第9話 戦闘開始
私は武器を構えて相手を睨みつける。
「は?何コイツ等?調子乗ってる?」
「一人でウチ等に勝てる気になってんの?」
「いきがるのは仲間内だけにしとけよ……うぜぇから」
逆に睨み返されたうえに罵られる。
どうしよう……普通に怖いんだけど……
これはゲーム内であり、そのゲーム内で私のステータスはバグったように強い……っていうか実際にバグってるんだけど……ともかく、その辺の事はわかってはいるのだけれど……
現実と変わらないようなVR空間で、男性5人に囲まれて殺意を向けられると、さすがに物怖じしてしまう。
っていうか大丈夫だよね!?私のステータス値バグったままでいてくれてるよね?急に修正されてたりしないよね!?
そもそもで、ちゃんとステータス値が繁栄された強さになってるんだよね私!?
痛いのヤだよ私!!
「こういうイタい奴は、早いうちに心へし折っとく方がいいだろ」
「杖装備してるって事はコイツの職マジシャンだろ?アタッカーもディフェンダーもいない完全ソロで、よく5人パーティーに勝てると思ったな?」
「仲間内でチヤホヤされて勘違いしちゃった系のやつだろ?CPUの雑魚魔物相手にだけイキってりゃいいのによ……対人戦は違うってわかってねぇだろコイツ」
何か私、凄いボロクソに言われてない?
私今まで、こういう悪意ある言葉を面と向かって言われた事なかったから、免疫無くて、戦う前からすでに泣きそうなんだけど……
「何かさっきから講釈ばかりたれてるけど、それ、負けた時恥ずかしいだけだってわかってる?グダグダ言ってないで、クロエの事倒せるなら倒してみればいいじゃん。まぁ無理だろうけど……あ、もしかして内心ビビってる?」
何で煽るの親友!!!?
「あ?」
5人組のドスの効いた声と同時の一斉睨み。
ごめん、私、怖くて本気で涙出そう。
「だったらお望み通り、泣きべそかかせてやるよ……」
額で立てた青筋をヒクヒクさせながら、5人組のリーダーっぽい人が剣を鞘から引き抜き、それに合わせるように、他の4人も同時に戦闘態勢に入る。
でも、私既に泣きべそかいてるんだけど……どうしたらいいの?
『ふ~ん……ファイター2人にナイト1人が前衛で、中衛にプリ後衛にマジってパーティーっぽいね。ちゃんとバランス良いパーティー編成はしてるみたいねコイツ等』
相変わらずダイレクトチャットで話しかけてくる愛依。
私の気も知らないで、何でそんな気楽に解説してるの!?
「相手はマジ1人だから前衛は2人でいい!後ろの2人のカバー入れ!厄介なのは魔法攻撃だけだから、魔防バフ入れて、念のためコイツには魔力デバフかけとけ!全体攻撃魔法はチャージタイム長ぇから、撃たせる前に片付けるぞ!!」
リーダーっぽい人が、何かよくわからない事を言いつつ、私へと近づいてくる。
え?もう戦闘始まってるの!?どうしよう、心の準備が……
『指示は的確だね。私達の事馬鹿にはしてても、手加減無しで潰しにきてるね。慢心してないプレイヤーは強いよ……本当にクロエ勝てる?』
コッチが聞きたいよ!!?
蚊帳の外だからって、解説が落ち着きすぎでしょ!?
「くたばれ!!」
呑気な愛依の解説聞いている間に、目の前には剣を振り上げたリーダーっぽい人がいた。
そして、無情にも振り下ろされる剣。
しかし、その剣は、私を避けるようにして、横へと逸れる。
「っち!ミスった!回避値高ぇのかコイツ?」
ん?その言葉を聞く感じだと、自分の意思で逸らしたわけじゃなくて、ゲームシステムのせいで、勝手に逸らされた感じなのかな?
もしかして、愛依がステータス説明の時言ってた「『速さ』は回避に補正がかかる」ってこういう事なのかな?
「偶然だろ!どけ!俺がやる!!」
もう1人私に迫っていた、別のファイターが叫びながら、私へと横一線に剣を振りつけてくる。
今回の攻撃は逸れる事なく、私へとヒットする。
痛みがくるのかと思って、多少は覚悟をしたのだけれど、そこは幸いながら、痛みが私を襲う事はなかった。
まぁそりゃあそうだよね。
実際に剣で斬られた通りの痛みがきたら、ゲームどころの騒ぎじゃない。
現実と大差ないVRゲーム空間っていっても、そこはやっぱりゲームなんだと改めて実感した。
そんな事を考えて、一瞬ボーっとしていた事に気が付いて、すぐに気を引き締める。
……が、次の攻撃が来る事はなかった。
というか、全員動きを止めて、目を丸くしている。
え?何?何で?
「……ダメージ……『1』?……は?マジシャンだよな?コイツ?」
あ、もしかして……私がダメージ全然受けてないから、皆驚いてる?
私はすぐにステータス欄を除いて、自分のHPを確認してみる。
『20,332/20,332』
そういえば、愛依に衰弱付けちゃった時、愛依が「私の最大HP500くらい」とか言ってたけど、改めて私のステータスのバグりっぷり異常だよね。
……ん?っていうか私のHP、1すら減ってなくない?
あ、そうだ!パッシブスキルに、効果は『戦闘中でも一定時間毎に最大HPの1%づつHPが回復する』っていう『オートリジェネ』ってのがあった気がするから、たぶんソレのせいだ!
愛依に「HPとMP回復したかったら、その場で動かずにいればちょっとづつ回復する」とか聞いた気がするから、そのシステムを考えると、動きながらでも回復できる便利なスキルかもしれない。
でもちょっと待てよ?私の最大HPの1%って……1%でも『203』じゃない?
そして、相手の攻撃は『1』しかダメージ受けない。
つまり203回斬りつけられる前に、この『一定時間毎』がくれば、実質ノーダメージって事じゃない?
うん、普通に考えて203回も斬られる前に『一定時間』は来るだろう。
っていうか、203回も斬られてる間に、私が反撃する時間どれだけあるんだ?
まぁともかく、これって私が負ける要素皆無じゃない?
何だろう?圧倒的優位に立った事がわかったこの優越感。
無意識に、笑みがこぼれる。
たぶん傍から見たら、今私はかなり邪悪な笑みを浮かべているのだろう。
私ってもしかして、物凄くドSだったのだろうか?
「さて……斬られたんで、私も反撃するんで覚悟してください……」
私の言葉を聞いて、うろたえる5人組。
どうしよう……超楽しい!