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第18話 見た目詐欺

 古の幻林。

 ランクSにならないと入れない場所であり、おそらくは、現状一番経験値を多く得られる場所でもあり、たぶん、まだ私しか立ち入る事ができない場所だ。


 そんな場所の、第一層を抜けて、現在第二層へとやってきている。


 イベントは……特に何も起きていない。


 って!何で!!?

 前回の、あの謎の女性の口振りからすると、第二層に入ると何かしら起こる感じじゃなかったの?

 それとも、前回中断しちゃったから、そこでイベント終了しちゃったとか?

 私どうすりゃいいの!?


 ……うん、よくよく考えたら、何も起こらないなら、最初ココ来た時と同じように、レベル上げしつつ探索続ければいいんだよね。


 そんなわけで、木々に囲まれて入り組んでいる道を適当に進んでみる。


 すると、さっそく前方から、ゾンビっぽい人影が2つほどやって来る。

 身体の一部が腐り落ちてるような状態で、フラフラと歩いているので、たぶん9割の確率でモンスターだろう。

 1割は、この先で強い敵に襲われて命辛々逃げてきた人って確率?……いやいや!あの見た目は『命辛々』ってレベルじゃなくて、間違いなく致死量だろう。


 ってわけで、モンスターと思われる2体を相手に、身構えるようにして杖を構える。

 相手も、私が臨戦態勢になっている事に気が付いたのか、その場で立ち止まり、私の方を凝視して……るんだよね?片方眼球無いし、もう片目は白目むいてるから、本当にコッチ見てるのか自信持てないけど、たぶん、コッチ見てるんだろう!


 初見の相手だし、出方がわからないので、とりあえずは慎重に一体ずつ撃破していこう。


「『エクストリーム・フレイムボム』セット……」


 特に根拠はないけど、ゾンビには炎系の魔法が効きそう、というイメージだけで、炎系の単体攻撃魔法で一番強い魔法をセットしておく。


「……エクストリーム・ガードダウン……」


 出方を窺っていた私に、片方のゾンビが魔法を放ってくる。


「うわ!?防御力がスゴイ減った!!?」


 突然の事態に驚いて叫んでしまう。

 やってしまった。慎重になりすぎた。このゾンビ魔法使ってくるんだ!?


 そんな驚いている私へと向かって、魔法を使った方とは別のゾンビが駆けてくる。

 いつの間にか、そのゾンビの手には、陰で作られたような真っ黒な剣のような物が握られている。


 マズイまずい!!今の状態で直接攻撃なんて受けたら、けっこうなダメージ受けちゃうよ!?


「仕方ない……『エクストリーム・フレイムボム』!!」


 使いどころは慎重に選ぼうと思っていた、セット済みの魔法を、私へと向かって来ていたゾンビに放つ。

 凄まじい爆炎が、私のすぐ近くまで迫っていたゾンビを包み込む。


 私はその隙に、もう一匹の……私にデバフ魔法をかけてきた方のゾンビの方へ駆ける。


「『エクストリーム・フレイムボム』セット!!」


 念のため、もう一発魔法をセットしつつ、デバフ魔法ゾンビを、装備している杖で思いっきり殴りつける。


「……あれ?」


 手応えに違和感があった。

 私が攻撃したデバフ魔法ゾンビは、攻撃を受けたにも関わらず、一切ダメージが無いようだった。


 次の瞬間、息が詰まるような痛みが脇腹に走る。

 混乱しつつも、危機から逃れるように、いったんデバフ魔法ゾンビから距離を取る。


 よく見ると、デバフ魔法ゾンビの手にも、真っ黒い武器が握られている。

 デバフ魔法ゾンビの武器は、形状から杖のように見える。

 どうやら私は、あの杖っぽい武器で脇腹を殴打されたのだろう……剣と違って、攻撃力は高くない杖だったのが幸いして、致命傷になるようなダメージはなかったのだが、初めて一発で4桁ダメージを受ける事になった。


