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弱い子が強くなりそうな兆しを見せる

 人間の出す排気ガスもビルの明かりもない。まるで夏休みに田舎の祖父母の家で朝早くに起きて前日に木に塗った蜂蜜にカブトムシでも集まっていないかと期待して歩いているときのような安心できる自然の光景だ。よくわからない三角柱とでかいウジ虫とやばい格好の男の子さえいなければ。


「私が限界まで抗っても、少年達は見逃してくれるか?」


 アミラビリスが俺達の前に立って、二体の怪物と一人の変な格好をした男の子に向けて話しかけた。


「我々が必要なのは君だけだ。ほかの存在にわざわざ危害を加える意味はない」


「それはいい返事だと受け取ってもいいようだね」


 アミラビリスは金属の翼を背中に出現させた。同時に、空気が冷たくなって行くように感じる。


「肌寒いな。そこのルリムもどきくんのせいかな?」


 肌寒いなんてもんじゃない。肌が凍りつきそうだ。レイブ達は大丈夫かな。俺は振り向いた。


「どうしたの?」


 レイブ達はまるでなんの影響も受けていないような顔をしている。


「いやなんでもないです」


 そもそもこのままだと戦いの余波で俺達死ぬよな。手伝うか? でも俺は弱いからな。手伝ったところでどうにもならない。


「そう言えば、使えない実験体が二匹いるから始末しておけと言われていたな」


 金属柱の頭の男が、そんなことを言いながらロクとナナの方を向く。守らないと。


「君一人で何ができるのか教えて貰いたいものだな」


 その言葉が放たれた時、金属柱の男は俺の真後ろに立っていた。


「ドラゴンストライクッ」


 俺は振り向きざまにドラゴンストライクを叩き込む。しかし、柱の怪物はピクリとも動かず、三人の方へ歩き始めた。


「そこの機械。その二人をこちらに渡してくれないか? 引きはがすのが面倒でまとめて叩き壊してしまいたくなる」


 俺は何度も殴りつけるが、三角柱には傷一つつかない。


「面倒だな。お前から殺すか」


 三角柱がこちらへ振り向き、俺の頭を掴む。



「こっちだよ」


 レイブの言葉とともに細い光の線が一瞬で三角柱の頭を貫き、すぐにその光は収まってしまった。しかし、三角柱はバランスを崩してその場にうずくまった。俺はうずくまった三角柱を飛び越えてレイブの前に立ち、アミラビリスの方を向いた。既に体の四割ほどが氷に覆われている。頭だけを動かして俺達を確認したアミラビリスはこちらへ飛び、蔦のようなものを伸ばして纏めて掴んだ。


「よくやった。逃げるぞ!」


 アミラビリスはどういう原理かわからないが俺達を抱えたまま飛び上がった。そこにいた怪物たちはたちまち森の中の小さな点となった。


「まともに戦えば私たちに勝ち目はない。彼らは美術品に目がないが今は到底用意できるものではない」


 アミラビリスの目に涙が浮かぶ。そんなに恐ろしい存在なのか。


「だから。少年を利用させてもらう。約束破ってごめんね」


 あっそういう涙? もしかして俺死ぬのかな。


「ちょっ……」


「ごめんね。真二くん」


 その言葉とともに俺は地面に向かって投げ出された。それと同時にアミラビリスの翼から太陽のような火球が放たれ、俺にぶち当たった。俺はなにが分からないかもわからないまま意識を手放した。俺の見た最後の光景は、世界から消えるアミラビリスと、それに抵抗するレイブ達の姿だった。


「大丈夫かい? 龍の童」


 目を覚ますと、青空がある。背中に大地を感じる。仰向けだあ。俺は上半身を起こした。俺の目の前には茶葉のような深く暗い髪色の美少女がいた。肌も若干緑がかっている。ただ目だけが濁った泥水のような色をしている。しかも服がやばい。チャイナドレスの両脇がスリットになっていて、そこが紐で結ばれている。凄く官能的だ。立ち上がって周りを見渡すとごくわずかな植物だけが残る涸れきった大地が広がっている。


「まったく。大暴れだったねえ。わっしが減ってしまったよう」


 一体何が起きたんだ? 暴れた。俺が? りゅうのわらべってなんだ?

「なにもわかっとらんようだねえ。お前さんは龍になって暴れてたんだよ」


 龍になって? 確かに俺は龍から力の一部を貰ったが、龍そのものになった覚えはない。


「どうやら教えてやる必要があるようだな」


 その言葉に反応して振り返ると、後ろには鷹山さんと、髪も服も白い無表情な女性がいた。誰?


「説明するよ。君の中には龍の力の一部がある。それが暴走した」


 暴走したのか……。なんでかはもう置いとくとして、今後その暴走が起こったらまずいんじゃないか? それにアミラビリス達はどこへ行ったんだろうか。無事だといいんだけど。


「今度何かあったら俺が止めるから大丈夫。ところでアミラビリス知らない?」


 俺も知りたいよ。


「その様子だと知らなさそうだな。無事だといいんだけど」


 鷹山がそう言った後、緑の少女に目線を向ける。


「お前は誰だ?」


 誰なんだろう。


「わっしはイナゴだよう。少しシダを食いにきたらそこの龍に襲われてな、怖くて怖くてたまらんのや。助けてくれんか?」


 少女がわざとらしく身をすくめる。


「わかった。今度襲われた時は助けるよ。俺は鷹山直也。この少年が辰道真二で、後ろの白いのが……ソードさんだっけ?」


「ブレイドです」


 ブレイドさんか。どんな人なんだろう。


「わっしの名は跳渡(ちょうと)。跳躍の跳に渡来の渡でちょうとだよ」


 跳渡さんか。


「アミラビリス……。青い髪のでかい女を知らないか?」


「知っているぞ。何かに追われているように逃げていたな。子供を連れて」


 地面に座って自身の指を舐めながら、跳渡はそういった。アミラビリスの居場所を知っているんだ……。子供っていうのはレイブ達のことか?

