第15話 ゲーム知識
「来ないで!!こっち来ないでよぉぉ!!」
泣き叫ぶプレイヤーを殴り倒してポイントを稼ぐ。
もう何人倒しただろう?けっこうポイント貯まってきてるんじゃないかな?
とはいえ油断は禁物だろう。
私と同じペースでポイントを稼いでいるプレイヤーが他にいないとは限らない。
すぐさま私は『索敵』スキルを使用する。
このスキル、このイベントでは凄く役にたつんだけど、如何せん効果時間5分くらいと短めなので、何度もかけ直しが必要なのが玉に瑕だ。
近くにいるプレイヤーは3人。その中で、一番近い位置にいるプレイヤーのもとへと歩き出す。
「嘘……クロエ……?」
そこには、私の姿を見て絶句している愛依が立っていた。
「待って!?待ってよ!!?私今、けっこう順調なのに、何でここでクロエなの!?」
愛依の悲痛な叫びがこだまする。
う~ん……愛依には悪いけど、とりあえず今回は私のポイントの糧になってもらおう。
「ウインドスラッシュ!!」
少しだけ、どうするかを考えてる隙をつくかのように、愛依からの不意打ち気味なスキル攻撃が放たれる。
避ける暇もなく、愛依からの攻撃を受けてしまうものの、私のHPゲージは10程度しか減る事はなかった。
そして、その減ったHPは、すぐさま『オートリジェネ』で全回復するのだった……
それにしても、凄いな愛依。
このゲームが正式稼働した日に洞窟で戦った連中は、私に1しかダメージ与えられてなかったのに、スキル使ったとはいえ、ギリギリ2桁のダメージ与えてきたよ。
「……二次職になって、少しはマシな戦いできるかと思ったけどコレか……よし!逃げよう!!」
って、褒めた傍から即逃げるんかい!?
「逃がさないよアイ!!」
いちおう宣言だけはして、逃げようとしている愛依へと、杖を振りかざす。
「ひいぃぃっ!?」
愛依の情けない声とともに、振り下ろされた私の杖が空を切る。
逃げ腰になっていたのが良かったのか、私の攻撃は、逃げながら転んだ愛依には当たらなかった。
「っく!?ちょこざいなぁ!」
思った事が口から出る。
どうやら私も、思った以上に楽しんでいるのかもしれない。
ともかく、まぐれ避けが無いように、必中させられるように魔法攻撃に切り替えよう。
「『フレイムボム』セット!」
セットするとすぐにゲージが貯まり出し、あっという間に満タンになる。
「見逃してぇ!お願いだから見逃してよぉぉ!!」
「そっちから不意打ち気味に攻撃仕掛けておいて、何虫のいい事言ってるのよアイ!観念してワンキルされなさい!フレイム……」
『イベント時間が終了しました。通常フィールドに転送します』
私が魔法を放とうとした瞬間、頭の中でアナウンスが流れたかと思うと、私の目の前には、イベントが始まる前に立っていたフィールドが広がっていた。
「……ボム!」
そして、通常フィールドに戻る事により、さっきまで貯まっていた魔法ゲージはリセットされ、発動する事のない魔法名だけが、私の口から発せられる結果となった。
「よっしゃ!やったぁ!!あっぶな!超ギリギリじゃん!ナイスタイミング運営!!」
隣から聞こえてくる、愛依の勝ち誇ったような叫びが無性にムカつく……
「とりあえずクロエからはギリ逃げられたけど、何だかんだで合計4キルされてるから、ちょっと対策考えないとなぁ……」
なんか愛依が、説明口調でひとり言を言ってるんだけど……これって聞いてほしいのかな?
まぁ別に何かするわけでもないから、面倒臭いけどノッてあげよう。
「4キルもされたの?私みたいな例外を抜けば、アイってけっこう強い方だと思うんだけど、そんなに強い人いたの?」
実際のところ、私はステータスの高さを最大限利用して暴れ回っていただけなので、誰が強かったとか、誰が弱かったとかは、一切わかっていない。
「う~ん……私と同じくらいの強さの人とかはいたけど、特別強いって人はいなかったかな?」
だよね。やっぱり愛依って、けっこう強い方だよね?
「まぁHPの回復手段が無い、ってのがネックだった感じかな?立ち止まって自然回復なんてしてたら、格好の的だし、何よりも『戦闘行動無し』のペナルティに引っかかって-5ptされちゃうからね」
ああ、成程。私と違って、実力の近い人とも戦うわけで、そこでHP減った状態で連戦しなくちゃならないから、そのうち力尽きるってわけか。
「あ!じゃあ、いったん職をプリーストに変えて、回復魔法……えっと、ヒールを覚えてから今の職に戻ってみるとかどう?」
それなら回復魔法が使えるファイターに……
「ヒール覚えたところで、今のソードファイター……ファイターの2次職になっても、職業補正で魔力が低いから、焼け石に水程度にしか回復しないし、なによりも、その職業補正でヒール2回くらい使ったらMP切れ起こす程度にしか使用できないよ」
職業補正?……そんなのがあるんだぁ……
「逆にプリーストで挑んでみても、ファイターで積み上げてきた力があるから、初期プリよりはマシかもしれないけど、それもやっぱり職業補正でファイター時よりもガッツリ減るし、なによりも装備品がプリは貧弱すぎて話にならないのよ」
やばい……私、その辺の事さっぱりわかってない……
知識って重要だなぁ……もしかして私、そんなゲーム知識を無視して、暴力で全てを解決してない?
マズイ……もうちょっとゲーム知識身に付けておかないと、他の人にステータス値追いつかれた時、完全に群衆に埋もれちゃうよ私!?
「そんなわけで、プリーストに転職して、ヒール覚えるまでレベル上げする時間があるなら、現職のレベルを少しでも上げといた方が、たぶんポイント稼げると思う……あ、でも、どっちがいいかを選ぶのは人それぞれで、前者で立ち回るのが得意な人はそれでいいとは思うよ。あくまでも、私は後者の方が単純でやりやすいってだけの話だからね……わかった?」
ふむふむ……知識を活用して、どう立ち回るかは人それぞれって事ね。
付け焼刃の戦法でも、そっちの方がいいと思えば試すのは自由、と。
他の人がどういう行動をとろうと、それを否定したりはしないよ、って事だよね。
「わかりました先生!」
愛依のゲーム知識量は、素直に尊敬できる。
こういう話しを聞けるのは、将来的に私のプラスになるだろう。
「……何?先生って……馬鹿にしてる?」
敬意を込めたはずなのに、白い目で見られてしまう。
……何でだろう?




