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第21話 鑑定スキル実戦使用

 衰弱を付けた状態で、トボトボと町へと戻る。

 ランキング報酬で、経験値を今まで以上にもらえるので、今日は一日レベル上げをしようかと思っていたものの、あんなインチキみたいなステータスした人と一緒じゃないと倒せないような敵がいるんじゃ、怖くて『古の幻林』には近づけない。


 まぁ町へと戻る道中の、この草原マップにもモンスターは出現するものの、初心者でも狩れる程度の可愛い敵しか存在しない。

 いや、私も初心者といえば初心者なんだけど、そこは突っ込まないでおいて貰えると嬉しい。


 フレンドのログイン状態を見る限り、愛依もログインして何かしら活動しているんだろうけど、今日は新設されたクランシステムについて色々やるって言ってたから、一緒に何かするのは駄目なのだろう。


 どうしよう?ギルドで何かクエストでも受けてみようかな?

 でも、私ハンターポイント今マックスだしなぁ……だからといって、昇進には『古の幻林にいる最古の魔獣』ってのを倒さなくちゃいけないみたいだから、さっきイベントやった場所よりも奥に進まなくちゃならないから、ちょっと怖いし……


 う~ん……とりあえず、まだ耐久値半分以上残ってるけど、武器修理して耐久値リセットでもして、お茶を濁しておこうかな?



「なぁ、アンタ『クロエ』だろ?」


 今日の予定を考えながら町に足を踏み入れると、突然声をかけられる。


「え?あ……はい、そうです、けど」


 よくわからないけど、とりあえず返事だけはしておく。


「今暇なら、ちょっと付き合ってくれね?そんな時間は取らせねぇからいいだろ?」


 え!?ひょっとしてコレってナンパ?

 リアルでもされた事ないのに、まさか初ナンパがオンライン上!?


 いや……わかってる!いくら私が鈍くても、ちゃんとわかってるよ!

 どうせ、私がランキング1位だって知ってるから、難しいクエスト手伝ってもらおうとか、そういうオチのやつでしょ?

 気分上々でついてって、肩透かしくらうとか、そういうパターンのやつでしょ?知ってるよ私!


 まぁでも、今べつにやる事も特にないから、ちょっとくらい手伝ってあげてもいいかな?


「そうですね。今日は別に予定はないんで、少しくらいなら大丈夫ですよ」


 いちおう「クエストでしょ?わかってるよ」というような口調で答えておく。

 そもそもで、リアルの顔も知らないような私をナンパするような奇特な人はいないだろう。


 愛依あたりから言わせると「変なところでマイナス思考だなぁ」とかなんだろうけど、生憎と私は、そこまで楽観主義者ではない。


 そして私は、その声をかけてきた男の人に付いて、町から草原へととんぼ返りする。


 少し歩くと、その男の人の仲間と思われる人達4人が現れ合流する。


 ……ん?仲間4人と合流?

 私と、この男の人合わせると6人じゃない?


「あれ?パーティーって5人まででしか組めないんじゃ?」


「そ、俺達最初から、この5人でパーティー組んでんの」


 つぶやきで漏れた私の疑問に、男の人が即答する。


「衰弱マーク付けたまま、呑気にフラフラ歩き回ってるランキング1位様を見つけたから、ちょっと憂さ晴らししようと思ってね」


 そっちかぁ!!

 想像の斜め下あたりに来た感じだ。

 マイナス思考をもっとフル回転させるべきだったなぁ……


 『もしかしてナンパ?』からの『いやいや、ただのヘルプ要員でしょ!』じゃなくて、もっと下の『まさか闇討ち!?』ってな感じで、もうちょっと警戒しておけばよかった。


「そんなわけで、衰弱付けてるとこ悪ぃんだけど、衰弱時間延長しててくんね?」


 そう言って、さっきから喋ってるリーダー格っぽい男の人が、武器と思われる大き目の斧を構えると同時に、他の仲間の人もそれぞれ武器を構えて臨戦態勢に入る。


 どうしよう?さすがに私より強い、とは思いたくはないけど、さっき私より格段に強い、愛花さんっていう実例を見ちゃってるから、自信を持てない。


 そうだ!

 こんな時こそ、さっき手に入れたスキルが役に立つんじゃない?

 強かったら、なりふり構わず全力で逃げればいいんだ!


「……鑑定・改」


 私は、他の人に聞こえないような音量で、リーダー格っぽい男の人に向かって、こっそりとスキルを発動させてみる。


まるミナ(丸井 皆斗) アックスファイター LV12 HP:741/741

振分ステータス値

力:86 防御:28 魔力:28 魔防:28 速さ:28 技:28 運:27

職業補正込実戦ステータス値

力:4011 防御:701 魔力:500 魔防:294 速さ:2800 技:2800 運:2700


 へぇ~……バグったステータスしか見た事なかったけど、普通にプレイしていれば、大体これくらいの数値なんだね。

 ファイター系だから、レベルが上がって『力』が2上昇……で、フリーのポイントは全部に均等に振り分けてるって感じだね。けっこうバランス重視してる人なのかな?


 にしても、やっぱりガッツリと本名まで表示されちゃってるんだね。

 『丸井』って私と名字同じとか、凄い偶然だね。


 名前の読みは……これで『みなと』って読みだったら、ウチの弟と同姓同名なんだけど。

 これまた凄い偶然だね。


 あ、そういえば!ウチの弟って、学校で『まるみな』とかいう、ダサいあだ名で呼ばれてたような気がする。

 いやぁ偶然って重なるものだね。


 …………

 ……

 ってオイ!!!?

 重なるか?普通ここまで偶然って重なるものなの!?


「覚悟しろクロエ!!」


 人が混乱している時に、コチラの都合はお構いなしに、一斉に全員で襲い掛かってくる。

 コイツ等全員そろいもそろって前衛職かい!?


「『エクスプロージョン』セット……」


 とりあえず冷静に思考する時間が欲しいので、短時間でチャージできる高威力魔法をセットする。


 ……って、何かいつもよりゲージ貯まる速度遅くない?

 もしかして、衰弱付いてると、魔法の貯め時間も長くなる?


 あ~!もう!

 人の気も知らないで、私の事を斬りつけてくる、弟のパーティー連中。


 いや……まだ、この「まるミナ」って人が、ウチの弟って決まったわけじゃない。

 冷静に考えるんだ私!

 最近、弟の皆斗は、家にいる時何してた?

 えっと……この前の夕飯の時、お母さんに「皆斗!最近部屋でゲームばっかりやってるけど、勉強はちゃんとしてるの?」とか怒られてたな。

 それで返答が「最近は姉ちゃんもゲームやってんじゃんかよ!何で俺だけに言うんだよ!」とか言って、私を巻添えにしてたんだったなぁ……なんだか微妙に腹が立ってきたな。


「クッソ!?何だよコイツ!硬すぎだろ!攻撃も当たりにきぃし!?」


 叫びながら、仲間達と一緒に私を斬りつけている、まるミナ君を睨みつける。


 現実世界だけじゃなくて、ゲーム内でまで私に……


「いちいち構ってくんなぁぁ~~!『エクスプロージョン』!!!」


 ……うん、叫んで少しだけスッキリしたかも。


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