第20話 ヤバいスキル
激戦だった。
まさか私のバグったステータスを以てしても、ソロ撃破が不可能と思われる敵がいるとは想像もしていなかった。
まぁだからこそ、ある程度戦えるお助けキャラがいたのかもしれないけど……
今、私の目の前には、倒れて動かなくなっている敵対女性が横たわっている。
そして、私の頭上には衰弱マークが付いている。
これってどうなの!?
相打ちってイベントクリアになるの!?
もう一回戦わないとダメとかだったら嫌だよ私!?
「よし!とりあえず逃げるぞ西野!」
私が色々と物思いにふけっていると、突然味方女性が言葉を投げかけてくる。
そして、そのまま私の返事を待たずに、私の手を掴むと「古の幻林」の出口へと向かって走り出す。
「ちょ……!?何です急に!敵は倒したのに、何で逃げるんですか!?」
「私……っていうかアイツは『不老不死』のスキル持ってるから、少しすると復活しちゃうんだよね」
私の質問に、走りながらも即答する味方女性。
うん、とりあえずまだ危機は脱していない事はわかったんで、全力で逃げよう。
私達はそのまま走り続け、古の幻林を出た所でようやく立ち止まる。
「はぁ~危なかっ……って西野やられちゃったか。まぁ衰弱付いただけで済んでよかったよかった」
何かよかった事になってるけど、衰弱付いてるの結構問題だと思うんだけど……
私が必死に上げたレベルが1減っちゃってるんだけど。
「あんまり良くはないですけど……あと、しつこいくらいに何度も言いますけど、私の名前『西野』じゃないです」
「あははは、ごめんごめん。どうにもキミの事を『西野』って呼ぶのがしっくりきちゃっててさ……悪いんだけど我慢してもらっていい?」
私の抗議も、笑いながら軽く流されてしまう。
どうやら私の事を『西野』呼びする事を改める気はないのだろう。
「わかりました。それについては諦めます……それで?アナタの事は何て呼べばいいんですか?」
いつまでも、脳内呼び『味方女性』ではしっくりこない。
「そっか……『鑑定』系のスキルは、アンちゃんが『このスキルあると色々と厄介だから』って言って封印しちゃったから、名前確認も、相手に直接聞かないとわからないのか……よし!ちょっと待ってて」
ひとり言のように何かをつぶやくと、そのまま味方女性は、私に背を向ける。
「アンちゃん聞こえる?西野には『鑑定・改』のスキルあげてもいいんじゃない?……いやいや、相手の強さわかった方がいいでしょ?今回は衰弱付いただけで済んだけど、次はどうなるかわからないよ……そうそう、強さわかってれば、自分より強い奴に無謀な突進はしないだろうしさ」
え?誰かと喋ってる?もしかしてダイレクトチャット?
この人NPCじゃないの!?
「おっけ!アンちゃんが、西野にだけ特別に、封印してたスキルくれるってよ」
すぐに話は終わったようで、再び私に話しかけてくる。
にしても『封印してたスキルをくれる』って事は、やっぱりイベントクリアの報酬みたいな感じだよね?そういう設定の。
って事は、やっぱりこの人はNPCで、誰かとダイレクトチャットしてるように演出してただけなのかな?
「どう西野?『鑑定・改』ってスキル追加されてない?使えるなら試しに自分に使ってみて、ステータス画面と見比べて、ちゃんと効果発動してるか確認してみな」
ああ、その新スキルのチュートリアルみたいなヤツかな?
どれどれ?……あ、確かにスキル欄に『鑑定・改』ってスキルが追加されてるね。
えっと、とりあえずコレを私自身に使ってみればいいんだよね?
「……鑑定・改、発動」
スキルを私に向かって発動させてみる。
すると、私の視界に文字が浮かび上がってくる。
クロエ・バルト(丸井 和) 魔王 LV62 HP:1,681/21,058(衰弱中)
振分ステータス値
力:400 防御:405 魔力:850 魔防:850 速さ:470 技:205 運:211
職業補正込実戦ステータス値
力:18992 防御:19398 魔力:84470 魔防:83554 速さ:47000 技:20500 運:21100
…………
……え?
