第23話 クランアジト
木造の建物で、内装はログハウスの様な感じになっている。
中央には大き目のテーブルがあり、そこに椅子は設置されてはいないが、テーブルから離れた壁側に大き目の4人掛けくらいのソファーが二つ置いてある。
とりあえず目につくのはその程度で、あまり生活感のない家だった。
「どうよ!これが私達のクランアジトだよ!!」
そして、そんな事をドヤ顔で言う愛依。
どう反応すればいいんだろう?
「えっと……殺風景だね」
とりあえず思った事をそのまま口に出してみる。
途端に崩れ落ちる愛依。
「私一人の財力じゃコレが精一杯だったのよ……」
あ、正直に感想言うのは失敗だったみたい……いや、でも、それ以外に感想出てこないしなぁ……
まぁともかく、その後行われた、愛依による説明によると……
ギルドに一定の金額を支払う事で、クランの設置が認められたらしい。
手続き自体は、ギルドに金払って書類を提出するだけで終わりらしいのだが、愛依は、その提出する書類に記載する『クラン名』の欄で1時間弱悩み、結果『チーム:アイ』とかいう、安直で何のひねりも無い「それだけ悩んでコレかよ!?」と言いたくなる名前をつけたのだ。
そんなクランに属しなくちゃならない私の事も少しは考えてほしいものだ。
ともかく……ギルドでクランを作った際、ギルドの受付嬢から、クランを作ればクランアジトを持てる事を聞いた愛依は、さっそく行動に移す。
色々な町にある、オブジェのように建っている建物が、クランリーダーになると実は購入可能で、どこでも好きな物件を買えるのだが、早い者勝ちとなっており、誰かが既に購入済みだったりすると、そこはもう無縁の建物と化す。
まぁ購入したクランが解散したり、物件を手放したりすれば話は別なのだが、クラン設置が可能となった今この時期にそれは期待できない。
そして……愛依は、その物件購入争いに敗北したのだった。
「だって……だってぇ!いきなり『クランアジト買えます』とか言われたって、ちょっと前にアイテム買いまくってたせいでお金なくて、急いで効率良いクエスト回して、必要最低限のお金稼いだ時にはもう、いい場所のアジト全部無くなってて……」
愛依の言い訳は続く。
まぁ結論を端的に言えば、大きな町のクランアジトは他クランに軒並み買われてしまい、私達は今、主要都市から離れた、田舎町の一角にいるのである。
「でも、ほら!こういう田舎町ほど風情があっていいでしょ!?」
たしかに愛依の言う事も一理ある。
ごみごみしていて、隣の建物と隙間もなくギッチリとしている都会のアジトと比べて、ゆとりある空間が確保されている。
……それがたとえ愛依の言い訳の一部だったとしても。
それに、大きな町のアジトが他クランで埋め尽くされてしまった、というだけで、他の無数ともいえる小さな町のクランアジトはほとんど手付かず状態なのだ。
大都市でクランアジトを持つ利点といえば、多くのクエストを扱っている大き目なギルド支部が近くにある事と、物品のそろいの良い道具屋や武器・防具屋が揃っている事であり、別に小さな町でも、ギルド支部や、買い物ができる店はそろってはいる。
ただ品揃えが少ないだけなのだ。
「別に恨んでるわけじゃないから、もういいよアイ……アイと一緒にゲームできるなら、アジトなんてどこでもいいから」
「そう?いやぁ~一緒にゲームやってくれてるのがクロエでよかったよ。そんな聖人みたいな事言ってくれるのクロエくらいだよ」
私の一言で、一気に表情が明るくなる愛依。現金だなぁ……
いくらなんでも聖人は言い過ぎでしょ?だって私、職業『魔王』だよ?
「そういえば、このアジトってアイの所持金で買ったんでしょ?クランに必要な物ってクランリーダーしか買えないの?だったら私の所持金もアイにカンパするけど……」
放っておくと、私の事をよいしょし続けそうな気がしたので、別の話題をふってみる。
「ん~……買い物はリーダーしかできないみたいだけど、お金は『クラン資金』ってところから出す感じかな?」
「クラン資金?」
「うんうん。クラン員は誰でも『クラン資金』に好きな額を入金できる仕組みなのよ。もちろん入金するかしないかは個人の自由だけどね。まぁそんな感じで集まった『クラン資金』からリーダーはクランに必要な物を買い物ができるってわけ」
なるほど。つまり、クラン作り立てでメンバーが一人しかいなかった愛依は、自分のお金を、その『クラン資金』に入金してクランアジトを購入したってわけね。
「いちおうは、入金すれば『クラン貢献度』ってのが上がって、それに応じて、ちょっとしてボーナスアイテムとか運営から貰える仕組みにはなってるから、クロエも少しでもいいからクラン資金に貢献してくれると嬉しいかな……私、いま所持金カツカツになっちゃってるからさぁ」
そりゃあ、家一軒を一人で買ったようなもんだろうしね。所持金もカツカツになるよ。
「アイ一人にだけ負担かけるわけにはいかないから、私も全然お金出すよ。えっと……とりあえず1,000万くらい入れておけば足しになるかな?」
「い……1,000万!!!?」
私の言葉をオウム返しするかのように叫びだす愛依。
え?ダメ?少なすぎた?
まぁそうだよね。愛依はすでに家一軒買うだけの金額を投入してるんだもんね。
「ごめん!じゃあ2,000万くらいで!家の価格相場を考えれば、1,000万じゃ釣り合わないもんね」
「え?あ……いや、現実とゲームじゃ価格相場が違うから……っていうかクロエ、所持金っていくら持ってるの?」
所持金?
まぁこの辺も自分で稼いだわけじゃなくて、バグって最初から持ってたから、あまり自慢できる感じじゃないけど……
「えっと……1億ちょい……かな?」
途端に黙る愛依。
いや、金額的に多いってのは、いくら私でもわかるよ!?
でも、愛依だって家一軒買ったんだし、それに近いくらいの額は貯めたんじゃないの!?
「クロエ……個人での所持金の上限って10M……1,000万なんだけど……」
「……え?」
上限が1,000万?じゃあ、どうやって愛依は家買えたの?……いやいや、それよりも、私の所持金欄には、たしかに『133,537,320』って表記があるんだけど……
「なんでクロエ、上限超えてるの?どうやったの?」
私が知りたいよ!!?