「どこで見た!」


 鷹山は瞬時に跳渡の両肩を掴んで問いかける。


「教えてやってもいいが、わっしは腹が減っててないろいろ終わったらでいいから飯を奢ってもらいたい」


「もし奢らなかったら?」


 踏み倒す気満々だ。


「そこの肉付きの良い……エスパーダちゃ」


「ブレイドです」


跳渡の言葉に、ブレイドさんが食い気味に答える。俺は地面に若干足を崩して座った。


「そうそう。人質にしてもいいか?」


 半笑いで跳渡が鷹山に尋ねる。


「喰っていいよ」


 お菓子をあげるくらいの軽い言葉を鷹山が返す。ちょっと待てよ!?


「待って! 食べないで!」


 ブレイドさんが涙目になって訴えかける。


「冗談だよ」


「ほんの冗談だったのだがのう」


 ブレイドさんの額に血管が浮き出始めている。怒ってるな。俺は少し三人から距離を取った。


「とっとと助けに行け!」


 本当にそうだよな。そういえばブレイドさんは鷹山さんとどういう関係なんだ?


「そして私の世界を解放してくれ!」


 どういうことだ? なにかあったんだろうか。


「解放ってまるで俺が封じ込めてるみたいじゃないか」


「あなたは私が協力しなかったら私の世界を滅ぼすんだろ?」


「ああ」


「それなら同じじゃないか」


 それって、すっごい悪いことな気がする。


「真二くん。君の常識で善悪を判断しないでくれ。それに……」


 瞬時に鷹山さんが俺の後ろに移動し囁く。


「俺は彼女の世界を滅ぼそうなんて全く思ってないし、そんな力もない」


……なるほど。


「ブレイドさーん。世界滅ぼせないってー」


 俺は全力でブレイドさんに向けて叫んだ。


「なにすんだよ!」


 鷹山さんに怒鳴られた。まあそりゃそうだよな。そしてブレイドさんはなんだか迷っているようだ。


「そうですか。鷹山さん。死んでもらえませんか?」


 なんで?

 

「君はいいよな。俺を殺せば世界を救って貰える。俺とそこの少年は問答無用で世界を滅ぼされるんだぞ」


 そうなの!?


「それなら……。どうせ滅びるなら私のために……。死んでください!」


「断る。世界を消そうとしている存在を倒せば俺達の世界は救われる」


「無理だ。無数の世界を吹き飛ばせるような相手に人が敵うはずがない」


「そうか。じゃあ刀で決めよう」


 どうしよう。ほんとうにどうしよう。俺が行ってもどうにもならないか。


「ちょいとわっしと遊ばないか?」


 どこからか湧いた跳渡が俺の肩を掴んだ。そのまま俺は小さい手によって引きずられ、少し離れたところへ投げ出された。鷹山さん達が豆粒に見える。体の後ろの方が痛い。


「ここなら。少々つまみ食いしてもばれないかのう」

 そんな言葉を発し、跳渡は膨大な数の飛蝗を皮膚や服から生み出し、飛蝗はたちまち俺と跳渡を半径10メートルほどの半球を作って閉じ込めた。


「それは止めてもらおうか」


 すぐさま飛蝗は吹き飛び、跳渡の背後に鷹山さんが現れた。体の周りに蒸気が出ている。


「冗談じゃ。もう手は出さんし、案内してやるからその物騒な殺意を心の内にしまっとくれ」


「分かった。早く場所を教えろ」


「わっしが見たのはスペース9781だったのう。グ蔓穂レープ(ぐつるぼれーぷ)辺りに向かってるんじゃないか? 人を隠すには便利な街だからのう」


「分かった。いくぞ」


 鷹山さんが空間を叩き割り、俺の服を掴んで割れた空間の中に飛び込む。割れた空間の中は、掃除機やマスクのコマーシャルで見る繊維のイメージCGのような見た目だ。

 ここから行く世界はスペースの番号が振ってあるって事は俺の居た世界より発展してるのか、ちょっと楽しみだな。人を隠しやすいってのは人が多いってことだろうな。きっと近未来の東京みたいな見た目なんだろうな。

 突如として強烈な光が俺の目を襲い、俺は目を閉じた。


「着いたぞ」


 俺が目を開くと、俺達はネオンとビルが乱立し、空は雲に覆われ、ビルとビルの間に積まれているゴミ袋のうちいくつかが動いていて、いかにも暗い雰囲気が立ち込めている街の誰もいない大通りの歩道に立っていた。


「誰もいないな」


 本当に誰もいない。なんでだろうか。


「……て」


 レイブの声? そっちの路地裏からだ。俺は鷹山さんの服の裾を引っ張り、近くの路地裏へと入った。


「ちょっ路地裏はあぶないよ」


 俺は、路地裏のゴミ袋の一つ。声と連動して震えている袋を破った。


「……て……れた」


 そこには体中に四角い穴が開き、左目のあった部分がえぐり取られて火花を散らしているレイブの姿があった。

ブレイドさんは死にました。鷹山さんは酷い人です。

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