ええええええええ!!!!!?
ステータスに載ってない部分まで載っちゃってるんですけど!!?
私のプレイヤーネームってステータス画面だと『クロエ』としか書いてないんだけど!?何でファミリーネームまで設定されてるの!?
あと、何?『職業補正込実戦ステータス値』って!?
『職業補正』って事は、振分したステータス値が同じでも、職によって実際には戦闘中のステータスが違うって事!?
これって内部データなんじゃないの!?そんなのまで見せちゃっていいの!?
って違う!!
重要なのはそこじゃない!!
本名!!?リアルネームまで表示されてるし!!?
ヤバイって!!?ヤバイってコレ!?
「どう?ちゃんと表示されてる?大丈夫そうだったら、次は本番って事で私に使ってみな」
私の内心の焦りをよそに、呑気に話しかけてくる味方女性。
ちゃんと表示されてる、っていうか見えすぎちゃって困ってて、全然大丈夫じゃないんだけど!?
「……鑑定:改」
心臓バクバクで焦っているものの、やらなくては次に進めそうにないので、とりあえず言われた通り味方女性に向かってスキルを発動する。
(飯島愛花) 超越者 LV100 HP:99,999/99,999
振分ステータス値
力:999 防御:999 魔力:970 魔防:970 速さ:600 技:600 運:507
職業補正込実戦ステータス値
力:99999 防御:99999 魔力:97731 魔防:97731 速さ:60000 技:60000 運:50700
……うわぁ~、私以上にステータスバグってる人がいたよ。
コレ、一部ステータスがカンストしてない?
何か、軽く引いたおかげで、ちょっと冷静になれてきたかもしれない。
そんな状態で改めて見てみると、この人、やっぱりちょっと変だ。
「どう?私の情報見えてる?」
「はい……プレイヤーネームが空白になってて……たぶん、本名と思われる名前が『飯島愛花』さん……って読みでいいんでしょうか?」
NPCだと思ってたこの人に、ゲーム内ネームが無くて、代わりにリアルネームと思われる部分に表記がある。
何なのこの人?
やっぱりNPCじゃなくてプレイヤー?でもキャラ名無いし……試す事はできなかったけど、流石にキャラ名入力しないと、キャラ作成はできないよね?
それに、私以上にステータスバグってるのに、ランキング戦に参加してなかったみたいだし……
いやいや!普通、一般プレイヤーがスキルの譲渡とかできないでしょ!?
やっぱイベント用のNPC?
待てよ……まさか、運営が使用してるテストプレイ用のアカウントとか?
そうか!それならわかるかもしれない!
そのアカウントのキャラをイベント進行用に使ってるとか!
「うんうん、名前の読みはそれで合ってるよ。プレイヤーネームは……まぁ私の本体は、さっき倒した方で、この体はアンちゃんが用意した代替品みたいな感じだから名前無いんだよね……ともかく、私の事は『愛花』でいいよ」
何かよくわからない事言ってるけど、ようは、そういうキャラ付け……というか、そういう設定でロールプレイングしてる感じなのだろうから、言ってる事はある程度聞き流しててもいいのかもしれない。
「そんなわけで私はもう行くけど、西野はそのスキル活用して、自分より強い奴からは確実に逃げるようにしな。でないと、とんでもない事になるかもしれないから」
まぁ私も、これ以上はデスペナくらいたくはないから、ヤバイ奴に出くわしたら、そりゃ逃げるよ。
「んじゃあね西野。今後ともよろしくね!」
そう言って愛花さんは、どこかへ走って行ってしまう。
というか『今後ともよろしく』って……また会うの?
スキル貰ったからこのイベント終わりだよね?
それともただたんに、別のイベントで会うかもしれないから『今後とも』なのかな?
嵐のような愛花さんが去って行った方をぼんやりと見つめながら、私は一人思う……
対象のリアルネームまでわかっちゃうヤバいスキル手に入れちゃったなぁ……
これって法的に大丈夫なのだろうか?