 受けていたデバフ魔法が、単体防御力大低下魔法だけあって、その効果は絶大だった。


 そして、今まで気が付かなったのだが、デバフ魔法ゾンビの頭上に盾のようなマークが表示されている。

 このマークは前に見た事があるような気がする。

 アレは確か、『かばう』を受けている人……つまり、誰かにかばわれている人が付けているマークだ。


 なるほど、攻撃した時の違和感はコレのせいか……


 そして『かばわれている』って事は、誰か『かばっている』ヤツがいるわけで……ここには私含めて3人しかいなくて、もちろん私はかばってなんかいないので、消去法で……


 私が放った魔法の炎が消えたその場に立つゾンビの左手には、これまたいつの間にやら、真っ黒な盾が装着されていた。


 ……油断していた。


 このゾンビ達、見た目がほとんど同じだったので、同じ能力の個体かと思っていたのだけれど、きっとそうじゃない。


 たぶん、同じ見た目だけど、それぞれで職業が割り振られている。

 なので、プレイヤー同士が組んでパーティプレイするように、このモンスター達も役割を決めて戦っているんだ……

 おそらくだけど、私に突っ込んできた剣と盾を持ったゾンビはナイト系。デバフ魔法ゾンビの方はマジシャン系だろう。


 厄介だ……非常に厄介だ。

 個体能力が違う、という事がわかった今なら、冷静に対処すれば、この2匹を倒す事はできるだろう。

 ただ、この前、2層入り口前で会った女性が言っていた『生きる屍(リビングデッド)のたまり場になってる』という言葉を信じるなら、この2層に出てくるモンスターは、見た目同じで違う能力を持つゾンビだらけ、という事である。


 戦ってみるまで相手の職がわからないとか、出会ってみないと最善な対処法がわからない。最悪なのは、職業バランスの良いパーティで5匹とかとエンカウントした場合だ。

 今存在しているどのプレイヤーパーティより厄介なゾンビ集団と化すだろう。


「……レベル上げは、1層でやろう」


 私の口から、素直な感想が漏れる。


 と、そんなつぶやきをした次の瞬間だった。


 ナイトゾンビが吹っ飛んで来た。

 うん、本当に文字通り、物凄い勢いで飛んできたのだ。


 咄嗟に身をかがめて避ける。

 そのままナイトゾンビは飛んでいき、大木に激突すると、そのまま絶命する。


 ゾンビなのに『絶命』というのもちょっと違和感あるけれど、とにかく絶命した証拠に、体が灰になって崩れ落ちていた。


「……え?何??」


 一瞬の出来事すぎて、何が起きたのかわからなかった。


 私は、元々ナイトゾンビが立っていた方へと視線を向けると、そこには、いつの間に現れたのか、この前2層入り口で会った女性が立っていた。


 でも何だろう?何か違和感が……


「あ……あの……」


 恐る恐る声をかけてみる。

 しかし反応はない。


 というか、視線が定まっていない感じで、どこを見ているのかわからない。きちんと呼吸はしているものの表情に生気を感じない。

 それに、よく見ると豪華そうな装備品は、前回見た時と違って、唯一ボロボロだったマントと同じように薄汚れている。


「違う……あの人じゃない……誰?誰ですかアナタ?」


 定まらない視線のまま、私の方へとゆっくりと歩いてくる女性へと声をかける。


「だからこの前言ったじゃん……『一匹ヤバイのがいる』って……忠告聞いてくれてるのかと思ったのに、何で来ちゃうかねぇ?」


 全然関係ない方向から、数日前に聞いた事のある声で返答がくる。


 すぐにその方向を向くと、そこには、残っていたデバフ魔法ゾンビを仕留めて立っている女性がいた。


 間違いない。こっちの人が、前回私が会った女性だ。


「とりあえず話は、この『ヤバイ方の私』をどうにかしてからにしようか……手ぇ貸してよね西野」


 たしかに、あのナイトゾンビを一撃で吹っ飛ばして絶命させるのは、かなりヤバイ。

 相手のステータスはわからないけど、私のバグったステータスでも、一人で倒すのは無理かもしれない。


「あの……私、『西野』って名前じゃないです」


「ああゴメンゴメン。じゃあ、お互いの自己紹介もコイツ倒した後にでも落ち着いてゆっくりしようか」


 ヤバそうな状況なのに、何とも余裕そうな口調だ。

 この人はそんなにステータス高いのだろうか?


 それにしても、ゾンビだけじゃなくて、この女性も、見た目同じ個体がさ迷ってるとか……この森って、長くいると分裂する体になる、とかいう呪いでも受けるのだろうか?


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