授業中に開けっ放しになんかしないだろう。


 知らなかったなぁ……昼休みとか放課後とかは鍵かかってないから、いつでも開いてるものだと思ってたけど、所定時間以外はちゃんと施錠されていたのか。


「……アンロック」


 『オルメヴァスタ』での、鍵開けスキル名を思わず口にしてしまう。

 完全にゲーム中毒者だな私……ゲームと現実の境界がわからなくなるほどになってるなんて……愛依や皆斗の事をバカにできなくなって……


 ガチャ!


 鍵の開く音が響く。


「…………へ?」


 思わず変な声が出てしまう。


 え?どういう事?開いたの?今、鍵開いたの!?


 恐る恐るドアノブを回してみる。


「……開いてる」


 外側に誰かがいて鍵を開けた?なんのために?


 ゆっくりとドアを開ける。

 外には……誰もいない。


「ふーん……コッソリ様子見てたけど、これはちょっと面白い事になってるね。理屈は何となく想像できるけど、ちょっと想定外だねこりゃ」


 突然後ろから声がし、反射的に振り返る。


「ル……ルーナ……さん?」


 私の後ろにいたのは、ルーナさんだった。


 ……そう、()()()()()()()()()()()姿()()()()ルーナさんだ。


「コッチだと初めましてだねクロエさん……いや、ナゴミさんって呼んだ方がいいかな?」


 間違いない。というか、こんな綺麗な銀髪で貴族風な衣装を着ている人が他にいてたまるか、といった感じだ。え?でもゲーム内キャラと現実での身体がまったく同じなんてあり得るの!?


 ……でも何だろう?ゲーム内と口調が全然違う気がする。

 こっちの方が素なのだろうか?じゃあ何でゲーム内でわざわざキャラを作ってるんだろう?……あ、そういやオンラインゲームなんて、そういうもんかもしれない。


 いや、それよりも、さっきのルーナさんの口ぶり、もしかして……


「……ルーナさん。私の身体に起こってる異変について……何か知ってるんですか?」


 本来なら『何で学校(こんな場所)に居るのか?』とか『どうやって・いつの間にここに来たのか?』とか『何でゲーム内とまったく同じ姿なのか?』とか、問い詰めるべき事は山ほどあるのだけれど、それよりも先程から起きている不可思議な出来事に対する答えを聞きたかった。


「アマ、ハイターダウーヨ……じゃない!コッチの言語久しぶりすぎて咄嗟には出ないな……」


 何やら意味不明な言葉を言い出すルーナさん。

 何を言ってるんだろう?デカいひとり言?


「あ~えっと、ナゴミちゃんの異変ね。うん、知ってる。知ってるよ。でもアレだ……今ここで説明するのはめんど……時間かかるから、今夜ゲーム内でゆっくりと教えてあげる」


 いま『面倒臭い』って言おうとしてなかった?

 っていうか、私の呼び方、結局「ちゃん」付けで落ち着いたの?


「それじゃあ今夜ゲームで待ってるからね」


 最後にそれだけ言うと、ルーナさんは突然目の前から消える。


 私の身体もおかしくなってる気がするけど、ルーナさんそれ以上にヤバくない?

 っていうか、本当に何者なのルーナさん。

 最初は、ゲーム運営側で用意していたキャラかとも思っていたけど、そうでもなさそうな感じだ。と、いうか本当に人間?


 今夜ゲームにログインすれば、その辺も含めて謎が解けるのだろうか?


 それにしても……


「ルーナさんのキャライメージ……さっきの会話でだいぶ印象変わったなぁ……」


 そんな、先程まで緊張していたハズの、私の気の抜けたつぶやきが、静かな学校の屋上に吸い込まれて消えていくのだった。


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